映画評「“アイデンティティ”」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2003年アメリカ映画 監督ジェームズ・マンゴールド
ネタバレあり、未見の人は読むべからず
アイデアが抜群なホラー映画。殊勲者は監督ではなく脚本のマイケル・クーニーである。
大雨の日、交通事故を起こしてしまった運転手ジョン・キューザックが被害者の女性とその家族と共にモーテル直行する。雨で病院への道も絶たれ、携帯電話も役に立たない極限状況だったからである。そこへ刑事レイ・リオッタと護送中の犯人、故郷に戻って出直そうとしている美人アマンダ・ピートなど計10人が客として留まる羽目になるのだが、運転手の雇い主である女優レベッカ・デモーネーが殺されたのを皮切りに次々と客が怪死、逃亡した犯人が犯人と思われたが本人も殺され、モーテルの主人(のふりをしている男)に疑いがかかる。が、その後も次々の怪死が続き、アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を思わせる展開になる。
実はこれはバーチャルな事件であり、実際には何も起こっていないことが終盤明らかになる。が、それでも観客は最後まで手を抜いて観ることができない。それほど作劇が鮮やかであり、アイデアが優秀なのである。
つまり、これは多重人格者の中の各人格同士の戦いであり、明日に死刑を控えた死刑囚最後の聞き取りの中で彼の頭の中で起こっている事件であり、最後に凶悪な人格が死んだ時彼の死刑は中止になる。
具体的に言えば、(犯人の頭の中で)刑事と思われていた男が意外な正体を現し、アマンダ一人を残し彼が死んだ時凶悪な人格は消え、(現実の世界で)処刑は中止となり、犯人はアマンダの人格で病院へ護送されていく。
というお話なのだが、これでお話は終わらない。さらに驚くべきどんでん返しが待っているのだが、個人的には護送の段階で終わるべきだと思っている。確かにびっくりなのだが、後味が悪くなった(後味の良いホラーというのは殆どないわけではあるが、出来栄えの判断という意味において)。
しかし、多重人格者の頭の中の出来事なので【ご都合主義】は存在しない。バーチャルなのにその中の人物の生死が意味をなし、その一挙手一投足に手に汗を握らなければならないという作品は全く初めて。全くうまい手を考えたものだと、感心するしかない。
2003年アメリカ映画 監督ジェームズ・マンゴールド
ネタバレあり、未見の人は読むべからず
アイデアが抜群なホラー映画。殊勲者は監督ではなく脚本のマイケル・クーニーである。
大雨の日、交通事故を起こしてしまった運転手ジョン・キューザックが被害者の女性とその家族と共にモーテル直行する。雨で病院への道も絶たれ、携帯電話も役に立たない極限状況だったからである。そこへ刑事レイ・リオッタと護送中の犯人、故郷に戻って出直そうとしている美人アマンダ・ピートなど計10人が客として留まる羽目になるのだが、運転手の雇い主である女優レベッカ・デモーネーが殺されたのを皮切りに次々と客が怪死、逃亡した犯人が犯人と思われたが本人も殺され、モーテルの主人(のふりをしている男)に疑いがかかる。が、その後も次々の怪死が続き、アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を思わせる展開になる。
実はこれはバーチャルな事件であり、実際には何も起こっていないことが終盤明らかになる。が、それでも観客は最後まで手を抜いて観ることができない。それほど作劇が鮮やかであり、アイデアが優秀なのである。
つまり、これは多重人格者の中の各人格同士の戦いであり、明日に死刑を控えた死刑囚最後の聞き取りの中で彼の頭の中で起こっている事件であり、最後に凶悪な人格が死んだ時彼の死刑は中止になる。
具体的に言えば、(犯人の頭の中で)刑事と思われていた男が意外な正体を現し、アマンダ一人を残し彼が死んだ時凶悪な人格は消え、(現実の世界で)処刑は中止となり、犯人はアマンダの人格で病院へ護送されていく。
というお話なのだが、これでお話は終わらない。さらに驚くべきどんでん返しが待っているのだが、個人的には護送の段階で終わるべきだと思っている。確かにびっくりなのだが、後味が悪くなった(後味の良いホラーというのは殆どないわけではあるが、出来栄えの判断という意味において)。
しかし、多重人格者の頭の中の出来事なので【ご都合主義】は存在しない。バーチャルなのにその中の人物の生死が意味をなし、その一挙手一投足に手に汗を握らなければならないという作品は全く初めて。全くうまい手を考えたものだと、感心するしかない。
この記事へのコメント
私はこれも辛口批評になっちゃってます・・w難しい映画が苦手なせいですねw
こちらからもさせていただきました。
これはほんとにアイディアに感心して
うなりました。
人物の生死に意味をなし~
という表現のうまいですね。
確かに、それが重要なポイントなんですね。
TB入っていないみたいです?
この作品は、サスペンスとして観ないと矛盾や破綻を感じてしまいますね。バーチャルの人物の生死とそれを体験している人物の生死を直結させた初めての作品と思います。
こちらにコメントいただいてありがとう
ございました。
TBすぐに反映されないのかと思ってましたが、
TBできてないのですね。
何度か試みたのですが、やはりTBできません。
すいません、コメントのみで。
おかしいですねえ。ブロックしていないのですが。ユカリーヌさんの感想には共感しましたので、是非TBを入れたかったですが、仕方がありません。
よく注意してみていれば、気づいたのでしょうけれど。。。
ラストについては、私も同意見です。車の中で真犯人が登場してすぐ、くらいで終わっていれば韻を含んでいてよかったですよね。
TBさせていただきます。
私がこの作品を絶賛するのは、最初のどんでん返しの後も興味を続かせることが出来た設定です。ヴァーチャル・リアリティーの中で進行するお話に見事に<現実的な意味>をもたらしたのです。
「マトリックス」を始め、これまでの仮想現実ものは、いくら世間的に評判をとろうとも、結局その<現実的な意味>という壁に跳ね返されていたように思いますが、本作は超えました。その意味でもっと評価されても良い作品ですが、そこまで分析できない観客が多いようですね。
脚本が緻密でうまいですねぇ。シナリオ学校のテキストとなる作品だと思います。
その割にkimionさん、星が少ないんだから(笑)。
良い脚本ですねえ。
そこで注目してみた脚本のマイケル・クーニー氏ですが、やはりこうした秀逸なアイデアはそうそう出るものではないようで、「Re;プレイ」は策に溺れた感じで面白くなかったです。しょぼ~ん。
脚本の勝利ですね。びっくりしました。こんな手があったかと。
以下ネタばれですが…
ラストがどうなったか、もしかして分からないというのは、ありませんか?
クルマが止まったところの遠景で終わっていましたよね。バッドエンドじゃない可能性は、ないでしょうか?
ところで、我が家でリンクさせていただきましたので、私が見た映画が見当たりましたら、また、おじゃまします!(追い払わないでください)
>脚本の勝利
正に。
僕は本作は「セルラー」のような純娯楽作が大手映画雑誌などのベスト10に食い込んでもらいたいと思っていますが、そこまでの度量が評論家にないんですよねえ。問題作ばかりが映画じゃないだろうに。
>バッドエンドじゃない可能性
う~ん、思いがけない人物が残っていた、という時点でバッドエンドだと僕は思いましたが。
全体的なドラマツルギーを考えて、車が止まったこと自体が<それ>を示すと僕は考えました。
直接描写がないので、勿論、こちらの想像と違う終わり方もあり得るわけですが、それなら護送のまま遠のいて行くだけで良いのではないでしょうか。
>リンク
おおっ、そうでしたか。
こちらからTBはできませんが、ご遠慮なさらずにどんどんお願い致します。
現在ばりばりに公開されている作品はまずないですが、劇場公開から1年以上経っている作品ならかなりあると思いますので、宜しくお願い致します。
こちらにもリンクしておきますね。