映画評「ハリーの災難」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1956年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり
アルフレッド・ヒッチコック第42作。
ヒッチコック=恐怖と考えている人にとってはオヤッと思う内容だが、ヒッチに通暁している人なら大先生の趣味が一番発揮された作品と感じるだろう。原作はジャック・トレヴァー・ストーリーで、この種の作品を<死体のある喜劇>と言う。
ヴァーモント州の片田舎、就学前の少年が男の死体を発見し母親を呼びに行く間、猟をしていた老人エドマンド・グウェンが誤って射ち殺した思い死体の処分に困っているところへ、淑やかな中年婦人ミルドレッド・ナトウィック、眼の悪い医師や靴を拝借する乞食などが登場して通り過ぎていく。
誰一人気付かないか、気付いても驚かなかったりするとぼけた可笑しさ。
この辺りまでは小手調べで、少年の母親シャーリー・マクレーンが現れてからいよいよ本格的な展開へと入っていく。
男は彼女の夫ハリーで、彼女は久しぶりに現れた彼を牛乳瓶で殴ったと言い、彼女に気のある貧乏画家ジョン・フォーサイスがこれに絡み、やがてミルドレッドがハイヒールで殴ったと告白、様々な思惑により3回埋められて3回掘り起こされることになる。
ヒッチコックのスリラーでは多くの場面で恐怖とユーモアが表裏一体となって描かれているのだが、その部分を全編に広げたのがこの作品と考えると分かり易い。
人の心を癒す美しいことこの上ない風景の中に死体があり、人々が死体を見ても驚かず、料理についてのように話し、物のように埋めたり掘り返したりするブラック・ユーモアである。
牧歌的な風景と死体、死と日常的な生活が対位法的に描かれ極めて洗練されているが、かかる(ボケとツッコミのない)英国流ユーモアはなかなか理解して戴けないかもしれない。
僕は映画館で観た時背景の美しさと卓抜したユーモアに圧倒され、別の採点法ではあるが事実上の最高点(満点ではない)を与えたが、今回はTVということもあり、多少控え目にしておきたい。
役者はいずれも良いが、特に新人だったシャーリー・マクレーンがとぼけた話にふさわしく力の抜けた演技で絶品。さすがに後の大女優だなあと感心させられる。
最後に貧乏画家の書いた絵の中に僕が小学生の時に書いた絵とそっくりな作品があった。やっつけで書いたのに生まれて初めて金賞を獲った奇跡の一枚なので今でもよく憶えているのだ。
1956年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり
アルフレッド・ヒッチコック第42作。
ヒッチコック=恐怖と考えている人にとってはオヤッと思う内容だが、ヒッチに通暁している人なら大先生の趣味が一番発揮された作品と感じるだろう。原作はジャック・トレヴァー・ストーリーで、この種の作品を<死体のある喜劇>と言う。
ヴァーモント州の片田舎、就学前の少年が男の死体を発見し母親を呼びに行く間、猟をしていた老人エドマンド・グウェンが誤って射ち殺した思い死体の処分に困っているところへ、淑やかな中年婦人ミルドレッド・ナトウィック、眼の悪い医師や靴を拝借する乞食などが登場して通り過ぎていく。
誰一人気付かないか、気付いても驚かなかったりするとぼけた可笑しさ。
この辺りまでは小手調べで、少年の母親シャーリー・マクレーンが現れてからいよいよ本格的な展開へと入っていく。
男は彼女の夫ハリーで、彼女は久しぶりに現れた彼を牛乳瓶で殴ったと言い、彼女に気のある貧乏画家ジョン・フォーサイスがこれに絡み、やがてミルドレッドがハイヒールで殴ったと告白、様々な思惑により3回埋められて3回掘り起こされることになる。
ヒッチコックのスリラーでは多くの場面で恐怖とユーモアが表裏一体となって描かれているのだが、その部分を全編に広げたのがこの作品と考えると分かり易い。
人の心を癒す美しいことこの上ない風景の中に死体があり、人々が死体を見ても驚かず、料理についてのように話し、物のように埋めたり掘り返したりするブラック・ユーモアである。
牧歌的な風景と死体、死と日常的な生活が対位法的に描かれ極めて洗練されているが、かかる(ボケとツッコミのない)英国流ユーモアはなかなか理解して戴けないかもしれない。
僕は映画館で観た時背景の美しさと卓抜したユーモアに圧倒され、別の採点法ではあるが事実上の最高点(満点ではない)を与えたが、今回はTVということもあり、多少控え目にしておきたい。
役者はいずれも良いが、特に新人だったシャーリー・マクレーンがとぼけた話にふさわしく力の抜けた演技で絶品。さすがに後の大女優だなあと感心させられる。
最後に貧乏画家の書いた絵の中に僕が小学生の時に書いた絵とそっくりな作品があった。やっつけで書いたのに生まれて初めて金賞を獲った奇跡の一枚なので今でもよく憶えているのだ。
この記事へのコメント
なるほど、オカピーさんの映画評を読むと納得できますね。確かに死体があるということの異常さときわめて日常的な登場人物の言動の対比は見事だと思います。今ひとつ入り込めない作品であるということに変わりはないですが^^;
こちらこそ有難うございます。
当方、物凄いペースで古今東西に関係なく映画評なるものを書いていますが、FROSTさんのように、古い映画に専念すれば良かったかなあ、などと思います。そうすればもう少し丁寧に述べることも出来るのですが、どうもそこそこですませてしまいますね。
この作品については、私は最初から気に入ったのですが、どこがどう良いかと説明するのは難しいですね。とにかくこの笑いは高度に洗練されていて、可笑しい人にはとてつもなく可笑しいのだ、と言うほかないですね。
関西人の私としては、こんなにボケばっかりの登場人物なのにどうしてこんなに可笑しいんだろう??なんて思ってしまいましたが、なるほどそれは英国式なのですね・・・。
ブラックユーモアでこんなに笑えるとは思いませんでした。
死体に対して不謹慎なんでしょうが、それでも、皆が死体で遊んでいるように見えてきて、どうしても笑いを殺せませんでした(^o^;
おとぼけなのが良かったのかもしれませんね。
http://www.doblog.com/weblog/myblog/6480
この作品は解らないという日本人が多いので、嬉しいですね。アメリカや日本の笑いにはツッコミが入りますが、英国にはおとぼけで終るものが伝統的にあります。
不謹慎ではないのではないかなあ。死は人間にとって怖いものなので笑って誤魔化す、というのがブラック・ユーモアが生まれた要因でしょうから、笑える時は笑いましょう。
好き勝手やっている彼を見るのはとても楽しく、見ているほうも痛快な気分にさせてくれました。さぞ映画会社は宣伝に困ったろうと思います。実際、もっとも興行成績が悪い作品だったようですしね。
ヒッチが舌を出して、「アカンベエ」をしているような痛快さを感じます。ではまた。
この作品などは製作会社とのしがらみと関係なく作った作品なので、自由に作った感じがありますね。前後する「裏窓」「めまい」「サイコ」などと同じ奔放さがあって素晴らしいです。
恐らく配給会社(メジャーはほぼ製作会社に同じ)は頭を抱えたでしょうね。フランスの小劇場でロングランになったとトリュフォーが話していますが、内情は分らないようです。ホームシックになった英米人が観た可能性もありますね。
シャーリー・マクレーンについて双葉師匠が「抜群の魅力。ハリウッド近来の発見というに値する」と書いています。
>それしかできなかったなんて・・・
オカピー教授が長生きして良き人生を送る事が、更なる親孝行になるでしょう。
>トランプの支持層は40%に近いので油断がならない。
他民族、多宗教の国だからでしょうか?
>すぐに殺されてしまうのです。
まさにチョイ役。でも放映されたら録画して見たいです。
>土を掘ったり埋めたりする場面はスタジオでしょうか?
僕の記憶では、そのようでした。この時代の映画は超ロングショットはロケ、それ以外はスタジオというのが普通だったと思います。
4年後の1960年「サイコ」になると、殆どロケですね。家も実際にあった家を借りたと聞きました(記憶違い?)。
>シャーリー・マクレーン
>双葉師匠が「抜群の魅力。ハリウッド近来の発見というに値する」
師匠が良いと言った新人は、大概大成していますが、なぜか消えてしまった人もいます。諸事情があるんですねえ。シャーリーはズバリでした。
>オカピー教授が長生きして良き人生を送る事が、更なる親孝行
これには努めたいと思います。まずはコロナに去って戴かないと。
2週間後感染者数は相当増えそうで、下手すると来月後半にまた宣言が出す羽目になるかも。病院が心配になってきました。
>>トランプの支持層は40%に近いので油断がならない。
>他民族、多宗教の国だからでしょうか?
貧乏人が多いこと、リベラルが勢いづいた反動、といったところが結構あるかもしれませんね。
しかし、あべっち同様、コロナで支持率が下がり気味。このまま去ってほしい。その場合2年後くらいには彼に関する映画が次々発表されるでしょう。
>まさにチョイ役。でも放映されたら録画して見たいです。
民放地上波、民放BSで放映されそうな作品ですよ。番組欄をしっかり見ましょう(笑)。
>この時代の映画は超ロングショットはロケ、それ以外はスタジオというのが普通だった
教えて下さってありがとうございます。そして「サイコ」は全てロケなんですね。
>老人エドマンド・グウェン
実生活では第一次世界大戦に従軍したと言うのが時代を感じます。
ところで、この映画の終盤で彼が「俺は船長とは言っても海で航海した事がない船長だ。」と言う場面があります。遊園地の中の船長でしょうか?
>シャーリーはズバリでした。
「アパートの鍵貸します」のシャーリーも良かったです!
>下手すると来月後半にまた宣言が出す羽目になるかも。
僕の友人の内科医(開業医)も同じ事を言ってました。
>貧乏人が多いこと
荻昌弘先生が「ロッキー」の解説でそれを言ってました。
>番組欄をしっかり見ましょう(笑)。
今調べました。8月4日(火)ムービープラスで放映予定です。忘れないようにしたいです。
>「サイコ」は全てロケなんですね。
うるさい人に叱られるといけませんから、前時代のものよりロケが多い、くらいにしておきます。長いこと見直していないので、記憶違いが相当あるかもしれません。
>遊園地の中の船長でしょうか?
そういうことなんでしょうね。
>「アパートの鍵貸します」のシャーリーも良かったです!
「ハリー」は出世作、「アパート」は代表作ですね!
>僕の友人の内科医(開業医)も同じ事を言ってました。
実にまずいですね。
GO TO トラベル(変な英語ですが)の企画自体は否定しないけれど、政府が功を焦って早め、また延期しないことで、国民が変な自信を持ってしまったように思います。見込みの甘さによる失政でしょう。
>今調べました。8月4日(火)ムービープラスで放映予定です。
おやっ、早速ありましたか。
>そういうことなんでしょうね。
調べたらタグボートの船長でした。大事な役割です。
>見込みの甘さによる失政でしょう。
非を認めないし、責任も取らないでしょう。
>シャーリー・マクレーン
初めて彼女を見たのは「キャノンボール2」。ゴールデンラズベリー賞に多数ノミネートされた作品。
>ジョン・フォーサイス
その後、『チャーリーズ・エンジェル』における謎の司令者チャーリー役で有名になったんですね。
>フィリップ・カウフマン監督作品「ミネソタ大強盗団」
開拓史上有名な人たちジェームズ兄弟とヤンガー兄弟のお話。この人たちの映画は随分作られ、随分観ましたねえ。僕が見た中で一番古いのはタイロン・パワー主演の「地獄への道」「地獄への逆襲」ですかね。ジェームズ兄弟鹿出てきませんが。
「ミネソタ大強盗団」は大分前に観て、保存版も作っていますが、再鑑賞にはなかなか至らず。西部劇をやると結構顰蹙を買うので(笑)。
>調べたらタグボートの船長でした。
そうですか。それは失礼しましたm(__)m
>>シャーリー・マクレーン
>初めて彼女を見たのは「キャノンボール2」
僕は、「アパートの鍵貸します」だと思います。勿論TV放映。映画が公開された頃は、やっと歩けたかどうかの年齢でしょう(笑)
「キャノンボール」正編の出来も大したことないと思いましたが、続編が出来ました。出演者が結構豪華でね。
>>ジョン・フォーサイス
>チャーリーズ・エンジェル』における謎の司令者チャーリー役で有名に
そうでしたかねえ。声だけだったもので。元来TV俳優らしく、「ハリーの災難」の後もTV出演が多いです。
そう言えば、「キャノンボール」正編にファラー・フォーセットが出ていました。彼女は割合早く亡くなってしまいましたね。
>西部劇をやると結構顰蹙を買うので(笑)。
評論に対して色々な見方や考え方をする西部劇ファンがいるのでしょう。
>それは失礼しましたm(__)m
とんでもございません。僕自身映画を見てる時に彼がどんな船長なのかわかりませんでした(汗)。それと思い出したのは西岸良平先生の「三丁目の夕日」。海で航海をする船長になりたかった男。でも付き合ってる女性が妊娠。その後、遊園地の船長。奥さんが愛妻弁当を持ってくる。小市民の僕はそう言う人生の方が好きです(笑)。
>出演者が結構豪華でね。
第3作は未見です。カール・ルイスが出たんですか?
>彼女は割合早く亡くなってしまいましたね。
闘病中にマスコミが取材に来る。抗がん剤の副作用のせいか記者の前で嘔吐して「これが癌よ。」と言ったファラー。精神的に強い人だったと思います。元旦那は600万ドルの男。
>昨夜は田中徳三監督、勝新太郎と田宮二郎共演「悪名」(第1作)
田中徳三も碌に知らない昔観ました。2,3年前にWOWOWがシリーズを前作放映したので、録画しましたが、一本も観ていません。はは。
>小市民の僕はそう言う人生の方が好きです(笑)
小市民は小市民的に生きれば良いのに、体制の味方をして、自分が体制の人間にでもなった気でいる人がいます。しかし、彼らも小市民故の苦悩があるのでしょう。僕は理解できないけれど。
>カール・ルイスが出たんですか?
そんなことがありましたね(笑)。
しかし、第3作と言っても、香港のレイモンド・チョーが製作に加わっていないので、厳密には違う感じもします。前の2作もあか抜けないと思ったら、香港人の好みが入っていたからですね。
香港は今、大変なことになっていますが。
>元旦那は600万ドルの男。
リー・メージャーズ。多分僕が見た最後のアメリカ・ドラマ(最後まで観ていない気もしますが)。その後に「チャーリーズ・エンジェル」が出て来ましたが、まともには観なかった。シェリル・ラッドが加わってから少しだけ観たかな。