映画評「Ray/レイ」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2004年アメリカ映画 監督テイラー・ハックフォード
ネタバレあり
2004年6月に死去したR&B界の巨人レイ・チャールズの生涯を綴った伝記映画。チャールズと聞くと、オーディオ・メーカーに勤めていた時、90年代半ば試聴室から頻繁に聞えてきた彼の歌う「いとしのエリー」を思い出さずにはいられない。
ジョージア州の貧しい母子家庭に生まれたレイ・チャールズ・ロビンスンは6歳で失明し、1948年、17歳の時に音楽で生計を立てる決心をし、シアトルに旅立つ。酒場のジャズ・ピアノ弾きからやがてツアー・バンドに加わり、そこでヘロインを覚えたりもするのだが、やがて大手レーベルのアトランティックと契約してR&B路線に変更、ゴスペル歌手であるデラ・ビー(ケリー・ワシントン)と結ばれたことからR&Bとゴスペルを融合した新しいカテゴリー(ソウルの原型か)を生み出していく。
この時代の代表曲が「アイ・ガット・ア・ウーマン」「ホワッド・アイ・セイ」「ハレルヤ・アイ・ラブ・ハー・ソー」で、当時バック・コーラスを務め最初の愛人でもあったメリー・アン・フィッシャーを歌った「メリー・アン」も名曲である。
新しいコーラス・ガールのマージー・ヘンドリックスを愛人にしてメリー・アンが去った後59年ABCに移籍し、カントリー畑の「愛さずにいられない」や「わが心のジョージア」を歌ってこれも成功するが、R&Bに固執するファンからは批判されたりもする。
「旅立てジャック」は当時最大のヒットだが、この曲や「ホワット・カインド・オブ・マン・アー・ユー」などがドラマの進行とシンクロするように上手く使われて大変面白い。
61年ジョージア州の人種差別に抵抗したことから同州から永久追放処分を受け、カナダでは麻薬密輸容疑で逮捕され、片腕だったジェフ・ブラウン(クリフトン・パウエル)を追放するなど実に大変な時期を迎えるわけだが、64年に麻薬更生クリニックに入所して完全に麻薬中毒から立ち直るのである。その後ジョージア州が追放処分を撤回し謝罪したのは言うまでもない。
以上公的活動を中心に述べてきたが、ジャンキー(麻薬中毒)で女たらしであったというレイ・チャールズの私的なネガティヴ面の背景もフラッシュバックできちんと描かれている。
彼が時々見る水びたしの幻想は弟の溺死を食い止められなかった自責の念であり、自らの失明、母との別離と死といった幼少期のトラウマが麻薬中毒や女たらしの誘引になっていったという解釈である。彼を麻薬から救ったのもどうやら母(の幻影)だったらしく、親子の情に弱いわが心を強く揺さぶる。
従来の伝記映画を踏襲したオーソドックスな作りだが、テイラー・ハックフォード監督としては「愛と青春の旅立ち」以来の充実した仕事と言える。これ以上人間的な側面を追及したら却って本質を見失う。
また、レイに扮したジェイミー・フォックスのそっくりさんぶりは断然宜しい。
因みに、映画の中でアトランティックのスタッフに「ナット・“キング”・コールの二番煎じ」と言われているが、彼は十代の時ロサンゼルスでコールと仕事をしている。その前シアトルで知り合ったクインシー・ジョーンズとは結局仕事をすることはなかったようだ。
レイ・チャールズを失ったアトランティックはその後彼に劣らぬ大物アレサ・フランクリンを獲得している。良かったですね。
2004年アメリカ映画 監督テイラー・ハックフォード
ネタバレあり
2004年6月に死去したR&B界の巨人レイ・チャールズの生涯を綴った伝記映画。チャールズと聞くと、オーディオ・メーカーに勤めていた時、90年代半ば試聴室から頻繁に聞えてきた彼の歌う「いとしのエリー」を思い出さずにはいられない。
ジョージア州の貧しい母子家庭に生まれたレイ・チャールズ・ロビンスンは6歳で失明し、1948年、17歳の時に音楽で生計を立てる決心をし、シアトルに旅立つ。酒場のジャズ・ピアノ弾きからやがてツアー・バンドに加わり、そこでヘロインを覚えたりもするのだが、やがて大手レーベルのアトランティックと契約してR&B路線に変更、ゴスペル歌手であるデラ・ビー(ケリー・ワシントン)と結ばれたことからR&Bとゴスペルを融合した新しいカテゴリー(ソウルの原型か)を生み出していく。
この時代の代表曲が「アイ・ガット・ア・ウーマン」「ホワッド・アイ・セイ」「ハレルヤ・アイ・ラブ・ハー・ソー」で、当時バック・コーラスを務め最初の愛人でもあったメリー・アン・フィッシャーを歌った「メリー・アン」も名曲である。
新しいコーラス・ガールのマージー・ヘンドリックスを愛人にしてメリー・アンが去った後59年ABCに移籍し、カントリー畑の「愛さずにいられない」や「わが心のジョージア」を歌ってこれも成功するが、R&Bに固執するファンからは批判されたりもする。
「旅立てジャック」は当時最大のヒットだが、この曲や「ホワット・カインド・オブ・マン・アー・ユー」などがドラマの進行とシンクロするように上手く使われて大変面白い。
61年ジョージア州の人種差別に抵抗したことから同州から永久追放処分を受け、カナダでは麻薬密輸容疑で逮捕され、片腕だったジェフ・ブラウン(クリフトン・パウエル)を追放するなど実に大変な時期を迎えるわけだが、64年に麻薬更生クリニックに入所して完全に麻薬中毒から立ち直るのである。その後ジョージア州が追放処分を撤回し謝罪したのは言うまでもない。
以上公的活動を中心に述べてきたが、ジャンキー(麻薬中毒)で女たらしであったというレイ・チャールズの私的なネガティヴ面の背景もフラッシュバックできちんと描かれている。
彼が時々見る水びたしの幻想は弟の溺死を食い止められなかった自責の念であり、自らの失明、母との別離と死といった幼少期のトラウマが麻薬中毒や女たらしの誘引になっていったという解釈である。彼を麻薬から救ったのもどうやら母(の幻影)だったらしく、親子の情に弱いわが心を強く揺さぶる。
従来の伝記映画を踏襲したオーソドックスな作りだが、テイラー・ハックフォード監督としては「愛と青春の旅立ち」以来の充実した仕事と言える。これ以上人間的な側面を追及したら却って本質を見失う。
また、レイに扮したジェイミー・フォックスのそっくりさんぶりは断然宜しい。
因みに、映画の中でアトランティックのスタッフに「ナット・“キング”・コールの二番煎じ」と言われているが、彼は十代の時ロサンゼルスでコールと仕事をしている。その前シアトルで知り合ったクインシー・ジョーンズとは結局仕事をすることはなかったようだ。
レイ・チャールズを失ったアトランティックはその後彼に劣らぬ大物アレサ・フランクリンを獲得している。良かったですね。
この記事へのコメント
ハエを感じたり、杖なしで あるくなど 常人離れしたところや 美人度を
手首ではかるなど エロイところも すべてレイの 魅力となっている。
と、申しましても、用心棒さんのところに時々コメントを残されていらっしゃいますので、初めてではないような気がします。
僕も人並みに音楽、特に70年代以前の洋楽をよく聞くので、観る前から興味津々で、実際観ても大変楽しめました。
ジェイミー・フォックスも大変良かったですね。
またお寄りください。
彼の音楽は知っていたものの、バックグラウンドはほとんど知らなかったので「へぇー」の連続の映画でした。
彼のユーモアのセンスは素敵でした(^^)
こちらから自由に出来ると良いのですが...。
歌を聴いているだけで楽しめてしまう利点を別にしても、かなり伝記映画としてそつなく出来た映画だと思います。
機会があって、先日、マルビルで二度目の試写会に行ってまいりましたが、二度観目に観ても感動を新たにしました。大変心に残る作品だと感じました。
ウェブリですね。今後とも宜しくお願い致します。
作りがどうのこうのうるさい親父ですが、全ての面で満足した素晴らしい作品でした。