映画評「16歳の合衆国」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2003年アメリカ映画 監督マシュー・ライアン・ホーグ
ネタバレあり

この作品が監督デビュー作となるマシュー・ライアン・ホーグの脚本・監督作。前歴である少年院教官時代の経験を生かした物語らしい。

16歳の大人しい優等生ライアン・ゴスリングが恋人だったジェナ・マローンの知的障害の弟を殺害し、逮捕される。作家志望で強制施設の教官であるドン・チードルは著作のネタにしたいという思惑もあり、動機を探ろうとするのだが、少年はなかなか真相を語ろうとしない。
 しかし、教官の地道な接触が功を奏して少年は徐々に真相を明らかにしていき、観客はその内容をフラッシュバックによる回想を通して知ることになる。

映画評に専念している僕が滅多に書かない(狭義の)感想文を書きたくなる、そんな作品である。
 感想文とは内容について重点的に書くものであり、映画評とは作者が狙ったものをいかに上手く映像で表現したかを判断するものと理解されたい。つまり、基本的に内容にはそう深く踏み込まないのが僕のスタンスであるが、そうした部分についてもちょっと書きたくなったという意味である。

少年は幼年期に祖母が死んだ時「泣いても死者は生き返らない」と思ったほど感受性が豊かで、知的障害の少年が感じる孤独を察知してしまい、不憫に思って殺してしまうのだが、施設で教官と触れることで、いかなる事情があれ人が他人の未来を奪うことは許されないことに気付く。その一方で教官自身も自己中心的だった自身を反省せねばならないのだ。しかし、それほど深く物事を考えられない人物が現れ、自体を一変させてしまう。

未見の人の為に詳細は伏せるが、終盤の作劇が上手い。人生の不条理を鮮やかに映像に展開している。
 撮影はインディの平均的レベルで、格別目に付いたところはないが、少なくとも文学的な見地ではこの監督に注目していて損はないだろう。

配役陣では、16歳の主人公に扮したゴスリングの無力感を感じさせる演技が良く、教官を演じたチードルも大変素晴らしい。少年の父親である有名作家として、製作を兼ねたケヴィン・スペイシーが出演。

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  • <16歳の合衆国> 

    Excerpt: 2003年 アメリカ 105分 原題 The United States of Leland 監督 マシュー・ライアン・ホーグ 脚本 マシュー・ライアン・ホーグ 撮影 ジェームズ・グレノン 音楽 ジェ.. Weblog: 楽蜻庵別館 racked: 2006-07-08 21:13