映画評「オリエント急行殺人事件」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1974年イギリス映画 監督シドニー・ルメット
ネタバレあり

余りにも有名なアガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」を映像化した秀作で、この作品の成功により映画界に10年近いクリスティ・ブームが起こった。

推理小説としてはアンフェアと言わざるを得ない結末が待っているが、映画版はその豪華さに当時圧倒された。
 探偵エルキュール・ポワロに扮するのがアルバート・フィニー、殺される富豪にリチャード・ウィドマーク、オリエント急行の持ち主にマーティン・バルサム、乗客はイングリッド・バーグマン、ローレン・バコール、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、マイケル・ヨーク、ウェンディー・ヒラー等オールスターである。こんな豪華なメンバーが雪に進行を阻まれた寝台車の中で繰り広げる演技合戦を見るだけで、映画ファンなら気持ちが高揚しないではいられない。
 大団円の場面では回想を巧みに織り込んで、シドニー・ルメットが鮮やかな包丁捌きを見せる。

ポワロ像に関して色々ご批判があるようだが、僕のポワロ像はこのアルバート・フィニーが一番近い。傑作「ナイル殺人事件」など数作でポワロを演じたピーター・ユスティノフより感じが出ていて、却って良いくらいだ。

この記事へのコメント

用心棒
2005年10月28日 18:04
オカピーさん、こんばんは。やってまいりました。シドニー・ルメット監督の作品って、結構知らないうちに沢山見ていたんですよ。小学校時代とかって監督なんてあまり気にしませんもんね。『評決』、『十二人の怒れる男』、『狼たちの午後』など好きで見ていて高校上がる前くらいになって初めて監督に目が行くようになりました。

 『オリエント急行殺人事件』もそのノリで見ました。基本的にクリスティーに代表されるミステリー物は一回見てしまうと面白みの大半が失われ、2回以上はなかなか見れないのですが、これは見せ方が上手いし、雰囲気もうまく撮られていて良い作品だと思いました。ではまた。
オカピー
2005年10月29日 01:15
用心棒さん、こんばんは。
 シドニー・ルメットは熱狂的なファンを生むタイプの監督ではありませんが、字体で言えば楷書体のしっかりした絵作りと展開で、外れの少ない監督ですね。余り観る機会のない「質屋」は異色ですが、これは鬼気迫ります。
 二度目の鑑賞だったので簡単に処理しましたが、もっと細かく書けばよかったかなあ。
 また、お出でください。
カカト
2006年02月03日 16:30
トラックバックしました。
「ナイルの殺人」を観て、二人のポアロ像を見比べて観たいと思います。
おすすめのポアロものがあったら教えてください。
オカピー
2006年02月04日 15:28
カカトさん、こんにちは。
「ナイル殺人事件」が断トツですが、苦い思い出があります。25年前映画館で観た時、後ろの馬鹿ップルが彼氏が彼女に犯人を教える声が聞こえたのです。嗚呼何たること。バカヤロー。
おっと失礼。後は「地中海殺人事件」がまずまずですが、この二作よりは大分落ちます。でも、見方にもよりますので・・・
viva jiji
2006年05月10日 17:25
S・ルメットは「質屋」なんです、私には!ロッド・スタイガーも「質屋」のロッド・スタイガーが一番好みです。
そうです、まさに鬼気迫るとはこのことでしょう!アレにアレが突き刺さるとこね・・・。でも、何故かわからないのですが「質屋」を観ると「ミッドナイト・エクスプレス」(A・パーカー)も観たくなるのです。どっちも暗くて重たいのですが、名作と、私は思っています。
オカピー
2006年05月11日 13:11
viva jijiさん、こんにちは。一日遅れのレスですみません。
「質屋」を観たことがあるという人自体が多くないのに、「質屋」に目をつけるとはさすがですね。
いきなり印象的な場面から始まりましたね。ユダヤ人ものがああいう切り口だと別の凄みを感じます。
「ミッドナイト・エクスプレス」共々、人間の尊厳を踏みにじられる世界を(に)生きる人間の叫びが聞こえるような作品でしたね。
SUZU
2010年10月20日 22:28
こんばんは。いつもTBお世話になっております。
初コメントでドキドキです…

「ナイル殺人事件」のポワロも貫禄あってよかったですが、こちらのポワロの役作りは関心しちゃいます。
謎も、今まででは考えられないトリック(?)で、今観ても古臭さを感じない斬新な物だったと思います。
オカピー
2010年10月21日 00:37
SUZUさん、早速有難うございます。

>ポワロの役作り
アルバート・フィニーの普段は全然違いますからね。

>トリック
中学生の時に原作を読んでいたので初めてこの映画を観た時(高校生?)には特別に驚きませんでしたが、この犯人は誰も想像しえないですよね。
蟷螂の斧
2021年09月06日 17:53
こんばんは。日野康一先生の著作「ショーン・コネリー」に「結末は誰でも知っている。だからオールスターにして観客を集めようとする魂胆か。」と書いてありました。僕は結末を知らないままでした。そして昨夜この作品を見ました。面白かったです。そしてラストで驚くと共に面白いとも思いました。双葉師匠も著作でこの作品を褒めていました。原作の方はあまり好きではないようです(笑)。
中年のスウェーデン人宣教師が地味な印象。演じてる女優が誰かと思ったら
イングリッド・バーグマン!当初ドラゴミロフ公爵夫人役を打診されたそうですね。しかし宣教師役を熱望してアカデミー賞助演女優賞を獲得。やりますねー!

>「リボルバー」

僕が若かった頃、アルバムを聞く時に飛ばしたくなる曲がいくつかありました。でも「リボルバー」はそういう気持ちにならないんです。まとまりが良いアルバムなのでしょう。

>京アニの事件もその類でしょう。

あれは酷過ぎです・・・!
モカ
2021年09月06日 21:32
こんばんは。

ダビング物件を持っているのにNHK版は字幕が違うかなぁ、と又ダビングしてしまいましたよ。昔のNHKの字幕は良かったような気がします。

これは公開時に観ておりまして、私の記憶ではこの映画までは今のような入れ替え制はなくて、初めての「上映中の出入り禁止で入れ替え制」だったと覚えています。
バイトしていた映画館だったので母が用があって電話してきて、その旨を言われてビックリしていました。家に帰ったら「どんな映画見てきたん?」 笑…
それから「これから観る人に結末を言わないで下さい」とかどっかに書いていたような気もします。
私はアルバートフィニーが好きなのでこのポワロも好きですが、多分イメージに一番近いのはテレビで長きに渡ってポワロを演じたデビッド スーシェでしょうね。
エルキュールという名前が洒落になるのはやはり小柄でないといけませんものね。
アルバートフィニーは小さく見せるのに苦労したとか。
余談ですがフィニーの先生はチャールズロートンだったようで、言われてみれば芸風や中年以降の顔つき、体型とか似ていますよね。
オカピー
2021年09月07日 12:23
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>双葉師匠も著作でこの作品を褒めていました。
>原作の方はあまり好きではないようです(笑)。

二つ理由があると思います。
一。クリスティー全般について、奇をてらい過ぎている、ということ。
一。原作が最初に翻訳された時に「十二の刺傷」という身も蓋もない邦題が付けられたこと。戦前で、まだ出版社のミステリーについての理解が浅かったのでしょうね。

>アルバムを聞く時に飛ばしたくなる曲がいくつかありました。

実際にそうすることはありませんが、僕にも、そういう曲が僅かですけれど、ありますね。
 僕にとっては「ラバー・ソウル」が、一番捨て曲がないです。「アビイ・ロード」も良いですが、I Want Youは少し長い。今はブルースへの興味が大分増えたので、昔ほどではないですが。
 この間から、聴きたくない(僕は決して飛ばさないので、聴かない、ではない)ビートルズの10曲をブログに書こうかと密かに思っていたところです(笑)
オカピー
2021年09月07日 12:42
モカさん、こんにちは。

>昔のNHKの字幕は良かったような気がします。

ふーむ。差別用語云々で、改訳されていることが多いせいでしょうかねえ。
言葉という表面をいじることが差別撤廃にとって良いことなのか疑問に思うところもあるので、差別用語に関しては概して批判的なのですが。

>上映中の出入り禁止で入れ替え制

モカさんも触れているように、幕切れを先に見せないためですね。
 現状の入れ替え制が本格的に始まったのは、1980年代半ば新宿の何とかいう、アート系を中心にかけていた映画館からでしょう。行った時間が中途半端だったということもあり、結局別の映画館で別の映画を観ることにしたという(苦い?)経験をしました。

>多分イメージに一番近いのはテレビで長きに渡ってポワロを演じたデビッド スーシェ

そう仰ることが多いですね。
僕は「アクロイド殺人事件」しか観ていないのですが、映画にミステリーが少ない現状を考えると、今でもNHKが流していますから、もっと積極的に観ても良いな。

>フィニーの先生はチャールズロートンだったよう

ほーっ、そうですか!
日本のWikipediaには書いていないなあ。その代わりアヌーク・エメと結婚していたとあります。そうだったけか。すっかり忘れていました。
モカ
2021年09月07日 22:06
こんにちは。
デビッド スーシェの「オリエント急行」も良いですよ。TVですから当然この映画に比べたら地味だし尺も短いですが役者陣が渋くて良いです。
プロローグに原作にはない罪と罰にまつわるエピソードを入れて、それがラストのポワロ苦渋の決断にリンクしていて映画とは一味違ってます。
機会があれば是非どうぞ! アマゾンでは有料ですかね…
オカピー
2021年09月08日 21:09
モカさん、こんにちは。

以前のコメントで“そう仰ることが多い”というのは“そう仰る方が多い”の打ち間違いです。正しく理解されたと思いますが、念の為(笑)。

>ラストのポワロ苦渋の決断にリンクしていて映画とは一味違ってます。

2017年のケネス・ブラナーのバージョンもそれと似たようなことをやっていたような気がしますが、原作を知っている人にはあの映画の改変はひどかったと思います。

>機会があれば是非どうぞ! アマゾンでは有料ですかね…

今の多忙さを考えると、別料金を払ってまで観ようとは思いませんが、チャンスがあれば絶対に!
NHKへ行ってチェックしてみたら「オリエント」は割合最近やったところらしい。遅かりし由良之助!(古い)
で、9月11日が最終回とか。とほほ。

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