映画評「E・T(20thアニバーサリー特別版)」

☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1982年アメリカ映画 監督スティーヴン・スピルバーグ
ネタバレあり

僕にとってスピルバーグのNo.1作品は「激突!」であることは生涯変わらないであろうが、No.2と言って良いこのSF映画を超える作品をスピルバーグは作れないであろう。映画としての完成度はそのくらい高い。

「未知との遭遇」の発展編と言うべきこの作品では、最初から宇宙人=ETが登場する。本作のETは植物学者という設定で侵略を目的としたものではないが、初めのうちは怪奇的な描写が続く。尤も地球人が勝手に怖がっているという様相なのだが、最初に発見した10歳の少年ヘンリー・トーマスにとってはそれこそ戦々恐々。しかし、勇気を奮ってチョコレートをばら撒きETを惹きつけようという発想が子供らしく愉快である。

これを境にETと親しくなった少年は兄ロバート・マクノートンと妹ドルー・バリモアに引き合わせる。いつの間にかおどろおどろした雰囲気が家庭的なほのぼのとしたものに変わっている。この辺りがスピルバーグは抜群に巧い。
 また、当局がETをスパイする場面が挿入されるが、ユーモアを織り交ぜながら緊張感を維持していく辺りの巧さは天才的と言うべきである。

思いがけずに取り残されたETだからホームシックを禁じ得ず、有り合わせの物で通信機をこしらえると、兄弟がハロウィンの扮装を利用して彼を外に連れ出すが、翌朝ETは死にかけた状態で発見される。それまで暗躍していた科学者たちがここでET救出の為に表舞台に登場。少年たちは大人の手を振り切って蘇生した彼を着陸地点に連れ出す。
 この場面ではETの超能力により少年たちの自転車が空を疾駆するのが実に爽快、彼らが月を横切るカットはこの世のものとは思えないほど美しい。
 (因みに、「20thアニバーサリー特別版」は脱出行に繋がるハロウィンの場面が長丁場で紹介されている。)

<ファンタスティック>の一語に尽きる秀作である。テンポが良くても呼吸・リズムの悪い作品が多い中で、勿論その点にも問題がない。CG出現前夜の大傑作だ。

さて、「未知との遭遇」の発展作と言ったが、実はこの作品の下地は「ピーター・パン」である。空を飛ぶ場面は勿論だが、ETを蘇生させる場面は1924年に作られたサイレント映画「ピーター・パン」の影響を多大に受けている。
 しかし、「ピーター・パン」ファンであることを示すようにスピルバーグは後年「フック」という凡作を作ってみそをつけた。馬鹿をやったね。

この記事へのコメント

ラム
2006年01月15日 13:30
訪問ありがとうございました。
1万本もみているんですよね。
オイラもそこをめざしているのですがまだまだ足りませんねw
お返事をオイラのブログに書いておきましたので、お暇な時にみてください。
chibisaru
2006年02月13日 19:14
こんばんは♪
「A.I.」の記事を読ませていただいた時にこちらの記事も目を通させていただきました。
それまで何故か見てなかったこの映画、改めてちゃんと見てみようという気になることができ、感謝しております。
やはり、あの月をバックに自転車で飛ぶシーンは印象に残るくらい素晴しいものでした。
結構グロテスクな顔なのになんだか憎めないE.T.に、私も親近感を覚え、「E.T. phone home」でしたっけ?帰りたくて通信機作っちゃったところも良かったなぁ・・・
ハロウィンに連れて行くところはとても可愛くて・・・あぁ・・・書きはじめたら止まらなくなってきました。それぞれのシーンも素敵だと書きたいのだと思います。ちょっと興奮気味(笑)

TBさせていただきました♪
他の記事もゆっくり読ませていただきます
オカピー
2006年02月14日 15:32
chibisaruさん、こんにちは。
素直に観れば、こんなに楽しい映画はないですねえ。しかも映画的にきっちり出来ているので、大人にも楽しめるし、興奮もしますね。それができない人はちょっと不幸。
私のレビューが観る気にさせたのなら、そんなに嬉しいことはないです。こちらこそ感謝したい気持ちです。もう少しブログ自体に人気が出ると良いのですが。

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  • #543 E.T.

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