映画評「殺人の追憶」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2003年韓国映画 監督ポン・ジュノ
ネタバレあり
韓国映画は確かに面白いものが多いが、皮相的な面白さで終わるものが多く、「シュリ」「JSA」でも感心するところまでは行かなかった。これは86年から91年にかけて韓国で起きた連続殺人事件を基にした社会派ミステリーで、日本映画のかつての傑作「砂の器」を彷彿とする堂々たる出来栄えである。
ソウルから南に下って50kmの田舎で連続殺人事件が起き、ソウルから訪れた刑事キム・サンギョンが事件のいずれもが雨の晩に起こり、被害者が赤い服を着ていたという共通性を発見。地元の刑事ソン・ガンホは精神薄弱の青年を逮捕し自白を引き出すが、サンギョンは青年が器用に手を使えない事実から犯人とはありえないという結論を導き出す。直後、婦警が事件当日の晩に余りヒットしていない同一の曲がかかっていることに気づき、リクエストをしていた男を犯人と推定するが、肝心の証拠がない。精神薄弱青年が犯行を見ていたのだが犯人を決め付ける前に列車にはねられて死んでしまう。万策尽きたと思っていたところ衣服についた精液が発見されるが、当時の韓国ではDNA検査が出来ずアメリカに送る。が、結局容疑者のDNAとは一致せず、容疑者は釈放されることになる。
都会から来た刑事が最初のうちは鑑識やデータを重視し、足で歩く田舎の刑事との相容れないものがあったのが、事件の難解さから徐々に客観性を失っていく様子は事件の奥深さを物語る。即ち、監督ポン・ジュノは夜8時からの灯火管制が行われていた当時の政治情勢がこうした犯罪を生む土壌となっていたことを示しているようだが、実に興味深い。田舎の刑事に扮するソン・ガンホも良い。
ミステリーとして細かな瑕疵があるが、ここでは触れずにおく。
15年後即ち2003年辺り刑事を辞めていたガンホが最初の被害者が発見された土管の中を覗いている。そこへ少女が訪れ「どこにでもいそうな顔のおじさんも覗いていた。昔やったことを確認しにきたと言っていた」と言うのである。主人公だけでなく我々も証拠不十分で釈放された容疑者を思い出さずにはいられず、黄金色の畑に深い余韻を湛え、終わる。
2003年韓国映画 監督ポン・ジュノ
ネタバレあり
韓国映画は確かに面白いものが多いが、皮相的な面白さで終わるものが多く、「シュリ」「JSA」でも感心するところまでは行かなかった。これは86年から91年にかけて韓国で起きた連続殺人事件を基にした社会派ミステリーで、日本映画のかつての傑作「砂の器」を彷彿とする堂々たる出来栄えである。
ソウルから南に下って50kmの田舎で連続殺人事件が起き、ソウルから訪れた刑事キム・サンギョンが事件のいずれもが雨の晩に起こり、被害者が赤い服を着ていたという共通性を発見。地元の刑事ソン・ガンホは精神薄弱の青年を逮捕し自白を引き出すが、サンギョンは青年が器用に手を使えない事実から犯人とはありえないという結論を導き出す。直後、婦警が事件当日の晩に余りヒットしていない同一の曲がかかっていることに気づき、リクエストをしていた男を犯人と推定するが、肝心の証拠がない。精神薄弱青年が犯行を見ていたのだが犯人を決め付ける前に列車にはねられて死んでしまう。万策尽きたと思っていたところ衣服についた精液が発見されるが、当時の韓国ではDNA検査が出来ずアメリカに送る。が、結局容疑者のDNAとは一致せず、容疑者は釈放されることになる。
都会から来た刑事が最初のうちは鑑識やデータを重視し、足で歩く田舎の刑事との相容れないものがあったのが、事件の難解さから徐々に客観性を失っていく様子は事件の奥深さを物語る。即ち、監督ポン・ジュノは夜8時からの灯火管制が行われていた当時の政治情勢がこうした犯罪を生む土壌となっていたことを示しているようだが、実に興味深い。田舎の刑事に扮するソン・ガンホも良い。
ミステリーとして細かな瑕疵があるが、ここでは触れずにおく。
15年後即ち2003年辺り刑事を辞めていたガンホが最初の被害者が発見された土管の中を覗いている。そこへ少女が訪れ「どこにでもいそうな顔のおじさんも覗いていた。昔やったことを確認しにきたと言っていた」と言うのである。主人公だけでなく我々も証拠不十分で釈放された容疑者を思い出さずにはいられず、黄金色の畑に深い余韻を湛え、終わる。
この記事へのコメント
「大統領の理髪師」については、群馬の山奥に住んでいますので、この手の作品はすぐには観られません。すみません。
「チャーリーとチョコレート工場」は、【奇妙な味】で知られた推理作家ロアルド・ダールが書いた童話で、70年代に映画化されていますが、日本未公開。TVで観られたとしたら貴重な体験でしたよ。
また、お越しください。
群馬ですか・・・。お嫁さんが、榛名出身です。チャップリンの黄金狂時代
を、さっそくビデオやで借りたいと思います。
後味は悪いですが、映画の出来栄えは重量感たっぷりで、見事でしたね。幕切れの黄金色の畑は強烈でした。
日本では3億円事件の時効の時が大騒ぎだったのを思い出します。韓国ではこの事件なのかもしれませんね。
御記事をTBさせていただきました <(_ _*)>
あ、やっぱり『砂の器』だと思われたのですね~。私もそうだったのです。このポン・ジュノって監督は、邦画をよく観てるんだなって嬉しくなってしまって。
ミステリーとしての破綻・・・わたしも感じたのですが、映画は小説と違い、どうしても小さなホコロビが生じてしまうようです。
とはいえ、そういう傷が気にならぬほど、ポン・ジュノの筆致は雄大にして繊細で、私のお気に入り作品となりました。
あの余韻深きラストについて、私は「後味が悪い」というよりは、ジーンと痺れるような感動に浸っておりましたです。
コメント、ありがとうございました。
>後味
映画の後味というよりは、ぶーすかさんの文章も考慮して、実際の事件のことを加味して述べたつもりでした(汗)。
私もあの黄金色の風景には圧倒されました。余韻を湛えるというのは、あのことですね。
私は人間ドラマに圧倒されて、風景までは感想には書ききれなかったけど、あの黄金色の田園風景の光と、用水路やトンネルの闇が対照的で、映像にもかなりの繊細さを感じますね。二人の刑事も含め彼はこの映像でさまざまな対比を描いている。一筋では書ききれない奥行きのある作品だと思います。優一郎さんもグエムルがお気に入りで私と大いに盛り上がったんだったわ。
カラックスとかと組んだオムニバス映画「TOKYO」がもう直ぐ公開。楽しみです。
>当時の時代の闇
その通りですね。
「ゾディアック」と違って、実話をベースにしたフィクションだと思ったから、本作と比較する気にはなれなかった。
気分は「砂の器」で、雨の多い描写に「セブン」も頭を過りました。
>優さん
うーん、どうしたことか。
>TOKYO
僕は、ミシェル・ゴンドリーが楽しみ。ポンさんも面白そうですね。