映画評「涙を、獅子のたて髪に」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1962年日本映画 監督・篠田正浩
ネタバレあり

松竹ヌーヴェルヴァーグの旗手だった篠田正浩の初期の作品で、吉田喜重の「ろくでなし」ほどではないが、かなり本場のヌーヴェルヴァーグを彷彿とする。

海運会社の支配人・南原宏治の手下となって港湾労働者からピンハネしている藤木孝は、近所の喫茶店のウェイトレス、加賀まりこと恋仲になるが、南原の命により、激しくなった労働運動の中心人物である労働者を痛め付け勢い余って殺してしまう。
 港のダニである彼もさすがに罪の意識に苦しむが、殺した男が彼女の父親と知って苦悩を深め、それを紛らわすように社長の有閑夫人・岸田今日子と関係を持った時に崇拝していた南原に騙されていたことを知らされると支配人を殺し、警官に連行される。

本場フランスのヌーヴェルヴァーグは若者の閉塞感や鬱屈した思いを主題にした作品が多かったわけだが、松竹ヌーヴェルヴァーグもほぼ同じようなもので、走る場面を捉えた横移動撮影や背景と人物を縦方向に捉えたロングショットなど撮影が実に若々しく勢いがある。映像を見ていると退屈しないタイプの作品だ。

詩人で演劇人であった寺山修司が脚本に加わっているのが要注目。労働運動を描いても戦後の一時期盛んに作られたイデオロギー映画のように社会主義的ではなく、ニヒリズムとなっている辺りに彼らしさが僅かに反映されていようか。

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