映画評「秋立ちぬ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1960年日本映画 監督・成瀬巳喜男
ネタバレあり
成瀬巳喜男としては子供が主人公なので内容的にやや異色と言える作品。
長野県は上田に住む少年・大沢健三郎が、東京出身の母親・乙羽信子に連れられて上京、築地で八百屋をしている伯父さん・藤原釜足の家に預けられる。母親が旅館の住み込みで働くようになった関係で少年は女将の娘・一木双葉の仲良くなるが、母親は客の加東大介と懇ろになって駆け落ち、女将のパトロンである実業家の事情で旅館も店じまいしてしまう。
実に哀感極まる一編である。母親が女性としての意識に目覚めた結果少年は忘れられ、孤独を癒すべき少女も予告なく消えてしまう。
この幕切れが劇的で上手いのは、新学期前に少女に渡すべきカブトムシが幸運にも見つかったという前段を用意してある点である。さらにその前段で少女の父親である実業家がその辺りを匂わせていて唐突な感を与えない。
野球の場面など序盤にも生き生きした場面があるが、後半の少年と少女が海を見に行く場面が良い。この場面の後伯父さん一家は必ずしも快適とは言い難くなり、カブトムシを採りに連れて行くはずだった従兄・夏木陽介は約束を反故にして友人と遊びに行ってしまう。「大人って、大人って!」というCMを思い出させるが、そこへ突然起きた僥倖。嗚呼それなのに・・・。冗談めかして書いたが、この一連の場面は呼吸が抜群、少年のショックの大きさが伝わってくる。
イタリアのネオ・レアレスモと共通するものがあるが、成瀬のタッチはもっと柔らかく、人物の描写が実に丹念。少年の心情を思うと切なくなる。
1960年日本映画 監督・成瀬巳喜男
ネタバレあり
成瀬巳喜男としては子供が主人公なので内容的にやや異色と言える作品。
長野県は上田に住む少年・大沢健三郎が、東京出身の母親・乙羽信子に連れられて上京、築地で八百屋をしている伯父さん・藤原釜足の家に預けられる。母親が旅館の住み込みで働くようになった関係で少年は女将の娘・一木双葉の仲良くなるが、母親は客の加東大介と懇ろになって駆け落ち、女将のパトロンである実業家の事情で旅館も店じまいしてしまう。
実に哀感極まる一編である。母親が女性としての意識に目覚めた結果少年は忘れられ、孤独を癒すべき少女も予告なく消えてしまう。
この幕切れが劇的で上手いのは、新学期前に少女に渡すべきカブトムシが幸運にも見つかったという前段を用意してある点である。さらにその前段で少女の父親である実業家がその辺りを匂わせていて唐突な感を与えない。
野球の場面など序盤にも生き生きした場面があるが、後半の少年と少女が海を見に行く場面が良い。この場面の後伯父さん一家は必ずしも快適とは言い難くなり、カブトムシを採りに連れて行くはずだった従兄・夏木陽介は約束を反故にして友人と遊びに行ってしまう。「大人って、大人って!」というCMを思い出させるが、そこへ突然起きた僥倖。嗚呼それなのに・・・。冗談めかして書いたが、この一連の場面は呼吸が抜群、少年のショックの大きさが伝わってくる。
イタリアのネオ・レアレスモと共通するものがあるが、成瀬のタッチはもっと柔らかく、人物の描写が実に丹念。少年の心情を思うと切なくなる。
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