映画評「血と骨」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2004年日本映画 監督・崔洋一
ネタバレあり
在日作家の梁石日が1998年発表した同名小説を崔洋一が鄭義信と共同で脚色、映像化した2004年の話題作。原作者と父親の関係がベースになっているそうである。
1923(大正12)年に済州島から日本へ渡ってきた金俊平(少年時代:伊藤淳史、壮年時代:ビートたけし)は大阪の朝鮮人長屋に入り込み、後家(鈴木京香)を犯して妻とし、彼女の連れ子(女児)に加え、女児、男児を次々と儲け、蒲鉾工場が成功すると妻子の目前で妾を囲う。
その頃前の女との間に儲けた長男(オダギリジョー)が出現するが、父親と激しく衝突した上で出奔する。ビートたけしとオダギリジョーが雨中死闘を繰り広げる場面は壮絶、この作品の最大のハイライトでもある。ここはもう一度観たい。
平行して行う悪どい高利貸しで財産を築いた彼は、妾が脳腫瘍に倒れると、今度は彼女を介護する第三の女(濱田マリ)を囲う一方で、息子たちとは確執を深め、その狭間で娘(田畑智子)の自殺に遭遇。独立した息子(新井浩文)には全く相手にされず、やがて朝鮮半島に渡ったという噂が伝わるばかりである。
この作品で重点的に語られていることは父と子、家族のことである。
金俊平の人物像はなかなか面白い。妻子に対し暴力三昧の極悪非道の権化のようであるが、脳腫瘍で倒れた妾を捨てずに介護させる愛情深いところがある。優しさではないだろうが、唯一人間的であった部分であろうし、それ故に彼女を最終的に殺す(一種の尊厳死)ことになるのであろう。
また、微妙な絆を持つこの家族の確執を通して昭和という時代がきちんと描かれていることは特に注目されなければならない。大正年間に日本に渡り、彼が去る頃に昭和も終る。その間に太平洋戦争はあるが、映画は原作では紹介されているらしい俊平の若い時代を上映時間の関係ですっかり端折り(監督談による)、実質的に終戦直後の暗い時代から始まっている。
彼の成功は時代が作り出したものでもあろう。在日社会から飛び出さない辺りに彼らを巡る社会環境が暗示されているとも言えるが、地域性(環境描写)を捨てた代わりに、人物描写にすかして昭和(戦後)という時代をきっちりと浮かび上がらせているのは見事である。
しかし、物語の興趣という意味で開巻後三分の一くらいまではやや魅力に乏しい印象が拭えない。それ以降は文字どおり<血と骨>のある重厚なドラマに仕立て上げられているが、出来れば崔と鄭が一度は考えたように俊平の青少年時代から始めてもらいたかったところではある。惜しいかな、せわしない平成という時代がそれを許さなかったのだ。
2004年日本映画 監督・崔洋一
ネタバレあり
在日作家の梁石日が1998年発表した同名小説を崔洋一が鄭義信と共同で脚色、映像化した2004年の話題作。原作者と父親の関係がベースになっているそうである。
1923(大正12)年に済州島から日本へ渡ってきた金俊平(少年時代:伊藤淳史、壮年時代:ビートたけし)は大阪の朝鮮人長屋に入り込み、後家(鈴木京香)を犯して妻とし、彼女の連れ子(女児)に加え、女児、男児を次々と儲け、蒲鉾工場が成功すると妻子の目前で妾を囲う。
その頃前の女との間に儲けた長男(オダギリジョー)が出現するが、父親と激しく衝突した上で出奔する。ビートたけしとオダギリジョーが雨中死闘を繰り広げる場面は壮絶、この作品の最大のハイライトでもある。ここはもう一度観たい。
平行して行う悪どい高利貸しで財産を築いた彼は、妾が脳腫瘍に倒れると、今度は彼女を介護する第三の女(濱田マリ)を囲う一方で、息子たちとは確執を深め、その狭間で娘(田畑智子)の自殺に遭遇。独立した息子(新井浩文)には全く相手にされず、やがて朝鮮半島に渡ったという噂が伝わるばかりである。
この作品で重点的に語られていることは父と子、家族のことである。
金俊平の人物像はなかなか面白い。妻子に対し暴力三昧の極悪非道の権化のようであるが、脳腫瘍で倒れた妾を捨てずに介護させる愛情深いところがある。優しさではないだろうが、唯一人間的であった部分であろうし、それ故に彼女を最終的に殺す(一種の尊厳死)ことになるのであろう。
また、微妙な絆を持つこの家族の確執を通して昭和という時代がきちんと描かれていることは特に注目されなければならない。大正年間に日本に渡り、彼が去る頃に昭和も終る。その間に太平洋戦争はあるが、映画は原作では紹介されているらしい俊平の若い時代を上映時間の関係ですっかり端折り(監督談による)、実質的に終戦直後の暗い時代から始まっている。
彼の成功は時代が作り出したものでもあろう。在日社会から飛び出さない辺りに彼らを巡る社会環境が暗示されているとも言えるが、地域性(環境描写)を捨てた代わりに、人物描写にすかして昭和(戦後)という時代をきっちりと浮かび上がらせているのは見事である。
しかし、物語の興趣という意味で開巻後三分の一くらいまではやや魅力に乏しい印象が拭えない。それ以降は文字どおり<血と骨>のある重厚なドラマに仕立て上げられているが、出来れば崔と鄭が一度は考えたように俊平の青少年時代から始めてもらいたかったところではある。惜しいかな、せわしない平成という時代がそれを許さなかったのだ。
この記事へのコメント
これだけひきつける力を持っていれば三時間クラスでも充分見ごたえが出たでしょうにね、もったいないことです。私も端折られた「青年時代」を見てみたかったです。
長くても面白ければ良い。昔の観客はそういう常識を持ち合わせていました。今の若者はとにかく短ければ良いらしく、2時間余りが限界らしいですね。
コメントを見ると誤解も多いですよ。「長くて退屈」と評価されている作品の中に実際には「短すぎて描き足りずに平板」になっているものが意外と多いんですよ。つまり、つまらない映画は観客が生み出していると言えないこともないのです。
映画は未見ですが原作本は出版直後に読みまして、長編は苦手なのですがこれは一気読みしてしまいました。
正直なところ「百年の孤独」の凄さは未だによく分かりませんが「血と骨」の凄さは皮膚感覚的によく分かります。分かったつもりだけかもしれませんが…南米は遠いです。
映画を見ない理由は単純に「主役がビートたけしだから」です (笑)
せめて緒方拳にお願いしてほしかったです。ご存命でしたよね?
>突然寒くなりましたね!
寒いですねえ。
うちは、近くに小山があるので、日の出が8時過ぎです。お昼ごろになってようやく日の入る居間が温かくなってホッとします。
>正直なところ「百年の孤独」の凄さは未だによく分かりませんが
凄さは解りませんが、面白くはありましたね。
ちょうど今、「百年の孤独」のペルー版のようなイサベル・アジェンデ「精霊たちの家」(映画「愛と精霊の家」の原作)を読んでいます。こちらはぐっと大衆的です(多分真価は僕には解らないでしょうが)。
>せめて緒方拳にお願いしてほしかったです。ご存命でしたよね?
僕も、緒形拳のほうが良かったなあ。
本作の4年後に亡くなっていますね。まだ出演できたでしょう。
娘(田畑智子)が自殺に追い込まれる場面は悲しかったし、酷かったです。
>実際に武力でロシアよろしく台湾に進むとなると、沖縄は怖いことになる。これは確か。
それは避けて欲しいです。
>日本は結構ヤバいことになっている気がしますね。
Tomorrow never knowsです。
https://www.youtube.com/watch?v=m4BuziKGMy4
>強い同調圧力になったりするのは良くないですね。
同調圧力で個人攻撃なんてのもあります。
今年もいろいろありがとうございました。
よいお年をお迎えください。
>金俊平(ビートたけし)は嫌な奴だけど家族の為に逞しく生きていました。
国外で生きる人々は、逞しく生きる必要がありますね。
日本人のごく一部に在日を差別する人々がいますが、そういう人はアメリカに行ってひどい目に遭うと良いと思います。
>Tomorrow never knows
ビートルズも公式ビデオが見られる時代に!
「トゥモロー・ネバー・ノウズ」と言えば、ミスター・チルドレンという人も多いでしょうね。彼らもビートルズ贔屓でしょう。
この曲に影響を受けたのが、ケミカル・ブラザーズの「セッティング・サン」。「レット・フォーエバー・ビー」もエコーを感じますねえ。
https://www.youtube.com/watch?v=p5NX1FC-7-w
https://www.youtube.com/watch?v=s5FyfQDO5g0
>今年もいろいろありがとうございました。
こちらこそお世話になりました。
良いお年を!
>ケミカル・ブラザーズの「セッティング・サン」。「レット・フォーエバー・ビー」
見ました。「トゥモロー・ネバー・ノウズ」感が出ています。カモメの鳴き声のとドラム。
>そういう人はアメリカに行ってひどい目に遭うと良いと思います。
でしょうね・・・。
>脳腫瘍で倒れた妾
妾を演じた中村優子。東京外国語大学イタリア語学科卒業。大学受験の頃から女優になる事を考えていたとか。
テレビドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」では滝藤賢一に離婚届を突き付けた妻役を好演していました。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
>カモメの鳴き声のとドラム。
25年くらい前でしょうかねえ、僕がCDを作り始めた頃のような記憶がありますが、初めて聴いた時すぐにピンと来ましたね。おお、やってる!てなもんです。
彼らが基本はシンセでしょうが、テープの逆再生のような音も僅かに聞こえます。
>妾を演じた中村優子。東京外国語大学イタリア語学科卒業。大学受験の頃から女優になる事を考えていたとか。
僕の大後輩ではないですか。
うちの大学はアナウンサーは結構いますが、女優は余り知らなかったなあ。
結構映画で見ます。
>テレビドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」
例によって、知りませんなあ(笑)
滝藤賢一はTVCMでよく見ますね。映画で見かけることが多いので、憶えました。僕はTVしか出ない俳優は殆ど知らないんですよ^^;