映画評「こころの湯」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1999年中国映画 監督チェン・ヤン
ネタバレあり

「スパイシー・ラブスープ」で中国の社会を巧く切り取ったチェン・ヤンの1999年作。

精神薄弱の弟プー・ツンシンから手紙を受け取った兄ジャン・ウーが父が危篤と思い込んで都会から田舎の実家に慌てて帰るが、銭湯を営んでいる父親チュウ・シュイは元気そのもの。すぐに帰るつもりが弟の面倒をみたりして長居をするうちに父親が急死してしまう。

勘当同然だった兄が父親と和解する話で、家族愛を描きながら開発に押しつぶされていく地方都市を描くアプローチはなかなか優れている。開発は進むが、大都市との格差が広がるといった矛盾も感じさせる。銭湯の中で展開する浮世風呂の様相も豊かである。

気に入らないのは、弟の母親というエピソードが突然挿入されることである。水のない山岳地帯で風呂に入るのは遠方の湖に行くしかない。なかなか美しい場面ではあるのだが、父親の回想場面としては唐突の感じがある上に長すぎ、ぎこちない印象を伴う。

銭湯の中では大声で「オー・ソレ・ミオ」を歌えるのに人前では全く歌えない青年が弟に水を掛けてもらうと歌える、という最後の挿話は味わいあり。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック