映画評「オペラ座の怪人」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年アメリカ=イギリス映画 監督ジョエル・シューマカー
ネタバレあり
ガストン・ルルーと言われて「黄色い部屋の謎」を思い起こすのは推理小説ファンで、怪奇小説ファンなら「オペラ座の怪人」となる。尤も実際にはこちらも推理小説である。
この原作の映画化は数多く行われていて、1925年の最初の映画化がよく知られている(ビデオ所有)が、若きブライアン・デ・パルマが映画化した現代ロック業界版「ファントム・オブ・パラダイス」も秀作だった。
本作は、ルルーの小説を基にアンドリュー・ロイド・ウェバーが作り上げた余りにも有名なミュージカル(ロック・オペラ)を自ら映画化(製作)、監督にはジョエル・シューマカーを起用した。
1870年代、パリのオペラ座全盛期の頃、プリマドンナ(ミニー・ドライヴァー)に幕が落ち、激昂した彼女が降板したので、若いクリスティーヌ(エミー・ロッサム)が代役に採用されるが、劇場の地下室に住む怪人ファントム(ジェラルド・バトラー)はお気に入りの彼女を住処に連れて行く。彼を亡くなった父親の言う“音楽の天使”と信じる彼女は仮面の下に爛れた醜い容貌を知ってしまうものの、ファントムの孤独と自分に寄せる深い愛情を知る。
劇場側が怪人の脅迫状を無視してクリスティーヌを主役に起用しなかったことに激怒した怪人は遂には殺人事件を決行、彼女が幼馴染のラウル(パトリック・ウィルスン)と愛を深めると嫉妬に苦しみ、大胆にも自作オペラで共演を果たすものの公衆の前で素顔をさらされて激怒、観客の上にシャンデリアを落として劇場を火の海にし、再び彼女を連れ去る。ラウルが後を追い、対決の瞬間を迎える。
これはミュージカルというより事実上のオペラである。心理を歌い上げれば当然展開は遅くなる。また、それ以外の場面も時間を要して丁寧に豪奢に作り上げ、全体としてゆったりと展開させている。19世紀のムード醸成に必要だからである。
テンポの遅いことを退屈ひいては駄作の理由付けにする傾向があるが、テンポが遅くても退屈しない作品はたくさんある。本作が、内容に応じて必要なテンポが違ってくるものということを理解させるよすがになってくれるとありがたい。
心理面を強調した作劇で、怪人の悲しみはよく伝わってくるが、その反面サイレント映画版で強く感じられた恐怖感は減殺されている。残念ではあるが、二律背反的な要素なので致し方ないのかもしれない。
言わずもがなだろうが、ウェバーの音楽は耳馴染みが良く、佳曲が多い。
主役三人はビッグ・スターではないが、映画俳優としては歌唱力も十分で魅力あり。敵役に扮したミニー・ドライヴァーは歌えない(歌唱場面は吹き替え)が、コミカルな演技はさすがに巧い。
装置・美術は豪華この上なく、苦労して舞台版を観ずとも、比較的安い料金で楽しめるのは実に有難いことである。
2004年アメリカ=イギリス映画 監督ジョエル・シューマカー
ネタバレあり
ガストン・ルルーと言われて「黄色い部屋の謎」を思い起こすのは推理小説ファンで、怪奇小説ファンなら「オペラ座の怪人」となる。尤も実際にはこちらも推理小説である。
この原作の映画化は数多く行われていて、1925年の最初の映画化がよく知られている(ビデオ所有)が、若きブライアン・デ・パルマが映画化した現代ロック業界版「ファントム・オブ・パラダイス」も秀作だった。
本作は、ルルーの小説を基にアンドリュー・ロイド・ウェバーが作り上げた余りにも有名なミュージカル(ロック・オペラ)を自ら映画化(製作)、監督にはジョエル・シューマカーを起用した。
1870年代、パリのオペラ座全盛期の頃、プリマドンナ(ミニー・ドライヴァー)に幕が落ち、激昂した彼女が降板したので、若いクリスティーヌ(エミー・ロッサム)が代役に採用されるが、劇場の地下室に住む怪人ファントム(ジェラルド・バトラー)はお気に入りの彼女を住処に連れて行く。彼を亡くなった父親の言う“音楽の天使”と信じる彼女は仮面の下に爛れた醜い容貌を知ってしまうものの、ファントムの孤独と自分に寄せる深い愛情を知る。
劇場側が怪人の脅迫状を無視してクリスティーヌを主役に起用しなかったことに激怒した怪人は遂には殺人事件を決行、彼女が幼馴染のラウル(パトリック・ウィルスン)と愛を深めると嫉妬に苦しみ、大胆にも自作オペラで共演を果たすものの公衆の前で素顔をさらされて激怒、観客の上にシャンデリアを落として劇場を火の海にし、再び彼女を連れ去る。ラウルが後を追い、対決の瞬間を迎える。
これはミュージカルというより事実上のオペラである。心理を歌い上げれば当然展開は遅くなる。また、それ以外の場面も時間を要して丁寧に豪奢に作り上げ、全体としてゆったりと展開させている。19世紀のムード醸成に必要だからである。
テンポの遅いことを退屈ひいては駄作の理由付けにする傾向があるが、テンポが遅くても退屈しない作品はたくさんある。本作が、内容に応じて必要なテンポが違ってくるものということを理解させるよすがになってくれるとありがたい。
心理面を強調した作劇で、怪人の悲しみはよく伝わってくるが、その反面サイレント映画版で強く感じられた恐怖感は減殺されている。残念ではあるが、二律背反的な要素なので致し方ないのかもしれない。
言わずもがなだろうが、ウェバーの音楽は耳馴染みが良く、佳曲が多い。
主役三人はビッグ・スターではないが、映画俳優としては歌唱力も十分で魅力あり。敵役に扮したミニー・ドライヴァーは歌えない(歌唱場面は吹き替え)が、コミカルな演技はさすがに巧い。
装置・美術は豪華この上なく、苦労して舞台版を観ずとも、比較的安い料金で楽しめるのは実に有難いことである。
この記事へのコメント
昔の映画版や舞台は一度も見たことがないので、どんな話か知らずに見ることができました。それが良かったのかもしれませんが。
怪人の悲しみが全面に出されていましたね。
映像も音楽も出演者も好きな作品です。
五つ星ならぬハートでしたね。僕の☆4つもほぼ満点に近いという意味です。新作でそれ以上付けるのは滅多にないのです。
当方、日本では数少ないミュージカル映画ファンでして、この作品も十分堪能できました。実際にはオペラ映画に近い感触ですが、一年に一度くらいはミュージカルを見せてもらいたいです。その意味で「ムーラン・ルージュ」「シカゴ」とまずまずのペースで見せてもらっていますが、満足とは言いかねる状態です。
オープニングのシャンデリアのシーンであっという間に瀟洒できらびやかな19世紀のパリオペラ座へ・・・素晴しかったです。
とてもせつなく美しいラブストーリーとして堪能させてもらいました(笑)
http://www.doblog.com/weblog/myblog/6480
私のように田舎に住んでいると、映画以外はまず観られませんし、その映画ですらCGオンパレードの映画くらいしかやって来ません。それを観るのも一苦労するほどの山奥に住んでいるのですが、衛星放送のおかげで最近はTVで観てばかり。
最近のミュージカルは凄く豪華ですね。あっと言う間に130年前のパリにタイム・トリップ。いや~、映画って本当に便利です(笑)。
ラブ・ストーリー・・・確かに昔の映画化作品が持っていた恐怖感は殆どないですね。それはそれで良いです、ミュージカルですから。
宿題リストのかなりトップに入れているんですが、なかなか観る機会が訪れなくて未見です。ミニー・ドライヴァーは吹き替えだったんですねー。本人が歌っていると思って感心してしまいました。でもイタリアなまりが上手くて笑えました^^)。
>ミニー・ドライヴァー
クレジットをよく観てみると、確認できるはずです。
昔のことなので何で確認したか解りませんが。
>ファントム・オブ・パラダイス
これは面白かったですね。
確か「キャリー」のヒットで、公開にこぎ着けたようないきさつがあったような気がします。
三十うん年前なのでよく憶えていませんが。