映画評「ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年アメリカ=イギリス映画 監督スティーヴン・ホプキンズ
ネタバレあり
ピーター・セラーズは「ピンクの豹」で成功したのが却って重荷になったのは外からも伺えたし、おかげで余り好きな役者になれなかったが、「博士の異常な愛情」を観ればその端倪すべからざる才能は確認出来る。
1955年、ラジオの喜劇からスタートしたセラーズ(ジェフリー・ラッシュ)が一度門前払いを食らった「マダムと泥棒」の出演を勝ち取る為に老退役軍人に成りすます一幕がまず面白い。この時から彼の変装役者人生が始まったわけである。
5年後の「求むハズ」で共演したソフィア・ローレンに一方的に熱を上げて糟糠の妻アン(エミリー・ワトスン)と子供たちを顧みなくなり、暴力的な幼児性を発揮した末に離婚。
ブレイク・エドワーズの「ピンクの豹」に代役で出演して成功を収め、スタンリー・キューブリック監督「博士の異常な愛情」の三役でアカデミー賞の候補になる。ここではキューブリックが現れる時に下から見上げるような彼独自のカメラワークが使われるパロディー感覚が楽しめる。
60年代半ば当時売り出し中だったスウェーデン出身のブリット・エクランド(シャーリーズ・セロン)と電撃結婚(彼女とは「紳士泥棒/大ゴールデン作戦」で共演)するのだが、その原因がインチキ占い師がブレイク・エドワーズを指したBEを彼女と勘違いというのだから人を食っている。
彼女と結婚直後に母譲りの心臓病で危うく死に掛けたのは知らなかったが、その後離婚した後乱交と麻薬中毒となる辺りを60年代末に流行したサイケなムードで処理するなど、時代背景をきちんと織り込んで、スティーヴン・ホプキンズ監督はなかなかやりますわい。
70年代に入ると予想通り「ピンク・パンサー」シリーズの出演などでスランプに陥り、また例のインチキ占い師がこのシリーズに出ると<チャンス>が訪れると予想、その通り「チャンス」に出演。変装役者としてではなく純粋に演技力を評価され最後の花道を飾る。
「チャンス」の原題Being Thereは、変装役者人生を捨てようとしていたセラーズの心情に重なり、感慨深い。
なかなか巧く作られているが、セラーズのフィルモグラフィーに精通していた方が圧倒的に楽しめる。
彼の父親、妻、母親、監督二人にラッシュ(セラーズと言うべきか)が扮して彼の人生を観照するという手法は、演劇的な面白さを醸し出しているだけに留まらず、変装役者人生を送ったセラーズらしさが滲み出て、誠にしみじみとしてしまう。
今年どんな映画に出会うか分らないが、ベスト10候補。
2004年アメリカ=イギリス映画 監督スティーヴン・ホプキンズ
ネタバレあり
ピーター・セラーズは「ピンクの豹」で成功したのが却って重荷になったのは外からも伺えたし、おかげで余り好きな役者になれなかったが、「博士の異常な愛情」を観ればその端倪すべからざる才能は確認出来る。
1955年、ラジオの喜劇からスタートしたセラーズ(ジェフリー・ラッシュ)が一度門前払いを食らった「マダムと泥棒」の出演を勝ち取る為に老退役軍人に成りすます一幕がまず面白い。この時から彼の変装役者人生が始まったわけである。
5年後の「求むハズ」で共演したソフィア・ローレンに一方的に熱を上げて糟糠の妻アン(エミリー・ワトスン)と子供たちを顧みなくなり、暴力的な幼児性を発揮した末に離婚。
ブレイク・エドワーズの「ピンクの豹」に代役で出演して成功を収め、スタンリー・キューブリック監督「博士の異常な愛情」の三役でアカデミー賞の候補になる。ここではキューブリックが現れる時に下から見上げるような彼独自のカメラワークが使われるパロディー感覚が楽しめる。
60年代半ば当時売り出し中だったスウェーデン出身のブリット・エクランド(シャーリーズ・セロン)と電撃結婚(彼女とは「紳士泥棒/大ゴールデン作戦」で共演)するのだが、その原因がインチキ占い師がブレイク・エドワーズを指したBEを彼女と勘違いというのだから人を食っている。
彼女と結婚直後に母譲りの心臓病で危うく死に掛けたのは知らなかったが、その後離婚した後乱交と麻薬中毒となる辺りを60年代末に流行したサイケなムードで処理するなど、時代背景をきちんと織り込んで、スティーヴン・ホプキンズ監督はなかなかやりますわい。
70年代に入ると予想通り「ピンク・パンサー」シリーズの出演などでスランプに陥り、また例のインチキ占い師がこのシリーズに出ると<チャンス>が訪れると予想、その通り「チャンス」に出演。変装役者としてではなく純粋に演技力を評価され最後の花道を飾る。
「チャンス」の原題Being Thereは、変装役者人生を捨てようとしていたセラーズの心情に重なり、感慨深い。
なかなか巧く作られているが、セラーズのフィルモグラフィーに精通していた方が圧倒的に楽しめる。
彼の父親、妻、母親、監督二人にラッシュ(セラーズと言うべきか)が扮して彼の人生を観照するという手法は、演劇的な面白さを醸し出しているだけに留まらず、変装役者人生を送ったセラーズらしさが滲み出て、誠にしみじみとしてしまう。
今年どんな映画に出会うか分らないが、ベスト10候補。
この記事へのコメント
プロフェッサーの「2006年ベスト10」を参考に、未見だった『祇園の姉妹』と本作を鑑賞いたしました。
結果、どちらも名作クラス。改めてプロフェッサーの卓抜した鑑賞眼と評価の正確さに敬意を表させていただきます^^
本作はレンタルDVDで観たのですが、自宅での映画鑑賞は悪い面ばかりでもありません。
何が良いかといえば、驚いたら人目をはばからずに立ち上がり「うぉおお! すげー!」なんて叫びを発せられる(笑)
「博士の異常な愛情」の撮影現場の再現シーンでは、思わず立ち上がりスタンディング・オベーション! 本当に拍手拍手でした(笑)
自宅で鑑賞している利点は他にもあります。
映画を中断して、面白かったシーンを繰り返し観られる^^;
いや、初見の場合はとにかく通しで観て、後から好きなシーンを再見するべきなんでしょうが、本作はあまりにスゴクて、ついつい(笑)
私はガキみたいに大騒ぎしながら映画を観ていることもしばしば。ある意味、本当に 「うるさい映画ファン」 なのであります(笑)
本作は、おそらくピーター・セラーズのフィルモグラフィーを知らずとも楽しめるのでしょう。ですが、物語自体は地味ですから、真価は素通りされてしまうのかもしれませんね。
わざわざ拙宅までご足労、感謝です。TBを遅ればせに持参いたしましたので、よろしくお願いします^^
過分なお言葉に恐縮してしまいます。^^;
いくら客観性を趣旨としていてもどうしても好みが入りますし、逆に読者の好みもありますから、全てが全て「なるほど」というわけには行かないですが、結果的に満足していただけたのなら、幸甚というものです。
「かもめ食堂」では十瑠さんの感想は【今一つ】だったらしく、こちらも些かがっかりですが、それは仕方がない。軽くはあっても薄くはなかったと思うのですが、如何でしょうか?
さて、本作はなかなか消せないで困っております。二大HDDレコーダーを持っていて、古いほうに相変わらず入っております。
フィルモグラフィーは知ると知らないでは、☆一つ分くらい違ってしまうでしょう。私の場合は関連作品は全て観ていますし。^^)v
「カジノ・ロワイヤル」辺りのサイケのムードは、やはり時代に通暁していたほうが良いですし。映画は知識を要求する一方で、映画は知識を与える、と思う所以です。