映画評「東京物語」
☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1953年日本映画 監督・小津安二郎
ネタバレあり
何と言っても一番好きな小津作品である。芸術的には「晩春」は勿論「麦秋」にも劣るかもしれないが、主役の老人を演ずる笠智衆が今は亡き祖父に見えて仕方がない僕にはこの作品が好きにならずにいられないのである。よって、細かいことには触れないでおく。
数年前レオ・マッケリーの「明日は来らず」(1937年)を見た時には「アメリカの『東京物語』だ」と思ったが、実はその通りらしく、「明日は来らず」を日本風に翻案したのが「東京物語」らしい。
戦前からその気配があったが、戦後の小津のテーマは【家の崩壊】に尽きる。そのテーマに最も直接的に迫ったのがこの作品と言えるだろうが、小津の案じたことは我が日本で確実に起こり、今や小津の描いた家族などどこにも見当たらない。小津の描いた崩壊した家族すら見当たらない。
それはともかく、まだ40代だった笠智衆の演技には脱帽するほかない。大学時代祖父とダブって見えそれだけでも感動したのを憶えている。小津の映画は昔の日本人がよく見た場面がデ・ジャ・ヴのように次々と展開していくのだ。普遍的な題材をこれほど普通に描いたことは、しかし、ありきたりではない。
1953年日本映画 監督・小津安二郎
ネタバレあり
何と言っても一番好きな小津作品である。芸術的には「晩春」は勿論「麦秋」にも劣るかもしれないが、主役の老人を演ずる笠智衆が今は亡き祖父に見えて仕方がない僕にはこの作品が好きにならずにいられないのである。よって、細かいことには触れないでおく。
数年前レオ・マッケリーの「明日は来らず」(1937年)を見た時には「アメリカの『東京物語』だ」と思ったが、実はその通りらしく、「明日は来らず」を日本風に翻案したのが「東京物語」らしい。
戦前からその気配があったが、戦後の小津のテーマは【家の崩壊】に尽きる。そのテーマに最も直接的に迫ったのがこの作品と言えるだろうが、小津の案じたことは我が日本で確実に起こり、今や小津の描いた家族などどこにも見当たらない。小津の描いた崩壊した家族すら見当たらない。
それはともかく、まだ40代だった笠智衆の演技には脱帽するほかない。大学時代祖父とダブって見えそれだけでも感動したのを憶えている。小津の映画は昔の日本人がよく見た場面がデ・ジャ・ヴのように次々と展開していくのだ。普遍的な題材をこれほど普通に描いたことは、しかし、ありきたりではない。
この記事へのコメント
小津は戦前、戦中から家の崩壊に注視していた稀有な映画作家ですが、それを初めて明確に主題にしたのは1941年「戸田家の兄妹」でしょう。
家の崩壊の【家】は文字通り家庭と日本独自の【家の制度】を指しています。戦後核家族化が進み、日本の社会の諸悪(少子化、犯罪の増加など)はここから始まっていると言っても過言ではないでしょうね。
それはともかく、この作品が嫌いな人は日本人ではないよなあ、と思ってしまうくらい素晴らしい映画ですね。
核家族による悲しみを描いている部分は、確かに多いですが、私はどちらかと言えば、経済主義への皮肉を感じました。
本当に、家の崩壊を描きたかったら、未亡人や末娘の存在は描かないのでは、と。彼女たち、若い世代は、まだ上の世代を大切に思っている、そこにほんの少し希望をもって作っていた感じがします。
それが、小津作品らしい優しさであってほしいという、私の主観的な意見ですが。
語彙の解釈の問題ですね。私は【家の崩壊】を【核家族の発生】という意味で用いたつもりです。
それとは別に、私の文章も必ずしも「家の完全に崩壊した事実を描いている」と申しているわけではなく、小津がそうした懸念を持ち、映画でそれを訴え続けていたと理解しているわけです。懸念=希望であり、小津自身もカツミアオイさんの仰る意味での家の崩壊を完全に認めてはいないと私も思います。
しかし、兄嫁の配置は希望ではなく、寧ろコントラストであり、強調手段だと思いますね。彼女は(実子ではなく、夫を失った以上紛れもなく)他人であり、実子である長男や長女の冷淡な態度とは対照的ですからね。これは戦後日本が急激に迎えつつあった現状への皮肉でしょう。
最後の綱として唯一末娘に小津は望みをかけていると、確かに思います。
4月から働く部署が替わり、えらい目に遭っていますよ(泣)。
さて、最近の日曜日の午前中、自宅で必ず小津作品か成瀬作品をDVD鑑賞する習慣ができてしまいました。
夜観ると次の日の仕事に差し支えますので、午前中に観ています。
テーマは、わたしは大括りで、家族の崩壊と解釈しています。いずれにしても何とも悲しいことですが、その悲しささえ自覚できなくなってしまっている今の日本???
心の空隙は酷い状況だと思います。家族を必要としない社会になってきているんでしょうか?
ヴィスコンティ作品やドロンの「燃えつきた納屋」、パゾリーニの「テレオマ」なんかもテーマは同一かもしれませんが、「東京物語」は実にリアルで、静かな進行のなかにショッキングなシーンがいくつも用意されていますよね。
何とかしなければなりません。
ではまた。
PS アップした記事にオカピーさんのドロン記事一覧を直リンしてます。事後報告ですみません。
部署が変わると忙しいか否かに拘らず、ストレスが溜まりますでしょう?
ましてお忙しそうなので、心中ご察し申し上げます<(_ _)>
ええと、古い映画を見た方が余程栄養・滋養になることが解りつつ、未だに新作映画鑑賞に拘っております。
昔の映画は仮にダメな映画でも文句の言い甲斐もありましたが、最近は文句を言う元気も出ないような作品が多くて。
3月までに観た作品で良かったのは尽く欧州映画で、アメリカ映画ではドキュメンタリーに強烈なのがあるものの、ハリウッドのメジャー作品はほぼ全滅状態。リメイクとシリーズ(これも一種のリメイク)の上で胡坐を組んできた付けが回ってきたようで、映画的には死に体です、もはや。
というわけで、古典鑑賞に鞍替えしようかと模索しているものの、いやきっと新作にも良いものが出てくると思うとなかなか止められません。
家族の崩壊=家族制度の崩壊で、この頃小津の映画を観た議員たちが彼のライフテーマに目を付けて昭和40年くらいまでに対策を取っていれば、現在のような少子化、超高齢化社会は訪れなかったはずなんですがねえ。
あの頃は経済成長が永遠に続くものとどこか神話みたいなことを想っていたんでしょうなあ。
それ自体は今更どうしようもないですが、家族の復活は望みたいですね。山田洋次監督がNHKプレミアムでああいう企画(日本の名作100本【家族編】)に取り組んだのもそういうことなのだと思います。
>直リン
光栄でございます。
反面、点数がまあまあですみません。
しかし、7~8点の映画の魅力は、10点の映画とはまた違った愛おしいところがあるんですよね・・・特にドロンの映画は。