映画評「踊る大紐育」

☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1949年アメリカ映画 監督スタンリー・ドーネン、ジーン・ケリー
ネタバレあり

ミュージカル映画の大傑作。色彩設計とナンバーの素晴らしさと躍動感でこの作品に匹敵するのは「巴里のアメリカ人」と「ウェストサイド物語」くらいなものである。その点においては本作の主演者の一人で共同監督もしているジーン・ケリーの代表作「雨に唄えば」も遠く及ばない。

ケリー、フランク・シナトラ、ジュールズ・マンシンの水兵三人が朝の6時にニューヨークの波止場に停泊した軍艦から飛び出してくる。
 ここで披露される「ニューヨーク・ニューヨーク」はスタンダードになったが、勿論同名のミュージカルの主題歌とは別のナンバーである。

彼らは一日の休暇を思う存分見物で楽しもうと張り切るが、ケリーがミス地下鉄ヴェラ=エレンとお近付きになったことで様子は大分変わってくる。消えた彼女を追って一日中探す羽目になり、シナトラはタクシーの女運転手ベティ・ギャレットと、マンシンは恐竜博物館で原始人研究家アン・ミラーと知り合って宜しき仲に・・・。
 ここまで映画は物凄いスピードで展開するが、まずミス地下鉄ヴェラ=エレンの黄色をバックにした六変化と爆発的な躍りで我々を圧倒する。原色あるいは単色を活用した色彩のコントラストもあでやかで素晴らしい。
 次にわがご贔屓アン・ミラーが緑の衣装で素晴らしいタップを披露する。ただ、ヴェラ=エレンの迫力の前にやや影が薄くなったのが個人的には残念。
 この二人とベティを加えた三人は単色の赤・緑・黄の衣装を着て踊りまくるが、どの場面でも三人が同じ色の衣装を着ることはなく、水兵の白と実に見事な対照を成す。カラーが一番ふさわしいジャンルは何かと言えばミュージカルと思われるが、正にそれを証明する色彩設計である。

ケリーがヴェラ=エレンと再会して唄って踊る「本町通り」は趣を変えてスローナンバー、続く終盤のケリーの幻想「ニューヨークの一日」はハイブラウなバレエとなっていて、それぞれ傑出した出来栄え。

彼らは6時に船に戻るが、入れ替えに別の連中が軍艦から飛び出してくる。また同じような騒動が街で起こるだろう、という余韻を以って映画は閉じられる。
 電光掲示板のように時間が出る趣向も1949年当時、特にミュージカルというジャンルにおいては洗練されたものだったにちがいない。ミュージカルとしてはロケを初めて大々的に活用した作品であるが、何度観ても楽しんでしまう。スタンリー・ドーネン監督の出世作である。

この記事へのコメント

カカト
2006年02月06日 17:06
トラックバックしました。
私は一応現代の人間ですが、時間が画面に表示された時は「おっ!」と思いました(^^)

トラックバックがなぜか二件入ってしまいました。
すみませんが削除をお願いします。
オカピー
2006年02月08日 01:06
カカトさん
TB一件削除しました。

その昔、シナトラが顔が細いのにもびっくりした映画です。
mojituduriya
2006年02月26日 18:17
初めまして。この映画は女性陣の性格付けがはっきりしていてそれがまた男性陣との対比を楽しませてくれました。
オカピー
2006年02月27日 00:55
mojituduriyaさん、ようこそ。
僕は昭和半ばに生まれた人間としては、かなりミュージカル映画を観ているほうだ(多分200本以上)と思いますが、この作品はその中でもトップクラスです。最近のミュージカル映画は、幻想としてか、ミュージカルの舞台裏としてしか作られませんから、甚だ寂しい限り。

そうですね、女性陣の性格の対比とその衣装の色彩のコントラストが面白く、これぞミュージカルといった感じでしたね。

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