映画評「父ありき」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1942年日本映画 監督・小津安二郎
ネタバレあり
長野、中学(旧制)の数学教師・笠智衆は引率した先で生徒が水難死した為責任を取る形で職を辞し、故郷での役所勤めも居心地が悪く、東京でサラリーマンをやって収入を得ることを決意すると、息子(津田晴彦)を寄宿舎に入れて旅立っていく。
十数年後、大学を卒業して父親同様に教職についた息子(佐野周二)は久しぶりに再会した父と温泉に出かけ水入らずの時間を過ごした後一緒に暮らしたいことを打ち明ける。厳しい父親は「たまに会うだけというのも良いものだ」とやんわりと反対し、結局数年後死亡してしまう。息子は父の元同僚の教師・坂本武の娘を娶り、その父親と一緒に暮らすことを決意する。
製作されたのは太平洋戦争開始の翌年だが、戦意高揚や時局的な要素は殆ど入っていないと言って良い。確かに息子が徴兵検査で甲種合格を喜んで報告する場面があるにはあるが、学校に受かったことを報告するのと同じ程度の軽い扱いである。威厳に満ちた父親の姿に僅かながら当時の気分を反映させていると理解することも可能だろうが、小津を研究する立場から言えば、小津スタイルがほぼ完全に確立した作品として理解したい。ロー・ポジションと静物ショットは益々徹底され、「戸田家の兄妹」よりも一段と演技の呼吸が戦後風になっている。カットの切り替えが戦後作に比べゆったりとしているのは、戦後作の父と娘との間と、父と息子の間にある緊張感の違いを意味しているのかもしれない。
笠智衆の父親が素晴らしい。小津の理想とする父親像のはずなのだが、このような父親が昔はどこにもいたかのように錯覚するほどのリアルな感触をこの稀代の名優からは受ける。日本人の綺麗な佇まい・・・今は昔となりはてぬ。
1942年日本映画 監督・小津安二郎
ネタバレあり
長野、中学(旧制)の数学教師・笠智衆は引率した先で生徒が水難死した為責任を取る形で職を辞し、故郷での役所勤めも居心地が悪く、東京でサラリーマンをやって収入を得ることを決意すると、息子(津田晴彦)を寄宿舎に入れて旅立っていく。
十数年後、大学を卒業して父親同様に教職についた息子(佐野周二)は久しぶりに再会した父と温泉に出かけ水入らずの時間を過ごした後一緒に暮らしたいことを打ち明ける。厳しい父親は「たまに会うだけというのも良いものだ」とやんわりと反対し、結局数年後死亡してしまう。息子は父の元同僚の教師・坂本武の娘を娶り、その父親と一緒に暮らすことを決意する。
製作されたのは太平洋戦争開始の翌年だが、戦意高揚や時局的な要素は殆ど入っていないと言って良い。確かに息子が徴兵検査で甲種合格を喜んで報告する場面があるにはあるが、学校に受かったことを報告するのと同じ程度の軽い扱いである。威厳に満ちた父親の姿に僅かながら当時の気分を反映させていると理解することも可能だろうが、小津を研究する立場から言えば、小津スタイルがほぼ完全に確立した作品として理解したい。ロー・ポジションと静物ショットは益々徹底され、「戸田家の兄妹」よりも一段と演技の呼吸が戦後風になっている。カットの切り替えが戦後作に比べゆったりとしているのは、戦後作の父と娘との間と、父と息子の間にある緊張感の違いを意味しているのかもしれない。
笠智衆の父親が素晴らしい。小津の理想とする父親像のはずなのだが、このような父親が昔はどこにもいたかのように錯覚するほどのリアルな感触をこの稀代の名優からは受ける。日本人の綺麗な佇まい・・・今は昔となりはてぬ。
この記事へのコメント
早速のご対応、有難うございます。
「戸田家の兄妹」はテーマは戦後の小津そのものですが、映画の撮り方がまだ過渡期ですね。「父ありき」は差を探すほうが難しいです。