映画評「アビエイター」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2004年アメリカ映画 監督マーティン・スコセッシ
ネタバレあり
奇行で知られたアメリカの大富豪ハワード・ヒューズの半生をマーティン・スコセッシがじっくりと作り上げた大作。
ヒューズは映画界にも深く縁があった人物で、1920年代のサイレント末期に「地獄の天使」という航空戦争映画を作り始めて、製作に困難を極めて遅れるうちにトーキー時代が到来、膨大な費用をつぎ込んでトーキーに変える、という離れ業を為しているが、この辺りは映画の前半でたっぷり描かれている。続いてジェーン・ラッセル主演に「ならず者」を作るが、こちらでは検閲を巡って相当苦労する場面がある。
映画製作への情熱は平行して映画女優への関心となっていき、最初にお熱を上げたのはアメリカ国民に最も愛された東部出身のインテリ女優キャサリン・ヘップバーン。演ずるのはケイト・ブランシェットで、見た目はそう似ていないが、早口で捲し立てる彼女には思わずにやり。アカデミー助演女優賞が当然の好演と言うべし。
次の対象は、30年代後半に売り出したエヴァ・ガードナーで、ケイト・ベッキンセールはご本人より線は細いがかなり雰囲気を出している。
まず映画業界周辺について述べて来たが、彼が飛行家であったのは題名にもなっているように周知の事実で、それ以上の比率で飛行機からみの場面が扱われている。
序盤から飛行場面にことかかず、特に実写でも観たことのある巨大な飛行機ハーキュリーズを飛ばす場面に夢が溢れる。CGのレベルも高い。
飛行機にかける夢は自ら飛ぶことに留まらず、飛行機・航空業界の征服へと拡がりTWAを買収、欧州航路を独占しようと上院議員(アラン・アルダ)と結託したパンナムに追い込まれるが、法律の矛盾点をついてこれも打破する。
これに彼の難聴や神経症などを折り込んで豪華絢爛たる伝記映画としてはまず合格と言えるだろう。
伝記映画としては合格かもしれないが、ドラマとして見ると、ヒューズの内面を必ずしも描き切れていないので全体として平板な印象すら残る。長すぎるという意見があるが、実は短すぎるのである。最近の客は気が短いので3時間以上は無理だったのかもしれない。
パンナムの野望が潰えたところで終了するのは断裁的で効果を挙げているが、1958年から76年に死ぬまで姿をくらましていたことを示す字幕くらいはあった方がヒューズをよく知らない観客に親切だった。
ヒューズを演ずるレオナルド・ディカプリオは童顔でミスキャスト気味(自ら製作総指揮した作品なので致し方ないですがね)ではあるが、演技力の一端が伺える。他に、上院議員に扮したアラン・アルダは抜群、女優陣については上に記した通り。
2004年アメリカ映画 監督マーティン・スコセッシ
ネタバレあり
奇行で知られたアメリカの大富豪ハワード・ヒューズの半生をマーティン・スコセッシがじっくりと作り上げた大作。
ヒューズは映画界にも深く縁があった人物で、1920年代のサイレント末期に「地獄の天使」という航空戦争映画を作り始めて、製作に困難を極めて遅れるうちにトーキー時代が到来、膨大な費用をつぎ込んでトーキーに変える、という離れ業を為しているが、この辺りは映画の前半でたっぷり描かれている。続いてジェーン・ラッセル主演に「ならず者」を作るが、こちらでは検閲を巡って相当苦労する場面がある。
映画製作への情熱は平行して映画女優への関心となっていき、最初にお熱を上げたのはアメリカ国民に最も愛された東部出身のインテリ女優キャサリン・ヘップバーン。演ずるのはケイト・ブランシェットで、見た目はそう似ていないが、早口で捲し立てる彼女には思わずにやり。アカデミー助演女優賞が当然の好演と言うべし。
次の対象は、30年代後半に売り出したエヴァ・ガードナーで、ケイト・ベッキンセールはご本人より線は細いがかなり雰囲気を出している。
まず映画業界周辺について述べて来たが、彼が飛行家であったのは題名にもなっているように周知の事実で、それ以上の比率で飛行機からみの場面が扱われている。
序盤から飛行場面にことかかず、特に実写でも観たことのある巨大な飛行機ハーキュリーズを飛ばす場面に夢が溢れる。CGのレベルも高い。
飛行機にかける夢は自ら飛ぶことに留まらず、飛行機・航空業界の征服へと拡がりTWAを買収、欧州航路を独占しようと上院議員(アラン・アルダ)と結託したパンナムに追い込まれるが、法律の矛盾点をついてこれも打破する。
これに彼の難聴や神経症などを折り込んで豪華絢爛たる伝記映画としてはまず合格と言えるだろう。
伝記映画としては合格かもしれないが、ドラマとして見ると、ヒューズの内面を必ずしも描き切れていないので全体として平板な印象すら残る。長すぎるという意見があるが、実は短すぎるのである。最近の客は気が短いので3時間以上は無理だったのかもしれない。
パンナムの野望が潰えたところで終了するのは断裁的で効果を挙げているが、1958年から76年に死ぬまで姿をくらましていたことを示す字幕くらいはあった方がヒューズをよく知らない観客に親切だった。
ヒューズを演ずるレオナルド・ディカプリオは童顔でミスキャスト気味(自ら製作総指揮した作品なので致し方ないですがね)ではあるが、演技力の一端が伺える。他に、上院議員に扮したアラン・アルダは抜群、女優陣については上に記した通り。
この記事へのコメント
あんまり長さを感じずに最後まで見る事が出来ました。
レオ様、童顔過ぎてちょっと貫禄にかけたのが残念。巧いなぁとは思ってももう少し、年を取ってから演じた方が似合ったような気がします。
実は、ヒューズのことほとんど知らなかったので、その後の彼が気になってウィキペディアでどんな人なのか調べてしまいました。最初からどんな人なのか知ってから見た方がずっとこの映画を楽しめただろうなぁ。アメリカじゃメジャーな人かもしれないけど、日本人にとってはちょっと馴染みが薄いかもしれませんね。
執拗に手を洗う神経症の病気があるということは知っていたので、そのあたりは素直に見れました。公聴会でのシーンは、上院議員との丁々発止のやりとりに夢中になってしまった。
>マーティン・スコセッシがじっくりと作り上げた大作。
これには納得です。ラストシーンは、その後の彼を表現しているようでなんだかとても寂しくなってしまいました。
子供の頃からハワード・ヒューズは大富豪として知っていました。その後映画史を研究した際に名前が出てきたのには意外な感じを受けましたが、確か「知ってるつもり」でも取り上げられたことがあり、彼の病気、飛行家としての実績、行方不明になったことなども知っていましたが、ここまでじっくりと見せてくれれば大いに楽しめますね。
彼の内面を十二分に描くにはまだ尺が短いような気さえしますが、今の時代これが限界なのでしょう。