映画評「ネバーランド」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年イギリス=アメリカ映画 監督マーク・フォースター
ネタバレあり
「ピーター・パン」の原作者として知られるジェームズ・バリーの伝記映画であり、児童劇「ピーター・パン」誕生の由来を描いた物語である。原作はアラン・ニーの戯曲「ピーター・パンだった男」。
1903年のロンドン、新作の評判が誠に芳しくない劇作家バリー(ジョニー・デップ)は、ケンジントン公園で四人の兄弟とその母親デーヴィズ夫人(ケイト・ウィンスレット)と知り合う。
父親の死んだ悲しみを拭い切れず子供であることを止めようとしていた三男ピーター(フレディー・ハイモア)に自分の少年時代を重ねた劇作家は、子供たちと繰り広げる<ごっこ>を投影した新作「ピーター・パン」を書き下ろす。
主人公の名は勿論三男の名前からだ。時折子供らしい表情を覗かせるようになるピーターだが、母親が発病すると再び心を閉ざし、バリーのほうも社交界への進出の夢断たれた妻メアリー(ラダー・ミッチェル)との仲が修復出来ぬところまで行く。
孤児たちを劇場に招待して公演された新作「ピーター・パン」は好評、デーヴィズ夫人が自宅でささやかに演じられた作品を観て息を引き取ると、その母で子供たちの後見人だったデュ=モーリエ夫人(ジュリー・クリスティー)も遂に彼を後見人と認める。
論ずるまでもなくピーター・パンとはジェームズ・バリーその人であるが、彼は<ピーターパン症候群>を病んだ人なのだろうか。いや、大人になれないのではなく、子供の心を忘れなかったのだと理解するのがふさわしい。
「チョコレート」でも登場人物の心理を繊細に描いたマーク・フォースターが、バリーの児童に対する温かい視線を基調に、<子供の心を忘れようとした少年>の<子供の心を忘れないようにした大人>に対する、時に覚える同病相憐れむような心境と時に感じる反発を繊細に描いている。よって伝記映画としてよりも心理劇として堪能出来る部分が多い。
但し、荒れた心を象徴するつもりで採用したのだろうが、ピーターが作家の与えたノートを破る場面をハンド・カメラで撮ったのは気に入らない。浮薄な印象を伴い、この作品の持つ心理劇的側面にとってはマイナスである。
しかし、母の死後ピーターが再び創作を始めようとする幕切れは断然よろしい。バリーが勝利した瞬間であり、心を動かされずにはいられない。少年が作家の創造力を蘇生させた恩人でもあるから。つまり、二人の再生の物語に収斂し、この映画は見事な大団円を迎えるのだ。
今や絶対的人気を誇るジョニー・デップ、好演続きの中でもこのバリー役が近年のベストであるように思われるが、如何でありましょうか。子供に混じってインディアンごっこなどをする、かなり難しい役を違和感なく演じられる役者は現在彼の他にいないだろう。ピーターに扮したフレディー・ハイモア君など子役が抜群に巧いだけになおさらである。
女性陣もなかなか好調。特に、ジュリー・クリスティーの厳しい祖母。とりわけ、「ピーター・パン」で盛大な拍手を送る場面とその前後のギャップが良い。オールド・ファンとしては、小悪魔的な少女だった彼女も今は随分と落ち着いたものと感慨深いものがある。
2004年イギリス=アメリカ映画 監督マーク・フォースター
ネタバレあり
「ピーター・パン」の原作者として知られるジェームズ・バリーの伝記映画であり、児童劇「ピーター・パン」誕生の由来を描いた物語である。原作はアラン・ニーの戯曲「ピーター・パンだった男」。
1903年のロンドン、新作の評判が誠に芳しくない劇作家バリー(ジョニー・デップ)は、ケンジントン公園で四人の兄弟とその母親デーヴィズ夫人(ケイト・ウィンスレット)と知り合う。
父親の死んだ悲しみを拭い切れず子供であることを止めようとしていた三男ピーター(フレディー・ハイモア)に自分の少年時代を重ねた劇作家は、子供たちと繰り広げる<ごっこ>を投影した新作「ピーター・パン」を書き下ろす。
主人公の名は勿論三男の名前からだ。時折子供らしい表情を覗かせるようになるピーターだが、母親が発病すると再び心を閉ざし、バリーのほうも社交界への進出の夢断たれた妻メアリー(ラダー・ミッチェル)との仲が修復出来ぬところまで行く。
孤児たちを劇場に招待して公演された新作「ピーター・パン」は好評、デーヴィズ夫人が自宅でささやかに演じられた作品を観て息を引き取ると、その母で子供たちの後見人だったデュ=モーリエ夫人(ジュリー・クリスティー)も遂に彼を後見人と認める。
論ずるまでもなくピーター・パンとはジェームズ・バリーその人であるが、彼は<ピーターパン症候群>を病んだ人なのだろうか。いや、大人になれないのではなく、子供の心を忘れなかったのだと理解するのがふさわしい。
「チョコレート」でも登場人物の心理を繊細に描いたマーク・フォースターが、バリーの児童に対する温かい視線を基調に、<子供の心を忘れようとした少年>の<子供の心を忘れないようにした大人>に対する、時に覚える同病相憐れむような心境と時に感じる反発を繊細に描いている。よって伝記映画としてよりも心理劇として堪能出来る部分が多い。
但し、荒れた心を象徴するつもりで採用したのだろうが、ピーターが作家の与えたノートを破る場面をハンド・カメラで撮ったのは気に入らない。浮薄な印象を伴い、この作品の持つ心理劇的側面にとってはマイナスである。
しかし、母の死後ピーターが再び創作を始めようとする幕切れは断然よろしい。バリーが勝利した瞬間であり、心を動かされずにはいられない。少年が作家の創造力を蘇生させた恩人でもあるから。つまり、二人の再生の物語に収斂し、この映画は見事な大団円を迎えるのだ。
今や絶対的人気を誇るジョニー・デップ、好演続きの中でもこのバリー役が近年のベストであるように思われるが、如何でありましょうか。子供に混じってインディアンごっこなどをする、かなり難しい役を違和感なく演じられる役者は現在彼の他にいないだろう。ピーターに扮したフレディー・ハイモア君など子役が抜群に巧いだけになおさらである。
女性陣もなかなか好調。特に、ジュリー・クリスティーの厳しい祖母。とりわけ、「ピーター・パン」で盛大な拍手を送る場面とその前後のギャップが良い。オールド・ファンとしては、小悪魔的な少女だった彼女も今は随分と落ち着いたものと感慨深いものがある。
この記事へのコメント
ジョニー・デップがシリアスな演技をしていたのを久しぶりに見たのでやっぱり巧い役者だなぁと感じました。あのインディアンのシーンは本当に楽しそうにやってましたね。きっといつも子供相手にあんな遊びしてるんじゃないかなぁ?なんて推察しちゃった(笑)
デップ自身がそういう子供っぽさを持っているからこそ、バリーを演じてもちっとも不自然じゃなく、どんな役者よりもハマリ役だと思えたのではないかしら?
今作は私のお気に入りの作品の一つでもあります。
大人になれないのではなく、子供心を忘れていないというのは私も思いました。
ジョニー・デップだからこそ演じれた役だと思いました。
ハンド・カメラで撮ったという所は全然気付きませんでした^^;
イギリスの風景も、出演者の演技も、音楽も良い!と思える作品だったと思ってます♪
こんばんは。
知名度のある男優の中で、こういう難しい役を出来るのはジョニー・デップくらいでしょう。舞台俳優の中には、或いはいるかもしれませんが、その場合は興行的には難しいでしょうね。
それにしてもジョニー・デップの人気は凄まじいですね。ちょいと偏りすぎてはいませんか、ってな気持ちもありますよん。
>kobitopenguinさん
こんばんは。
ハンド・カメラは僅かでしたからね。個人的な趣味として、古い時代を扱う作品には、ぶれるハンド・カメラ、コマ落としショットなどは使うべきではないと思っているのです。何だか軽くなってしまいますので。
それ以外は全て良かったですね。評の中では触れませんでしたが、公園を中心とした風景もムードたっぷりでした。ケンジントン公園か、良きかな、良きかな。
本作ではストレートだが難しい役を上手くこなしたような気がしますが、デップは基本的に苦手なんです。
デップの人気も「パイレーツ・オブ・カリビアン」で爆発した感があり、あの作品がなければどうだったんでしょうかねえ? こ汚いあの恰好で人気が出たのも不思議なんですけどね。^^;
<こ汚いあの恰好
デップは、こういう小汚いキャラが多いですね。他にジプシーやネイティブアメリカンなど、マイノリティーな人を演じるのが多いのも好きなところです。「ノイズ」でエリート宇宙飛行士を演じた時は、ちょっとギャップを感じました^^)。
しかも、僕はT・バートンが苦手。^^;
二人のコンビでは「エド・ウッド」だけ買いました。
色がないので幸いしたようです(笑)。
>「ノイズ」
はあ、そんな作品もございましたね。
シャーリーズ・セロンを意識して観始めたのはこの作品くらいかな。
>バリー
僕もそんなに詳しいことは知りませんが、彼の作品は「ピーター・パン」だけではなく相当映像化(通算70本以上)されていますよ。
「あっぱれクライトン」なんて有名です。
100年前の大人気作家ですね。
まるでハリウッド映画の台詞みたいじゃないですか。
かっちょいいっ!
>ピーターパン・シンドローム
大人になれないというのはやっかみで、子供の心を忘れないのだと考えれば素敵なことです。僕もその類ですよ。
「となりのトトロ」なんか新しい「ピーター・パン」だったですよね。すると、宮崎駿は現在のジェームズ・バリーだ。
この映画のお陰で夢を諦めずにすみました。
>夢を諦めずにすみました。
それは良かったです。
そういうことも、映画の効用の一つですね。
思い出しても鳥肌立ちます。私はこの映画に非常に心を打たれました。
私は俳優になりたいです。
>私は俳優になりたいです。
この作品を観たからでしょうか?
それとも、
夢を諦めないということに関連があるお話なのでしょうか?
そういうことですよね。巧い、オカピーさん!
最後に子供らしい心を見せてくれるのが幕切れとしてよろしかったです。
空想シーンが割と大胆で最後のはビックリしましたが^^
「チョコレート」と全然違うムードが驚きでしたが、心理劇風なのは同じでしたね。
感じたままを書いただけですが、褒めて戴き光栄です。^^
>最後に子供らしい心を見せてくれるのが
そうですね。
やはり子供は子供らしいのが一番。
>「チョコレート」
好みから言うと本作ですが、あの映画も良かった。
マーク・フォースターは、ショットの繋ぎ、場面転換の面白い人ですので、注目して良い監督だと思いますよ。
「主人公は僕だった」なんて洒落てたなあ。