映画評「間違えられた男」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1957年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり
アルフレッド・ヒッチコック第44作。
ヒッチコック自身は駄作と言うが、映画としては水準を遥かに超え、ヒッチコック映画として幾つかあるうちの失敗作の一つに過ぎない。失敗作が駄作であるとは限らない。
ニューヨーク、バンドのベースマン、ヘンリー・フォンダが保険会社強盗事件の犯人として自宅前で逮捕され拘留され、親戚の援助により保釈されるが、アリバイ調査中の無力感に妻ヴェラ・マイルズは正気を失ってしまう。裁判でも再審理に逃げ込むのが精一杯だが、幸運にもその間に真犯人が馬脚を現す。
1952年に起きた冤罪事件をほぼ忠実に映画化した、ヒッチコックには珍しい社会派サスペンスと言って良いが、結果的にドキュメンタリー・タッチの作品は、映像の可能性を求めるヒッチコックの指向とは水と油の関係であることを証明してしまい、この後決してこの類の作品を作ることはなかった。
前半は完全なセミ・ドキュメンタリーなのだが、唯一独房に入る場面でカメラがぐるぐる回るカットにより写実的な描写を放棄してしまうし、後半は躊躇しながらもヒッチコック・タッチを展開した部分が少なくない。ヒッチコックの製作意図はともかく、実話をほぼ忠実に映像化する作品の性格に立ち返れば、破綻した演出と言わざるを得ないのである。
さらに、夫人が正常に戻らぬままに終る幕切れは断裁的で優れているが、「一家は今幸福に暮している」という字幕を映画会社がつけたのも恐怖を減殺して興醒め。実際の妻は製作時点で正常に戻っていないにも拘わらずである。
警察が主人公に呼び掛ける場面は、ヒッチコックの警察・官憲への恐怖心が十二分に表現されていて重く、主人公の顔と真犯人の顔がオーヴァーラップする場面は秀逸。
因みに、僕は20年ほど前の冬、プラットホームをぶらぶらしたせいで、キセル容疑で鉄道保安室で尋問を受けたことがある。それだけでも相当不愉快な思いをしたわけだが、日本でも痴漢の冤罪は少なくなさそうであるし、とても他人事(ひとごと)とは思えない。
1957年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり
アルフレッド・ヒッチコック第44作。
ヒッチコック自身は駄作と言うが、映画としては水準を遥かに超え、ヒッチコック映画として幾つかあるうちの失敗作の一つに過ぎない。失敗作が駄作であるとは限らない。
ニューヨーク、バンドのベースマン、ヘンリー・フォンダが保険会社強盗事件の犯人として自宅前で逮捕され拘留され、親戚の援助により保釈されるが、アリバイ調査中の無力感に妻ヴェラ・マイルズは正気を失ってしまう。裁判でも再審理に逃げ込むのが精一杯だが、幸運にもその間に真犯人が馬脚を現す。
1952年に起きた冤罪事件をほぼ忠実に映画化した、ヒッチコックには珍しい社会派サスペンスと言って良いが、結果的にドキュメンタリー・タッチの作品は、映像の可能性を求めるヒッチコックの指向とは水と油の関係であることを証明してしまい、この後決してこの類の作品を作ることはなかった。
前半は完全なセミ・ドキュメンタリーなのだが、唯一独房に入る場面でカメラがぐるぐる回るカットにより写実的な描写を放棄してしまうし、後半は躊躇しながらもヒッチコック・タッチを展開した部分が少なくない。ヒッチコックの製作意図はともかく、実話をほぼ忠実に映像化する作品の性格に立ち返れば、破綻した演出と言わざるを得ないのである。
さらに、夫人が正常に戻らぬままに終る幕切れは断裁的で優れているが、「一家は今幸福に暮している」という字幕を映画会社がつけたのも恐怖を減殺して興醒め。実際の妻は製作時点で正常に戻っていないにも拘わらずである。
警察が主人公に呼び掛ける場面は、ヒッチコックの警察・官憲への恐怖心が十二分に表現されていて重く、主人公の顔と真犯人の顔がオーヴァーラップする場面は秀逸。
因みに、僕は20年ほど前の冬、プラットホームをぶらぶらしたせいで、キセル容疑で鉄道保安室で尋問を受けたことがある。それだけでも相当不愉快な思いをしたわけだが、日本でも痴漢の冤罪は少なくなさそうであるし、とても他人事(ひとごと)とは思えない。
この記事へのコメント
ただ,実話の場合は本人の名誉の問題もありますし,難しいのでしょうね。私もヒッチコックの映画作りとドキュメンタリータッチは合わないなと思いました。
この映画はワーナー・ブラザーズの為に作ったらしいですね。当時はまだ映画作りにかなりの制限が残っていたようですし、私の知る限り、最後の字幕はワーナーの独断で、ヒッチコックは関知していないはずです。あの字幕がなければ、冤罪の恐怖度が高いままに終るので、甘さのない素晴らしい幕切れだったのですが。
自分なりに作品の思いをまとめてから、こちらにお邪魔すると2倍以上楽しめますね(始めからオカピーさんところを見てしまうと、自分がわかったような勘違いをしてしまいそうで・・・)。
ボクは題名からなんだかヒッチコックらしさを体現している作品と過剰な期待をしてしてしまったのが、個人的な敗因だった?のかなという気持ちがしました。といいながらも、どこかにひっかかりがあるものでつまらなかったでは返してくれませんね。。。
いやあ、そんなことを仰られると舞い上がってしまいますよ~。どうも有難うございます。
やはり失敗作だとは思いますが、駄作ではないでしょう。映画としてはがっちりできています。
ヒッチコックは子供の時に(親により罰として)留置所に閉じ込められたことがあり、その時以来警察は大嫌いだそうで、その強い思いがあの警官二人が現れる場面に反映されているような気がします。
本文でも書いたように、決して駄作ではありません。ヒッチは実録風に撮るには才能が溢れすぎている。その辺の落差が出てしまったので成功作と言えないだけです。
私も軽い冤罪をかけられて1時間ほど拘束されたことがありますが、本当に嫌なものです。