映画評「知りすぎていた男」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1956年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり
アルフレッド・ヒッチコック第43作。1934年に作った第17作「暗殺者の家」のセルフ・リメイクである。
元歌手の妻ドリス・デイと息子とでモロッコを旅していた医師ジェームズ・スチュワートが、フランス人ダニエル・ジェランと知り合ったことで、ロンドンを舞台に計画されている某国首相の暗殺計画に巻き込まれる。
ヒッチコックお得意の<巻き込まれ型>サスペンスだが、ジェランが殺される場面が最初の見せ場で、顔に塗った染め粉が落ちて白い指の跡が付くアイデアが優秀。
最初の見せ場まで他の秀作同様およそ30分掛けているが、この伏線部分は「ダイヤルMを廻せ」「裏窓」「鳥」などに比べるとやや劣る。
それ以降は剥製屋のドタバタなどでゲラゲラ笑わせながらもスリル満点で、この時代の諸作中で最も大衆的に作られた一編と言え、シンバルを暗殺の合図としたサスペンスで最高潮に達する。暗殺場面はくどい程徹底したもので、クローズアップとロングショットの自由自在な組合せにより超弩級。
しかし、最後の息子救出の長い一幕は、余分とまでは言わないまでも、クライマックスの後だけに過剰サービスといった印象が強く、ヒッチコッキアンを自認する僕の胃ももたれてくる。決着の付け方もアイデア不足ではないか。
ジミーはご贔屓の男優で、いつも通りの飄々とした演技が楽しいが、ドリス・デイがメリハリの利いた演技で実に素晴らしいのだ。序盤のコメディレリーフ的な扱いから悲劇の母親像に移調し、終盤の活躍・・・女優としても実に多くの作品に出演実績のある彼女のベスト・パフォーマンスと思う。
1956年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり
アルフレッド・ヒッチコック第43作。1934年に作った第17作「暗殺者の家」のセルフ・リメイクである。
元歌手の妻ドリス・デイと息子とでモロッコを旅していた医師ジェームズ・スチュワートが、フランス人ダニエル・ジェランと知り合ったことで、ロンドンを舞台に計画されている某国首相の暗殺計画に巻き込まれる。
ヒッチコックお得意の<巻き込まれ型>サスペンスだが、ジェランが殺される場面が最初の見せ場で、顔に塗った染め粉が落ちて白い指の跡が付くアイデアが優秀。
最初の見せ場まで他の秀作同様およそ30分掛けているが、この伏線部分は「ダイヤルMを廻せ」「裏窓」「鳥」などに比べるとやや劣る。
それ以降は剥製屋のドタバタなどでゲラゲラ笑わせながらもスリル満点で、この時代の諸作中で最も大衆的に作られた一編と言え、シンバルを暗殺の合図としたサスペンスで最高潮に達する。暗殺場面はくどい程徹底したもので、クローズアップとロングショットの自由自在な組合せにより超弩級。
しかし、最後の息子救出の長い一幕は、余分とまでは言わないまでも、クライマックスの後だけに過剰サービスといった印象が強く、ヒッチコッキアンを自認する僕の胃ももたれてくる。決着の付け方もアイデア不足ではないか。
ジミーはご贔屓の男優で、いつも通りの飄々とした演技が楽しいが、ドリス・デイがメリハリの利いた演技で実に素晴らしいのだ。序盤のコメディレリーフ的な扱いから悲劇の母親像に移調し、終盤の活躍・・・女優としても実に多くの作品に出演実績のある彼女のベスト・パフォーマンスと思う。
この記事へのコメント
映画館で観た時は、剥製屋のドタバタが妙に印象に残りましたよ。店の人間がカジキをもってうろちょろ。
ドリス・デイの悲劇の母親が良くて、知らないうちに活躍してしまうのがヒッチコックらしいです。「ケ・セラ・セラ」とは行かないのが親の心。
>FROSTさん、どう致しまして。
「暗殺者の家」では、母親は確か射撃の名人でしたよね。ドリス・デイ主演ということで、恐らく元歌手という設定にして、最後の場面に歌を利用したのでしょうが、アイデアそのものはともかく、その前の暗殺場面と重ねるともたれてきます。もう少しあっさりと処理したほうが良かったと思います。
あのコンサートシーンはひっぱるなぁ・・・と思いつつも「いったいどうするの?どうなるの???」とかなりハラハラさせてもらいました。「いつシンバルが鳴るのよーーーーー!」ってドキドキしちゃって(笑)
剥製屋のドタバタでクスクス、ラストの部屋で待ってた友人たちにクスっと笑っちゃった。剥製屋で剥製かかえて逃げ回ってるのなんかとてもコミカルでライオンに手までかまれて(笑)
今思い出しても楽しいシーンです。
こちらからもTBさせていただきますね♪
ヒッチコックはあのコンサートの場面を撮り直したくてリメイクを作ったようですね。だから相当力が入っています。
剥製屋の場面は私もお気に入りで、カジキマグロが結構好きです(^^)v
映画館で観た時こればかり印象に残ってしまいました(笑)。
私だったら予行演習で10回聴かされても「このシンバルの時に射つんだよ」とレコード鳴らされても解りませ~ん。はい。
あの狙撃者、私よりクラシック得意とは見えませんでした(笑)。
>シンバル
これは典型的な「映画の嘘」じゃないでしょうか。
ただ、これは「観客が知っているが為に感じる真のサスペンス」を理解する上で最も素晴らしい教科書ではないかと思っております。
お感じになっているかもしれませんが、最近は本当のサスペンスがありません。情報を与えずに作れるショックばかりで全くつまらんです。
恐らく、ヒッチコックにとって一番大事なリアリティは、人間の行動に関するもの(行動心理学)です。彼はそれ以外は「映画の嘘」はあっても良いと思っているようですよ。
アフリカ・ロケは素晴らしいですが、主役二人のバックに映る景色は合成画面でしょうか?もしかして二人ともアフリカには行ってないとか?
あの有名な曲「ケ・セラ・セラ」も初めて聞きました。
双葉師匠の採点は75点です。「或る新聞だか雑誌だかで彼女が唄う歌を『セ・ケラ・ケラ』と書いていたそうである。」と言うのが笑えました。
>悲劇の母親像に移調し、終盤の活躍・・・
ドリス自身、波乱万丈の人生です。19歳で結婚して息子を産んで20歳で離婚。演技に生かされたかも知れません。
>1944年頃、銃後は案外のんびりしたかんじがありましたが、
陸軍で中国にいた人でもあまり戦争が関係ない地域で栄養がある物をたくさん食べて太っていた兵隊もいたなんて話を聞いた事があります。
>ヒッチコック監督自身のリメイクなんですね。
「暗殺者の家」の拡大セルフ・リメイクです。原題は全く同じで、オリジナルには伝説的怪優ピーター・ローレが出演していました。
>アフリカ・ロケは素晴らしいですが、
>主役二人のバックに映る景色は合成画面でしょうか?
>もしかして二人ともアフリカには行ってないとか?
当時は技術的理由のため、人物をアップで捉える時は多く合成(スクリーン・プロセス)を使いました。ロング(引き)では二人はマラケシュの町の中にきちんと収まっていたと記憶するので、ちゃんと行っていたと推測します。
>ドリス自身、波乱万丈の人生です。19歳で結婚して息子を産んで
>20歳で離婚。演技に生かされたかも知れません。
その息子が有名なビーチボーイズなどを担当した音楽プロデューサー、テリー・メルチャーですね。チャールズ・マンソンが本来殺そうとしたのは、シャロン・テイトではなく、彼でした。その辺りを虚実交えて描いた「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の台詞を信ずれば、当時の恋人はキャンディス・バーゲン。
>当時は技術的理由のため、人物をアップで捉える時は多く合成
そういう事ですか。勉強になります。ありがとうございます。
>チャールズ・マンソンが本来殺そうとしたのは、シャロン・テイトではなく、彼でした。
シャロン・テイトの事件は知っていましたが、本来の標的は知りませんでした。驚きです!
>決着の付け方もアイデア不足ではないか。
階段から転げ落ちて銃が暴発。ジェームズ・スチュワートと揉み合って暴発では駄目だったでしょうか?
>新型コロナウイルス
第2波がいよいよ来ますか?小池さんは「そんな事はない」と言ってますが。
>シャロン・テイトの事件は知っていましたが、
>本来の標的は知りませんでした。驚きです!
シャロン・テイト事件若しくはマンソン・ファミリーの映画は都合4本も見てしまいました(この春に3本)。
しかし、音楽家を目指していたマンソンが聖書が出現を預言したとビートルズを持ち上げていたのは、ビートルズ・ファンとしては甚だ気に入らないですよ。
>ジェームズ・スチュワートと揉み合って暴発では駄目だったでしょうか?
ベターですね。子供を活躍させる手もありますが、具体的には思い浮かびません。ヒッチコックですから、期待は自ずと大きくなります。好きだから評価が甘くなるのはダメです(笑)
>第2波がいよいよ来ますか?小池さんは「そんな事はない」と言ってますが。
感染経路が掴めない割合(これが多い場合、若しくはこれが多少低くても絶対感染者が多い場合、所謂市中感染が多いということになります)が現状くらいであればまだ第2波とは言えないでしょう。
しかし、感染を抑えても経済上の理由で死者が増えれば意味がないわけで、もう少し増えても今後は下手に緊急事態宣言を出せないでしょうねえ。
ワクチンと薬。文字通り感染人数抑制と経済維持の両方を解決する特効薬はこれしかないわけでして。それまでに大きな波が来ないことを祈るばかりですね。
54年前の今日。ビートルズの武道館ライヴ1日目。
https://www.youtube.com/watch?v=COfLARGpr2A
1分45秒あたりが昔から好きです。ポールが一緒に口ずさむところです。
>感染人数抑制と経済維持の両方を解決する
そこなんですよね。自ら命を絶つ経営者のニュースは悲しいです。
>好きだから評価が甘くなるのはダメです(笑)
双葉師匠がまさにそうでしょう。好きな監督のイマイチな作品には厳しい採点。
>ジェランが殺される場面が最初の見せ場
そう言う場面って映画やドラマでありますよね。重要と思われる人物がいきなり殺される場面。
>
>54年前の今日。ビートルズの武道館ライヴ1日目。
ジョン・レノンが亡くなった日はさすがに忘れないけれど、この日は憶えないなあ(笑)。リアル・タイムで観ていたら絶対忘れないと思うけど。
>1分45秒あたりが昔から好きです。ポールが一緒に口ずさむところです。
なるほど。
YouTubeで初日の夜の分は全部観られるようですが、にわか仕立ての舞台ゆえか、舞台が揺れてマイクが動いてしまうのが残念でしたよねえ。
>そこなんですよね。自ら命を絶つ経営者のニュースは悲しいです。
「朝まで生テレビ」で、進行役の田原総一朗氏はそれをなかなか理解しないのがもどかしい。彼は生命VS経済と考えているのがいけない。経済=生命なんです。アメリカやブラジルのように経済最優先になってもダメですがね。
>双葉師匠がまさにそうでしょう。
以前、文藝春秋か何かに歴史上のベスト100を強引に選ばせられた(笑)時に、“ヒッチコックは好きなので、厳しくなって意外と本数が少なくなった”と仰っています。
>重要と思われる人物がいきなり殺される場面。
いきなりではないですが、「サイコ」で主役と思われていたジャネット・リーの殺害にはビックリでした。
>進行役の田原総一朗氏
所詮彼は外野です。
>ヒッチコックは好きなので、厳しくなって意外と本数が少なくなった
それでこそ双葉師匠です(拍手!)
>ジャネット・リーの殺害
映画ファンを驚かせる意外な仕掛け。
>舞台が揺れてマイクが動いてしまうのが残念
そこがまたいいんですよ(笑)。そしてそのおかげで7月1日の映像記録も残りました。エプスタインが6月30日版がどうにも気に入らなかった。
>香港国家安全法成立。先頭に立って活動していた若い女性が
>「成立したら私も逮捕されるだろう。」と言ってた事を思い出します。
結局は昨年失敗した法律の代案。手を変え品を変え、体制を維持しようと政権側も必死です。
そんなわけで、反政権団体が解散しましたね。そこで起こるのが海外脱出ですが、自民党有志が彼等を早く受け入れようと、移民にうるさい日本の体制を変えようとまで言い出したのに驚きました。昔からカナダは(有償で)大量に入れていましたが、日本もそうなりますか。そうなれば、移民に厳しい日本だけに、僕は歓迎ですね。
>映画ファンを驚かせる意外な仕掛け。
ヒッチコックも満足していたようです。ヒッチコックによれば、燻製にしんという手法だそう。
>>舞台が揺れてマイクが動いてしまうのが残念
>そこがまたいいんですよ(笑)。
日本の音楽レベルが疑われただろうなあと心配になりました。