映画評「誰も知らない」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2004年日本映画 監督・是枝裕和
ネタバレあり
最近これほど涙を流した作品はないが、これほどの星を進呈したのは必ずしもそのせいではない。
男=女=男=女という兄弟を率いたシングルマザー(YOU)が古いアパートに越してくる。彼女は新しい男ができる度に男についていき姿を消す。時々帰ってくるが、やがて遂に帰らず、仕送りも途絶える。長男(柳楽優弥)が学校にも行かずに下の子供たちの面倒を見るが、友人たちにも相手にされなくなり、次第に気持ちがすさんでいく。ある時彼がいない間に末の妹が高所から落ちて死ぬ。長男は不登校になった女生徒と一緒に妹が憧れていた飛行機の見える成田空港に遺体を運んで埋める。その直前に妹が好きだったチョコレートを手に余るほど買う場面があり、無性に切なくなる。
是枝裕和監督はドキュメンタリー出身で、これも殆どドキュメンタリーと言える描写に徹底している。即実的な描写により情緒を高度に豊かに導き出しているのに非常に感心した。
本作より受ける感動は少女の死そのものより、親の無責任への怒りと、子供らの悲哀とその絆にこそあると言うべきであろう。監督は本作からどんな印象を持っても自由と仰っているようだが、YOU扮するシングルマザーに寄せる共感には疑問がある。絆がテーマであるこの作品において母親だけが異質なのである。
人間は権利だけを有しているわけではない。彼女は幸福に生きる権利を主張するが、子供を作った者が果たすべき義務を殆ど無視している。子供を育てることが幸福と考える人が少なくない以上、子供を育てることに男と付き合うこと以上の価値観を見出せないのは、彼女の人格であり我儘としか思えない。普遍的な幸福追求と混同してはいけないのではないか。
子供たちの演技が評判だが、素晴らしいのは是枝監督の導演と言うべきで、どうやって子供たちに演技をさせずに演技させたのだろうか。驚異的である。
2004年日本映画 監督・是枝裕和
ネタバレあり
最近これほど涙を流した作品はないが、これほどの星を進呈したのは必ずしもそのせいではない。
男=女=男=女という兄弟を率いたシングルマザー(YOU)が古いアパートに越してくる。彼女は新しい男ができる度に男についていき姿を消す。時々帰ってくるが、やがて遂に帰らず、仕送りも途絶える。長男(柳楽優弥)が学校にも行かずに下の子供たちの面倒を見るが、友人たちにも相手にされなくなり、次第に気持ちがすさんでいく。ある時彼がいない間に末の妹が高所から落ちて死ぬ。長男は不登校になった女生徒と一緒に妹が憧れていた飛行機の見える成田空港に遺体を運んで埋める。その直前に妹が好きだったチョコレートを手に余るほど買う場面があり、無性に切なくなる。
是枝裕和監督はドキュメンタリー出身で、これも殆どドキュメンタリーと言える描写に徹底している。即実的な描写により情緒を高度に豊かに導き出しているのに非常に感心した。
本作より受ける感動は少女の死そのものより、親の無責任への怒りと、子供らの悲哀とその絆にこそあると言うべきであろう。監督は本作からどんな印象を持っても自由と仰っているようだが、YOU扮するシングルマザーに寄せる共感には疑問がある。絆がテーマであるこの作品において母親だけが異質なのである。
人間は権利だけを有しているわけではない。彼女は幸福に生きる権利を主張するが、子供を作った者が果たすべき義務を殆ど無視している。子供を育てることが幸福と考える人が少なくない以上、子供を育てることに男と付き合うこと以上の価値観を見出せないのは、彼女の人格であり我儘としか思えない。普遍的な幸福追求と混同してはいけないのではないか。
子供たちの演技が評判だが、素晴らしいのは是枝監督の導演と言うべきで、どうやって子供たちに演技をさせずに演技させたのだろうか。驚異的である。
この記事へのコメント
私もこの母親への共感はまったく持てません。自分で生きるすべのない子供を放り出すなんて、自分勝手もいいところです。そんなら最初から子供なんて生むな!といいたくなってしまいます。辛くて痛い作品ですが、多くの人に見てもらいたい作品ですねー。
映画の出来栄えとは直接関係のないことですが、【人間は結局一人では生きられない】という当り前の事実を考えれば、他の個の為に何かをすることが自分に跳ね返ってくる。「言わんや、自分の子をや」です。
人間は弱いものであるということは解りますが、今の利己主義は民主主義と個人主義の誤解から生まれたものであると思うと、日本の戦後教育は全く失敗だったのでしょう。僕はそう思っております。
二度観るのは辛い作品ですが、一度は観ておきたい秀作ですね。
>子どもたち同士のコミュニケーション
大人でも近いことはやれるかもしれませんが、子供相手ならではの演技指導。そういう意味では新しいタイプの映画作りとも言って良いですね。
川瀬直美女史もきっと同じようにして作っているのでしょう。