映画評「さすらいのカウボーイ」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1971年アメリカ映画 監督ピーター・フォンダ
ネタバレあり
この映画は年齢を重ねないとなかなか解らないタイプの映画ではないか。僕もまだ中年半ばだが、少なくとも10代で見た時に比べれば遥かに素直に感心してしまったのである。また20年くらいしてみたらどう思うだろうか。
7,8年間放浪の生活を続けている男ピーター・フォンダが、長い旅に疲れ安定した生活を求め、その間一緒に旅を続けてきたウォーレン・オーツと一緒に、妻ヴェルナ・ブルームと、放浪し始める直前に生まれた娘の待つ故郷に戻る。ヴェルナは最初は反発したものの妻としての感情が芽生える一方で、彼が再び旅に出ないかという不安にも苛まれている。
暗黙の了解でオーツが家を離れるが、彼の指を持って悪玉の使いがやって来る。「すは」と助けに向かうフォンダ。それを見る妻の悲しみ。彼は撃ち合いで呆気なく死んでしまう。次の場面では、妻が外に置かれた椅子に腰掛けてうつろな瞳で帰ってくる<男>を見ている。
その<男>は原題の示す【雇い人】である。この【雇い人】には実に深い意味が込められていて、彼の留守の間仕事を手伝わせる傍ら状況に応じて次々と変る雇い人と男女の関係を結んでいたのである。そして帰ってきた夫をも当初は雇い人のように扱う。彼女の瞳には、夫への思慕と夫を失った悲しみがにじんでいた。
フォンダの演出が素晴らしいタッチでそれを浮かび上がらせ、我々観客は流れ者の故郷(妻)への思慕と共に、流れ者を夫に持った妻の哀しみに胸が締め付けられるのである。
1971年アメリカ映画 監督ピーター・フォンダ
ネタバレあり
この映画は年齢を重ねないとなかなか解らないタイプの映画ではないか。僕もまだ中年半ばだが、少なくとも10代で見た時に比べれば遥かに素直に感心してしまったのである。また20年くらいしてみたらどう思うだろうか。
7,8年間放浪の生活を続けている男ピーター・フォンダが、長い旅に疲れ安定した生活を求め、その間一緒に旅を続けてきたウォーレン・オーツと一緒に、妻ヴェルナ・ブルームと、放浪し始める直前に生まれた娘の待つ故郷に戻る。ヴェルナは最初は反発したものの妻としての感情が芽生える一方で、彼が再び旅に出ないかという不安にも苛まれている。
暗黙の了解でオーツが家を離れるが、彼の指を持って悪玉の使いがやって来る。「すは」と助けに向かうフォンダ。それを見る妻の悲しみ。彼は撃ち合いで呆気なく死んでしまう。次の場面では、妻が外に置かれた椅子に腰掛けてうつろな瞳で帰ってくる<男>を見ている。
その<男>は原題の示す【雇い人】である。この【雇い人】には実に深い意味が込められていて、彼の留守の間仕事を手伝わせる傍ら状況に応じて次々と変る雇い人と男女の関係を結んでいたのである。そして帰ってきた夫をも当初は雇い人のように扱う。彼女の瞳には、夫への思慕と夫を失った悲しみがにじんでいた。
フォンダの演出が素晴らしいタッチでそれを浮かび上がらせ、我々観客は流れ者の故郷(妻)への思慕と共に、流れ者を夫に持った妻の哀しみに胸が締め付けられるのである。
この記事へのコメント
多分3回観ていますが、年を経るごとに良くなります。「山猫」も最初観た時は高校生でしたから三分の一も理解できなかったでしょう。
新しい映画も観たいけど、古い映画も観たい。時間が少なすぎますね。
夫婦間の心理描写は上手かったんですが、娘との関わり合いは殆ど描かれていなかったんですよね。ピーターの若さだったんでしょうか?
封切時は、西部劇版「イージー・ライダー」だと思いました。但し、それは形態だけで、中身は全然違ってましたね。
娘との関係を入れると、主題が拡散し曖昧になり、ホームドラマになってしまうということだと思います。娘がまだ幼いというということもあったでしょうね。
従って、私は娘との関係を描かないことで映画として重心が下がり、訴求力が増したと思うのですが。
確かにそういう結果にもなりかねませんね。但し、それもさじ加減次第とも思います。いずれにしても、数十年前にも去年観た時も少し気になった部分でした。
私は「意図的に省いた」と思いますし、私の感覚には逆にフィットします。娘との関係を描くとうるさくなる感じがしてならないのですが。
これはちょっと平行線ですね(笑)。
横レスで申し訳ないのですが、十瑠さんが指摘されている“娘との関連性”は確かにほとんどありませんでしたね。今初めて気がつきました(汗)。
余分な贅肉をそぎ落とした映画なので、焦点を絞った結果かと私も思うのですが、フォンダのインタビューを見る限り、ご本人もあまり娘さんのことは考えになかったかもしれません。彼が描きたかったのは、友情と愛情のせめぎあいに尽きるのでしょう。う~ん、ここに娘の存在を持ってくるとなると、また映画の色合いが変わってきますねえ。
豆酢さんの記事は、いつもながら丁寧に書かれていますねえ。
僕なんか、「この映画はこのくらいの価値があるが解れば良いだろ」といったスタンスで観る癖が付いているので、豆酢さんを代表とする女性陣の内容分析には頭が下がりますです。
しかも、ラスト・シーンの解釈を間違えているような気がしてきました。
>娘
この娘はフォンダの不在期間を解り易くする為に配置されている・・・ような気が致します。
昨日この映画を見ました。妻と友人のどちらを選ぶか?友人は指をもぎ取られているし・・・。結局友人を助けに行って自分が命を落としてしまう。呆然とする妻。切なくて悲しい映画でした。双葉師匠はこの作品に80点。ピーター・フォンダにこんな監督才能があったのだと感心しています。
>日本では一人が罪を犯すと、かなり遠い親戚まで処刑
また、武士が責任を取って切腹。やはり家族や親戚を守る為でしょうか?
>明治天皇が死んだ時、乃木希典は殉死
また、乃木将軍の指令でたくさんの兵隊が亡くなりました。
>ピーター・フォンダにこんな監督才能があったのだと感心しています。
そうですね。滋味に溢れる作品で、年を取れば取るほど心に沁みます。
>武士が責任を取って切腹。やはり家族や親戚を守る為でしょうか?
武士はそれ以外の死に方は恥辱なので、寧ろ当局や上役の温情ではないでしょうか。同じく新井白石が、獄門になりそうな下級武士の為に口をきいて、切腹に変えさせた経験を紹介していましたよ。
政治に影響を与えるような不祥事では、一族郎党皆死刑ですので、当事者が切腹すれば済むという問題でもなかったようですね。これが封建時代の問題。個人主義の現在では考えられませんが、実は昭和48年まで、親を殺す(尊属殺人)と一般の殺人より罪が重くなりました。つい最近まで、こんな儒教的影響があったのですよ。
>年を取れば取るほど心に沁みます。
年を取るのは悲しいなあと思ったら、年を取ってからわかる事もたくさんあります。そこが人生の良さです。肩の力も抜けるし。
>切腹に変えさせた
僕のような小心者にしてみれば、どちらも死ぬ事だと思ってしまいます。
>実は昭和48年まで
実子を殺した事に対する刑の重さ。重くするべきではないでしょうか?
>ヴェルナ・ブルーム(1938年8月7日-2019年1月9日)
この映画で初めて彼女の存在を知りました。素晴らしい演技でした。
「アニマルハウス」にも出ていたんですね。
ウォーレン・オーツはわりと早死にしていますね。ああいうタイプは老けてからもよかっただろうなと残念に思っています。
ピーター・フォンダですが、お父さんがヘンリー・フォンダでお姉さんがジェーン・フォンダで、というのを考えると、彼は線が細いし、けっこうたいへんだったのかなと変な想像もしてしまいます。でも、こういう映画をちゃんと監督してるんですよね。
>年を取ってからわかる事もたくさんあります。
僕にとって一番は親の有難味ですね。世帯主になると、やらなければならないことが多いとつくづく思います。
>僕のような小心者にしてみれば、どちらも死ぬ事だと思ってしまいます。
命か価値が相対的に低かった時代ですよね。それ以前よりはまだましですが。
>実子を殺した事に対する刑の重さ。重くするべきではないでしょうか?
昭和48年に刑法の尊属(親、祖父母、伯父など)殺人規定は違憲という判断が最高裁で下されました。尊属殺人は死刑か無期懲役で、同じ人を強盗が殺しても重犯でなければそこまで重くはなりません。どう考えても不合理という、個人主義時代の判断。中学時代の僕は“よくやった”と思いましたよ。
儒教では、子は親を尊敬しなければなりませんが、親が子供を扱う明確な指針・方向性がないんですね。だから、昭和48年以前であれば、あるいは、最近続いた女児虐待死の父親達は軽い罪になった可能性があります。尊属殺人規定が廃止されたことにより、結果的に或いは相対的に子供を殺した親への罰か強化された可能性があります(この辺は深く研究しておりませんが)。蟷螂の斧さんの仰ることが達成されたことになるかもしれません。
ただ、法で規定するのは問題でしょうね。昨年あった引きこもりの暴力息子を(半ば正当防衛で)殺した東大出身の父親を死刑になどできませんから。犯罪は全て公平にして、後は裁判官の判断に任せるのが現代的でしょう。
>ヴェルナ・ブルーム(1938年8月7日-2019年1月9日)
アメリカ人ですからヴァ―ナ・ブルームと表記するほうが実際の発音に近いのでしょうが。
それはともかく、フィルモグラフィーを見ますと、「バッジ373」とか「ファニア歌いなさい」(TV映画)・・・いかにも渋い。この人の女優としての性格を表しているように思います。
>もっと評価されていいのにというのが前からありました。
ニューシネマ時代でなければ作られないような映画で、しかもニューシネマでも作られないような地味な内容なので、ミーハーちゃんには受けないなあという印象。洒落ではないですが、滋味溢れる素晴らしい作品でしたよねえ。
>ウォーレン・オーツはわりと早死にしていますね。
IMDbで調べますと心臓麻痺による死。亡くなった時に年齢を知って、思った以上に若いと少しびっくりした記憶があります。脇役で味を出す役者でしたが、主演作品では「ガルシアの首」が好きですね。
>ピーター・フォンダ
姉さんのジェーン同様に、父親を嫌ったようで、反体制的になって「イージー・ライダー」などを作ったんですね。