映画評「フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2003年アメリカ映画 監督エロール・モリス
ネタバレあり
2004年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞に輝いた作品だが、相当興味深い。
ジョン・F・ケネディー及びリンドン・ジョンスン大統領時代に国防長官を務めたロバート・ストレンジ・マクナマラのインタビューに関連写真や映像を交え、それを11のチャプターとエピローグという構成を取っているのだが、戦争屋とまで揶揄された当の人物から放たれる言葉は国政を司る者への教訓ともアメリカへの批判とも取れる金言の数々である。
序盤は劇映画「13デイズ」でも描かれた1962年のキューバ危機について語るが、ケネディー、マクナマラ、元駐ソ大使トンプスンなどの肉声が聞けるのが貴重であるし、その会話こそが核戦争を防いだのだという、ドラマとは違う感慨がある。
その後暫くは彼の半生の物語を扱うが、結果的に国防長官への布石はこの時代に敷かれていたのであるから大変意義のある語りと言うべきである。
ハーバード大学で経営学を学び助教授になるが、第2次大戦中彼の統計管理学が作戦に活用され、必要以上の日本人が殺されることになる。その時の上官が後に彼の下で将軍職を務める好戦的なルメイというのも皮肉で、彼が上司でなければここまでの死者が出ることはなかったであろうという仮定が言外に滲み出、目的と結果のアンバランスが指摘される。
彼の言葉は決して自己弁護ではないのだが、少なくとも戦争屋という批判が全く的外れだったと思わせる真実の重さがある。
戦後ひどい経営をしていたフォード社に採用され、1960年に社長にまで登りつめる。フォードという名前の付かない最初の社長であるが、僅か5週間務めただけでケネディーから国防長官の声がかかり、殆ど躊躇なく就任、ここから彼の短からぬ苦闘の年月が始まる。
ベトナム戦争は予想外にアメリカの苦戦の連続で、マクナマラは撤退を進言するが、それが本格化する前にケネディーが暗殺され、より好戦的なジョンスンが急遽大統領に就任する。ケネディーとジョンスンとのきな臭い関係は「JFK」で推理されているが、その真偽はともかく、軍人の勘違い(トンキン湾事件)も手伝って北爆開始、即ち、ベトナム戦争の泥沼化が始まるのである。その直接の責任者はジョンスンだとマクナマラは断言し、ケネディーなら別の結果をもたらしたはずだと言うが、決して非難はしない。
ベトナム戦争の総死者は58000人、彼の就任期間(約8年)では43%に当たる25000人。マクナマラ引退後7年、ジョンスン引退後6年後の1975年にベトナム戦争は米国の敗北をもって遂に終結する。
CGを駆使して作り上げた空想的な物語には退屈することが多い。何故ならそれらを観ることは自己の想像力の限界を他人に補わせる作業に過ぎないからである。それでも一部の良質なものには確かに心を動かされる。
その一方で、ドキュメンタリーには興味深いものが多い。特に我々が知らない世界を教えてくれるものは、題材の古今東西を問わず、思わず引き寄せられる。僕は想像することをやめたのか。いや、ドキュメンタリーには想像力と思考力を働かせる必要のある部分が、むしろファンタジーより、多いのである。その中でも本作は示唆に富み、断然面白い部類に入ると思う。
2003年アメリカ映画 監督エロール・モリス
ネタバレあり
2004年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞に輝いた作品だが、相当興味深い。
ジョン・F・ケネディー及びリンドン・ジョンスン大統領時代に国防長官を務めたロバート・ストレンジ・マクナマラのインタビューに関連写真や映像を交え、それを11のチャプターとエピローグという構成を取っているのだが、戦争屋とまで揶揄された当の人物から放たれる言葉は国政を司る者への教訓ともアメリカへの批判とも取れる金言の数々である。
序盤は劇映画「13デイズ」でも描かれた1962年のキューバ危機について語るが、ケネディー、マクナマラ、元駐ソ大使トンプスンなどの肉声が聞けるのが貴重であるし、その会話こそが核戦争を防いだのだという、ドラマとは違う感慨がある。
その後暫くは彼の半生の物語を扱うが、結果的に国防長官への布石はこの時代に敷かれていたのであるから大変意義のある語りと言うべきである。
ハーバード大学で経営学を学び助教授になるが、第2次大戦中彼の統計管理学が作戦に活用され、必要以上の日本人が殺されることになる。その時の上官が後に彼の下で将軍職を務める好戦的なルメイというのも皮肉で、彼が上司でなければここまでの死者が出ることはなかったであろうという仮定が言外に滲み出、目的と結果のアンバランスが指摘される。
彼の言葉は決して自己弁護ではないのだが、少なくとも戦争屋という批判が全く的外れだったと思わせる真実の重さがある。
戦後ひどい経営をしていたフォード社に採用され、1960年に社長にまで登りつめる。フォードという名前の付かない最初の社長であるが、僅か5週間務めただけでケネディーから国防長官の声がかかり、殆ど躊躇なく就任、ここから彼の短からぬ苦闘の年月が始まる。
ベトナム戦争は予想外にアメリカの苦戦の連続で、マクナマラは撤退を進言するが、それが本格化する前にケネディーが暗殺され、より好戦的なジョンスンが急遽大統領に就任する。ケネディーとジョンスンとのきな臭い関係は「JFK」で推理されているが、その真偽はともかく、軍人の勘違い(トンキン湾事件)も手伝って北爆開始、即ち、ベトナム戦争の泥沼化が始まるのである。その直接の責任者はジョンスンだとマクナマラは断言し、ケネディーなら別の結果をもたらしたはずだと言うが、決して非難はしない。
ベトナム戦争の総死者は58000人、彼の就任期間(約8年)では43%に当たる25000人。マクナマラ引退後7年、ジョンスン引退後6年後の1975年にベトナム戦争は米国の敗北をもって遂に終結する。
CGを駆使して作り上げた空想的な物語には退屈することが多い。何故ならそれらを観ることは自己の想像力の限界を他人に補わせる作業に過ぎないからである。それでも一部の良質なものには確かに心を動かされる。
その一方で、ドキュメンタリーには興味深いものが多い。特に我々が知らない世界を教えてくれるものは、題材の古今東西を問わず、思わず引き寄せられる。僕は想像することをやめたのか。いや、ドキュメンタリーには想像力と思考力を働かせる必要のある部分が、むしろファンタジーより、多いのである。その中でも本作は示唆に富み、断然面白い部類に入ると思う。
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