映画評「野菊の如き君なりき」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1955年日本映画 監督・木下恵介
ネタバレあり
伊藤左千夫の純情悲劇「野菊の墓」を叙情派の名人・木下恵介が見事に映像化した逸品である。
舞台は伊藤の故郷・千葉ではなく、木下好みの千曲川ほとりに変えられているのだが、今は73歳の老人になった主人公・政夫(笠智衆)が流行遅れの渡し舟に揺られながら、60年前の15歳当時を思い出す、という設定に巧く生かされている。
明治30年頃、15歳の政夫(田中晋二)は同居して家の手伝いをしている二歳年上の従姉・民子(有田紀子)を思慕し、民子も素直な政夫を大切に思っている。幼い頃から姉弟のように育った肉親的な愛情が年を経て自ずと思春期的な恋心に変わっていったのである。
が、周囲が二人の仲の良さを嫉妬していじめるので、政夫の母親(杉村春子)は息子を寮制の学校に追いやり、その間に民子を嫁がせてしまうが、彼女は悲しんで身重の身を持たせることが出来ず病死してしまう。
民子の哀れ、政夫の無念さを思い、世間の狭量を悔しがり、原作で涙を絞られ、映画を何度観ても泣かされてしまう。
回想場面は周囲を白くぼかした額縁のような<たまごスコープ>というこの作品独自の映像作りをしているのだが、それがスクリーンに現れただけで条件反射的に涙腺が緩む。丸ごとセンチメンタリズムだからややもすると辟易することになりかねないが、千曲川周辺の野道・林道の風景をたっぷり取込んだ詩情性により、大変味の良い叙情作品となっているのである。決して絞られた涙の量で星が増えたのではありませんぞ。
1955年日本映画 監督・木下恵介
ネタバレあり
伊藤左千夫の純情悲劇「野菊の墓」を叙情派の名人・木下恵介が見事に映像化した逸品である。
舞台は伊藤の故郷・千葉ではなく、木下好みの千曲川ほとりに変えられているのだが、今は73歳の老人になった主人公・政夫(笠智衆)が流行遅れの渡し舟に揺られながら、60年前の15歳当時を思い出す、という設定に巧く生かされている。
明治30年頃、15歳の政夫(田中晋二)は同居して家の手伝いをしている二歳年上の従姉・民子(有田紀子)を思慕し、民子も素直な政夫を大切に思っている。幼い頃から姉弟のように育った肉親的な愛情が年を経て自ずと思春期的な恋心に変わっていったのである。
が、周囲が二人の仲の良さを嫉妬していじめるので、政夫の母親(杉村春子)は息子を寮制の学校に追いやり、その間に民子を嫁がせてしまうが、彼女は悲しんで身重の身を持たせることが出来ず病死してしまう。
民子の哀れ、政夫の無念さを思い、世間の狭量を悔しがり、原作で涙を絞られ、映画を何度観ても泣かされてしまう。
回想場面は周囲を白くぼかした額縁のような<たまごスコープ>というこの作品独自の映像作りをしているのだが、それがスクリーンに現れただけで条件反射的に涙腺が緩む。丸ごとセンチメンタリズムだからややもすると辟易することになりかねないが、千曲川周辺の野道・林道の風景をたっぷり取込んだ詩情性により、大変味の良い叙情作品となっているのである。決して絞られた涙の量で星が増えたのではありませんぞ。
この記事へのコメント
木下監督の環境描写はどの映画でも巧いですが、この映画はその中でも抜群で、抜群の叙情性を発揮していました。
原作については些か大げさかもしれません。