映画評「トロイ」

☆☆★(5点/10点満点中)
2004年アメリカ映画 監督ウォルフガング・ペーターゼン
ネタバレあり

ホメロスの有名な「イリアス」をベースに映画化したものであるが、大いに疑問を覚えた。「イリアス」では確かにアキレスは重要な人物であるが主人公として扱うのは無理があるし、まして神話上アキレスが死んだ後展開された木馬作戦まで延長するのはかなり難しい。木馬作戦を語るには「イリアス」以外のギリシャ神話や悲劇を組み込まねばならないが、そうなるとギリシャ側から主人公を選ぶならアキレスではなくアガメムノンにする必要がある。結果から判断しても、アガメムノンを主人公にすべきであったろう。因みに、「イリアス」では映画でも描かれたトロイのプリアモス王がアキレスに懇願するところで終わる。

「イリアス」をベースにしているので、アガメムノンの妻クリュタイムネストラは出てこず、トロイ王の次男パリス(オーランド・ブルーム)がいきなりスパルタ王メネラオスの后ヘレン(ディアーヌ・クルーガー)を奪って帰国した次にはメネラオス王の兄で総大将アガメムノンがトロイに向けて出発する場面になってしまう。つまりアガメムノンが実の娘を生贄に捧げる悲劇もない。これは終盤アガメムノンが故国の妻ではなく、戦闘中に殺されるという筋書きへの伏線ともなっているわけで、古典的な悲劇性などは全くお構いなし、とにかくロマンスと戦闘だけを見せれば良いだろう、という脚本家デーヴィッド・ベニノフの安直な考えが伺われる。同じ題材のギリシャ悲劇として観れば、昨年見たTV映画「トロイ」の方が遥かに良いが、本作がスケール感では明らかに数段上である。

最大の問題は、プリアモス王の懇願で終わる「イリアス」に追加した部分(木馬作戦)で、その前後でアキレスの人間性に明らかな矛盾がある。あれほどアガメムノンを嫌っていた誇り高いアキレスが彼の指揮する卑怯な木馬作戦に参加した理由が全く分からないのである。恋するトロイの姫(にして巫女)ブリセウス救出の為ということになっているが、単にそれだけでは原作やその他のギリシャ悲劇のような運命と戦略のダイナミズムが醸成されるべくもなく、前半で描いてきたアキレス像は脆くも崩れ去る。製作者は案外「ロード・オブ・ザ・リング」の向こうを張ったつもりではないか。

この記事へのコメント

豆酢
2007年07月02日 15:53
プリフェっサー、TB&コメントありがとうございました。

ええ、もう、「ロード~」の柳の下にはドジョウはいませんでした、という典型的な例でしょうね(笑)。
なにもかもが大味で、こんなに盛り上がらないドラマも珍しいと思います。昨日見てきた「300」も同様で、CG満載時代の映画のひとつの不幸な例でしょう。CGに頼りすぎる前に、も少しドラマの組み立て方を考えて欲しいです。いくらコミックが原作とはいえ単調すぎました。私、スクリーンで残酷な殺し合いが繰り広げられている最中、寝てしまいましたよ(爆)。

とはいえ、こちらはイーリアスという立派な物語が原作…。映画と原作を比較するというのは無粋ですのであえてしませんが、原作を無視しても、単純に面白くなかったですね。
オカピー
2007年07月03日 00:49
豆酢さん、いらっしゃい(笑)。

「300」については未見で何とも言えませんが凡そ見当が付きそうな気がします。
昨今の映画は「描写ありき」ではなく、「CGありき」なんですよ。これは映画の作りを下手にする大きな原因。

私も原作と映画の差を検討することはあってもそれを映画の評価のベースにはしません。しかし、人口に膾炙している古典文学で描かれたことは史実に等しいので、改変は望ましくないと思います。
逆に言えば、構成がしっかりしているから古典文学は古典になっているので、それを無理に変える必要はないわけです。翻案の場合は事情が違いますが。

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  • <トロイ> 

    Excerpt: 2004年 アメリカ ウォルフガング・ペーターゼン監督 163分 製作:ウォルフガング・ペーターゼン  ゲイル・カッツ    ダイアナ・ラスバン  コリン・ウィルソン 脚本:デヴィッド・ベニオフ 撮影.. Weblog: 楽蜻庵別館 racked: 2005-11-09 00:42
  • 「トロイ」の功罪Part2

    Excerpt: ブラッド・ピットは、ホメロスの叙事詩「イリアス」を映画化するにあたり、神と人間の間に生まれたとされる英雄アキレスを演じることになりました。この企画には、彼が経営する製作会社プランBも携わりました。アキ.. Weblog: 豆酢館 racked: 2007-07-02 15:45