映画評「白いカラス」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2003年アメリカ映画 監督ロバート・ベントン
ネタバレあり
ふと洩らした発言が黒人差別と誤解され、辞職に追い込まれた名門大学の学部長アンソニー・ホプキンズは、この事件により妻を発作死で失ってしまう。やがて湖畔で隠遁生活を送る作家ゲイリー・シニーズを訪ね、この事件の顛末を執筆するように依頼する。作家は丁重にお断りするが、二人の間に友情が芽生え、元学部長は30代の人妻ニコール・キッドマンと恋愛関係に陥ったことを告げる。
かかる経緯で始まる人間ドラマでロバート・ベントンの抑制された演出が随所に光る。“作家”はいわば狂言回しで、彼を巡り若干無駄に流れる部分もあるが、大きな欠点とまでは言えない。
さて邦題の「白いカラス」(邦題として実に秀逸)とは何か。最終的には掛詞のように二つの意味を持ってくるように思うが、まずはホプキンズ演ずる元学部長を指す。
彼はみかけは白いが実は純粋な黒人で、最初の彼女に振られて以来家族とも縁を切ってユダヤ人のふりをして学部長にまで上り詰めたのである。この秘密は妻にさえ告白していなかったわけだが、浮気の最中に子供を焼死させ、病的な暴力を振るうベトナム復員兵の夫エド・ハリスから逃避しているニコールと通じ合うものを感じ、遂には秘密を告白するのである。
その秘密は辞職を留めるに十分なものであったほどの重大なものであるのに、それを許さなかったアメリカという国に潜む人種問題(に留まらない)を浮き彫りにする。こういう形でこの問題を訴えた作品は恐らく過去になく、感嘆させられた。
二コールは拾ったカラスに向って「カラスになりたい」と言う。彼女も白いカラスである。この二人の白いカラスが響き合って最後は悲劇的な結末を迎え、作家はこの悲劇を綴る思いになる。
各誌ベスト10発表などを見てもあまり冴えないが、もっと評価されて良い秀作である。主演二人の演技も充実。
2003年アメリカ映画 監督ロバート・ベントン
ネタバレあり
ふと洩らした発言が黒人差別と誤解され、辞職に追い込まれた名門大学の学部長アンソニー・ホプキンズは、この事件により妻を発作死で失ってしまう。やがて湖畔で隠遁生活を送る作家ゲイリー・シニーズを訪ね、この事件の顛末を執筆するように依頼する。作家は丁重にお断りするが、二人の間に友情が芽生え、元学部長は30代の人妻ニコール・キッドマンと恋愛関係に陥ったことを告げる。
かかる経緯で始まる人間ドラマでロバート・ベントンの抑制された演出が随所に光る。“作家”はいわば狂言回しで、彼を巡り若干無駄に流れる部分もあるが、大きな欠点とまでは言えない。
さて邦題の「白いカラス」(邦題として実に秀逸)とは何か。最終的には掛詞のように二つの意味を持ってくるように思うが、まずはホプキンズ演ずる元学部長を指す。
彼はみかけは白いが実は純粋な黒人で、最初の彼女に振られて以来家族とも縁を切ってユダヤ人のふりをして学部長にまで上り詰めたのである。この秘密は妻にさえ告白していなかったわけだが、浮気の最中に子供を焼死させ、病的な暴力を振るうベトナム復員兵の夫エド・ハリスから逃避しているニコールと通じ合うものを感じ、遂には秘密を告白するのである。
その秘密は辞職を留めるに十分なものであったほどの重大なものであるのに、それを許さなかったアメリカという国に潜む人種問題(に留まらない)を浮き彫りにする。こういう形でこの問題を訴えた作品は恐らく過去になく、感嘆させられた。
二コールは拾ったカラスに向って「カラスになりたい」と言う。彼女も白いカラスである。この二人の白いカラスが響き合って最後は悲劇的な結末を迎え、作家はこの悲劇を綴る思いになる。
各誌ベスト10発表などを見てもあまり冴えないが、もっと評価されて良い秀作である。主演二人の演技も充実。
この記事へのコメント
こんな風に細かく言葉で伝えることはできませんが、いい映画でした。アメリカの人種差別程ではないでしょうが、日本の部落問題で焼身自殺をした人がいると聞きました。今は、部落の人が優遇される逆差別があるとか?
「白いカラス」が、もっと評価されていいという考えに賛成です。ニコールキッドマン、のってますね。
コメント、有難うございました。
部落問題と言えば、今年観た「橋のない川」では、火事があっても消火してもらえないなどという、とんでもない場面がありました。わが日本にも相当ひどい時代があったことを知らされます。
トム・クルーズの奥様に過ぎなかった二コールは、いつの間にか旦那さん(と言っても離婚しましたが)より凄い演技者になりましたね。
お互い反論すべきは反論し、参考にすべきは参考に致しましょう。
ロバート・ベントンの抑制された脚本と演出はなかなか素晴らしいと思いましたが、この人は地味ですし、真面目に捉えられすぎて余り一般受けしないんですよね。