映画評「きみに読む物語」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年アメリカ映画 監督ニック・カサヴェテス
ネタバレあり
「ミルドレッド」という地味ながら素晴らしい秀作を放ったニック・カサヴェテスだが、昨年日本公開のこの作品にも唸った。
ある介護施設、老人ジェームズ・ガーナーが入所者の老女ジーナ・ローランズにある物語を読んで聞かせる。外部からやってくる老人の日課である。映画は彼の語るお話に従い、1940年代のノースカロライナの田舎へと我々を飛ばす。
町から両親とともに休暇を過ごしにやって来た上流階級の娘レイチェル・マクアダムズは、製材所で働く青年ライアン・ゴスリングに強引に誘われるうちその自由奔放さに惹かれ、デートを重ねていくが、両親はしっかりした将来設計を強制、休暇を切り上げたところで第二次大戦が本格化、二人の運命は変わって行く。
彼からの手紙を尽く母に握り潰され失望した彼女は、やがて退役した青年弁護士ジェームズ・マースデンと婚約するのだが、偶然が燻った恋の炎に再び火を付け、彼女は大きな選択を迫られることになる。
老人の語る話が彼に絡む実話であることは想像がつくが、聞いているジーナが一見かくしゃくとしているのでアルツハイマーとはなかなか気付かない。ここに作劇の妙がある。
彼の語る初恋物語だけでも<選択>をテーマに相当手応えのある出来栄えだが、老女こそ少女の現在の姿で、しかも彼が読むのが彼女が書いた日記であると判ると、共感を超え、紆余曲折を経て結ばれた二人の愛情に激しく心を揺さ振られてしまう。
アルツハイマーをテーマにした映画の多くは現在だけを描くが、本作では青春時代からの連続性と対比があるからこそ妻の日記を読む老人の姿に、より深い感動を覚えるのである。
この感動は、愛そのものの持つ美しさに対する極めて理知的な反応であり、最近流行している純愛映画の哀しい結末、死や別離に対する本能的な同情心や憐憫とは違う種類のもので、一段と深い。最後に起きる奇跡については言わずものがな。
本作ほどは劇的に作られていないが、アルツハイマーになった閨秀作家に対する夫の献身を描いた英国映画「アイリス」でも同じような感慨を持ったのを今思い出した。
カサヴェテスはジーナの実の息子だから彼女については誰よりもよく知っていて、「ミルドレッド」同様に抜群の演技を引き出す。しかし彼女はいつも上手いので、この作品の貢献度No.1は夫を演じたジェームズ・ガーナーということにしたい。髪が薄くなった上に眼鏡をかけると別人のようで、滋味溢れる演技は若い頃とは比べ物にならない。ゴスリングは「16歳の合衆国」のほうが印象深いが、これも悪くない。新人レイチェル嬢は誠に有望。
2004年アメリカ映画 監督ニック・カサヴェテス
ネタバレあり
「ミルドレッド」という地味ながら素晴らしい秀作を放ったニック・カサヴェテスだが、昨年日本公開のこの作品にも唸った。
ある介護施設、老人ジェームズ・ガーナーが入所者の老女ジーナ・ローランズにある物語を読んで聞かせる。外部からやってくる老人の日課である。映画は彼の語るお話に従い、1940年代のノースカロライナの田舎へと我々を飛ばす。
町から両親とともに休暇を過ごしにやって来た上流階級の娘レイチェル・マクアダムズは、製材所で働く青年ライアン・ゴスリングに強引に誘われるうちその自由奔放さに惹かれ、デートを重ねていくが、両親はしっかりした将来設計を強制、休暇を切り上げたところで第二次大戦が本格化、二人の運命は変わって行く。
彼からの手紙を尽く母に握り潰され失望した彼女は、やがて退役した青年弁護士ジェームズ・マースデンと婚約するのだが、偶然が燻った恋の炎に再び火を付け、彼女は大きな選択を迫られることになる。
老人の語る話が彼に絡む実話であることは想像がつくが、聞いているジーナが一見かくしゃくとしているのでアルツハイマーとはなかなか気付かない。ここに作劇の妙がある。
彼の語る初恋物語だけでも<選択>をテーマに相当手応えのある出来栄えだが、老女こそ少女の現在の姿で、しかも彼が読むのが彼女が書いた日記であると判ると、共感を超え、紆余曲折を経て結ばれた二人の愛情に激しく心を揺さ振られてしまう。
アルツハイマーをテーマにした映画の多くは現在だけを描くが、本作では青春時代からの連続性と対比があるからこそ妻の日記を読む老人の姿に、より深い感動を覚えるのである。
この感動は、愛そのものの持つ美しさに対する極めて理知的な反応であり、最近流行している純愛映画の哀しい結末、死や別離に対する本能的な同情心や憐憫とは違う種類のもので、一段と深い。最後に起きる奇跡については言わずものがな。
本作ほどは劇的に作られていないが、アルツハイマーになった閨秀作家に対する夫の献身を描いた英国映画「アイリス」でも同じような感慨を持ったのを今思い出した。
カサヴェテスはジーナの実の息子だから彼女については誰よりもよく知っていて、「ミルドレッド」同様に抜群の演技を引き出す。しかし彼女はいつも上手いので、この作品の貢献度No.1は夫を演じたジェームズ・ガーナーということにしたい。髪が薄くなった上に眼鏡をかけると別人のようで、滋味溢れる演技は若い頃とは比べ物にならない。ゴスリングは「16歳の合衆国」のほうが印象深いが、これも悪くない。新人レイチェル嬢は誠に有望。
この記事へのコメント
「うまいこと言うな」という感じ。
こんな風に愛されてみたいこんな風に愛することが出来たら、そしてその人と添い遂げることが出来たら、こんな幸せなことはないでしょうね。
突然豹変した妻に悲鳴をあげられ、さっきまで腕の中にいた妻が遠い存在になる。そのシーンがとてもせつなくて忘れられません。
思わずもらい泣きしちゃった。
こんにちは。お体の具合は良いですか?
最近やや邦題に力を入れる配給会社が増えてきましたね。あざといものを感じないでもないですが、いいことだと思います。内容に照らしても実にうまい邦題です。ネタバレ気味ですが、決して正味は分らない、といったところ。
>chibisaruさん
こんにちは。
決して単純なお涙頂戴が嫌いなわけではないですが、やはり本能より理知に訴えて泣かせるほうが心に残ります。
人間の尊厳を奪うアルツハイマーはどんな死病よりも切ない病気です。<
行かないでくれ>。あそこは泣けましたね。
やっと、オカピーさんのブログで作品検索する方法がわかりましたよ~(笑
わたしは、暖かい涙を流せるので(ずっと涙出っぱなしです)この作品大好きです。
TB入っていないです(泣)。もう一度お願い致します。
作りが巧妙かつ自然なので感心した作品です。その点若者版の「私の頭の中の消しゴム」は些か不自然で、映画的には大分差があるなと感じました。韓国ロマンスとしては悪くないほうですが。
今度はうまくいけばいいのですが。
今日明日と、仕事です。
連休合間の出勤は結構めんどくさ~い。
もう「お帰りなさい」ですかな(笑)。
私は諸事情により退社致して今は文字通り自由業ですが、会社員時代GWの連休は飛び飛びではなかったですね。
営業故に休みの日にテレックス、ファックス等をチェックに出勤したことがありますが、そんな時に限ってねずみ捕りがいまして、24km/hオーバーで違反キップ切られたり。
確かに<休むなら休む>、<出るなら出る>のほうが良いですよね。
さすがに語りにくそうですね。^^
わざわざ有難うございました。