映画評「アメリカの夜」
☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1973年フランス=イタリア映画 監督フランソワ・トリュフォー
ネタバレあり
大分昔に映画館で観たが、今回は前以上に楽しめた感がある。トリュフォーの傑作中の傑作で、楽屋裏映画としても映画史に残る秀作と言って良い。
この作品の監督トリュフォー自ら演ずるフランスの映画監督が様々な障壁にぶつかりながら映画を仕上げていく模様を描いているわけだが、フェデリコ・フェリーニの自己投影作品「8・1/2」のように難解でもなく、深刻な作り方でもない。
主演女優ジャクリーン・ビセットは精神不安定の英国女優だし、その夫になるジャン=ピエール・レオーは女の尻を追い掛け回す。その父親役は交通事故死、スタントマンもレオーの恋人と雲隠れ、水着になる役なのに妊娠が発覚する女優アレクサンドル・スチュワルト、セリフが覚えられないベテラン女優ヴァレンティナ・コルテーゼなど、人災が多いが、大道具・小道具にも苦労する。
げらげら笑わせながら展開させるトリュフォーの筆致が実に鮮やか、見事である。
監督が取り寄せる映画関係の本の中で、ヒッチコックの書物になった瞬間クローズアップになる。トリュフォーがヒッチコックの信望者であることを知っているファンならこの場面にニヤニヤするに違いない。楽しいなあ。
1973年フランス=イタリア映画 監督フランソワ・トリュフォー
ネタバレあり
大分昔に映画館で観たが、今回は前以上に楽しめた感がある。トリュフォーの傑作中の傑作で、楽屋裏映画としても映画史に残る秀作と言って良い。
この作品の監督トリュフォー自ら演ずるフランスの映画監督が様々な障壁にぶつかりながら映画を仕上げていく模様を描いているわけだが、フェデリコ・フェリーニの自己投影作品「8・1/2」のように難解でもなく、深刻な作り方でもない。
主演女優ジャクリーン・ビセットは精神不安定の英国女優だし、その夫になるジャン=ピエール・レオーは女の尻を追い掛け回す。その父親役は交通事故死、スタントマンもレオーの恋人と雲隠れ、水着になる役なのに妊娠が発覚する女優アレクサンドル・スチュワルト、セリフが覚えられないベテラン女優ヴァレンティナ・コルテーゼなど、人災が多いが、大道具・小道具にも苦労する。
げらげら笑わせながら展開させるトリュフォーの筆致が実に鮮やか、見事である。
監督が取り寄せる映画関係の本の中で、ヒッチコックの書物になった瞬間クローズアップになる。トリュフォーがヒッチコックの信望者であることを知っているファンならこの場面にニヤニヤするに違いない。楽しいなあ。
この記事へのコメント
詳細を忘れてしまいましたが、蝋燭の光をライトで補う小道具のシーンってありませんでしたっけ?(くだらないことを変に記憶しているかもしれませんが...)
欲しいDVDの一つです。
>蝋燭の光をライトで補う小道具
ありましたね。ディテールですが、映画製作には色々似たようなことがあるのでしょう。
そもそも「アメリカの夜」というタイトルも製作現場の専門用語ですね。昼間の撮影をフィルター使用で夜に見せること。
是非DVDご購入ください。私はビデオを所有。
トリュフォー扮する映画監督が主人公というわけでもなく、「映画作り」そのものが主人公だったような気がします。
とってもとっても面白いし、巧いのに、最後は無難に纏めちゃったなぁという印象が残りました。「映画作り」がテーマなら狙い通りのラストシーンなわけですがネ。
ほっかほか記事、TB致しました。^^
>「映画作り」そのものが主人公
私もそう思いますね。
トリュフォーの「完璧な映画作りは一種の幻想」といった良い意味での諦めと「しかし映画作りは楽しい」という思いが、ラストシーンに滲んでいました。あの泡で作った雪が好きでした(笑)。
>ヒッチコックの書物になった瞬間クローズアップ
私はまじブニュエルが出てきて、「わっ!」と思って次々なんで、ヒッチコックのクローズアップ気がつかなかった。明日というかコレを読まれる時は19日だと思いますがNHK・BSで放映されるんで、もう一度この部分に注目してみます。(DVD持ってるんですけど、始まる時間をまってテレビの前に座るっていうのも新鮮でいいです)私、すこし風邪気味なので日付変更線変わってませんけれど、早々と19日付けの拙記事TBさせていただきます。いい映画って観るたびに新しいものが見えてきますね。
楽しい作品ですね。
観た後すぐに書きたくなるタイプでしょ?
本稿はブログ用に書いたものではないので、非常に簡単なものになっていますが、エピソード集みたいな作品ですので、ディテールは観た人にお任せといったところです。^^
アカデミー賞特集でNHK-BS2でやるんですね。
>ヒッチコック
だったでしょう!
トリュフォーとの対談集(映画術)で、ヒッチコックは映画の作り方は勿論、観方も教えてくれるので参考にしています。
ヒッチコック曰く、「映画の価値は原作でもない、主題でもない、俳優の名演でもない。映画そのものだ」と。
>DVDとBS放映
そういう差を見比べるのも一興ですね。^^
>「スタジオ撮影も最後だ」・・・
この作品が作られた当時、アメリカ映画はニューシネマ後期で、ロケ主義や即興演出、隣の姉ちゃん兄ちゃんみたいな役者の台頭した時代ですから、そういう心配をしていたんですねえ。一時は徒党を組んでいたゴダールが即興演出主義ですから、彼と決別したトリュフォーの古典主義への回帰が解るようなセリフですね。
>エピソード集
こんなに楽しい楽屋裏映画はないですよ。そのエピソード集から映画作りへの愛情が理解できれば、この作品は観た価値があるでしょう。
これは、ある意味トリュフォーの集大成ですよね。
カイエ誌上で批判していたセット撮影に、これほど愛着を感じさせる作品はゴダールには納得できなかったでしょうね。
しかし、映画制作のセミ・ドキュメンタリーともいえるような作風で、しかも映画の裏舞台を舞台にしていることは、この着想自体がヌーヴェル・ヴァーグですよね。ジャクリーン・ビセットなどという当時のハリウッドでは、あまりぱっとしていなかった女優を主役にしたり・・・など。
あわせて「ゴダールの探偵」もレンタルしてきました。わたくらしからぬヌーヴェル・ヴァーグの夜長でございます。
では、また。
>トリュフォーの集大成
作家性の強い監督は生涯に一本はそういう作品を作りますね。
フェリーニの「8・1/2」、アレンの「スターダスト・メモリー」、北野武の「TAKESHI'S」「監督・ばんざい!」。
その中でも本作が一番のお気に入り。フェリーニは凄いと思いつつ、胃もたれがする(笑)。
>着想自体がヌーヴェル・ヴァーグ
トリュフォーの作品中一番それらしいかもしれませんね。
NVの代表的作品と言われる「大人は判ってくれない」にしても個人的にはそういう匂いを余り感じない。ゴダールと違って、あくまで潮流としてのNVでしかないような気がします。
本作は、映画として純粋に傑作であると思います。