映画評「ドリーマーズ」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2003年イギリス=フランス=イタリア映画 監督ベルナルド・ベルトルッチ
ネタバレあり
ベルナルド・ベルトルッチも自己の心境を語りたい年頃になったということだろうか。この作品は映画作家としての彼の思いが少なからず語られていると思う。しかし、単細胞な僕にはそれがどういうものかは殆ど掴みきれずに終った。
1968年のパリは五月革命に揺れたわけだが、その直前アメリカからパリに渡りシネマテークに通い始めた映画ファンたる19歳の少年マイケル・ピットが、創設者アンリ・ラングロワの追放に伴ってシネマテークが封鎖された時に、同好の志であるルイ・ガレルとエヴァ・グリーンの兄妹と知り合い、観たいものも観られないので彼らの家に引きこもり、罰ゲームを伴う映画クイズなどして、デカダンな日々を過ごす。
この罰ゲームというのが曲者で、実に退廃的で気色が悪い。ベルトルッチの旧作「ラスト・タンゴ・イン・パリ」を思わせる部分もあるが、この三人の近親相姦ムードに支配された関係はジャン・コクトー原作でジャン=ピエール・メルヴィルが監督した「恐るべき子供たち」をベースにしているようだ。
そして、彼らの退廃的なモラトリアムな日々は一つの投石により終りを告げる。夢から現実に引き戻された瞬間だ。兄妹は革命の現実に目覚め、部外者である米国青年はパリを後にする。
ドラマの形式としては実に鮮やかな幕切れと言うべし。
劇中「暗黒街の顔役」や「クリスチナ女王」といったシネマテーク好みの古いハリウッド映画が扱われ、チャップリン対キートン論争もあるが、全体としてはヌーヴェルヴァーグ、特に「勝手にしやがれ」「はなればなれに」が具体的に紹介されたジャン=リュック・ゴダールへのオマージュが強く感じられる。
ガス管を引いて自殺しようかという場面でロベール・ブレッソンの「少女ムシェット」の自殺シーンをオーヴァーラップさせているが、余り文学的に考えても面白くないし、実際彼の考えていることがそれほど上手く展開されているとは思えないので、ベルトルッチの映画マニア宣言みたいに捉えたほうが楽しい。
ジミ・ヘンに ジャニス・ジョプリン ドアーズも クリームなければ 片手落ちなり
2003年イギリス=フランス=イタリア映画 監督ベルナルド・ベルトルッチ
ネタバレあり
ベルナルド・ベルトルッチも自己の心境を語りたい年頃になったということだろうか。この作品は映画作家としての彼の思いが少なからず語られていると思う。しかし、単細胞な僕にはそれがどういうものかは殆ど掴みきれずに終った。
1968年のパリは五月革命に揺れたわけだが、その直前アメリカからパリに渡りシネマテークに通い始めた映画ファンたる19歳の少年マイケル・ピットが、創設者アンリ・ラングロワの追放に伴ってシネマテークが封鎖された時に、同好の志であるルイ・ガレルとエヴァ・グリーンの兄妹と知り合い、観たいものも観られないので彼らの家に引きこもり、罰ゲームを伴う映画クイズなどして、デカダンな日々を過ごす。
この罰ゲームというのが曲者で、実に退廃的で気色が悪い。ベルトルッチの旧作「ラスト・タンゴ・イン・パリ」を思わせる部分もあるが、この三人の近親相姦ムードに支配された関係はジャン・コクトー原作でジャン=ピエール・メルヴィルが監督した「恐るべき子供たち」をベースにしているようだ。
そして、彼らの退廃的なモラトリアムな日々は一つの投石により終りを告げる。夢から現実に引き戻された瞬間だ。兄妹は革命の現実に目覚め、部外者である米国青年はパリを後にする。
ドラマの形式としては実に鮮やかな幕切れと言うべし。
劇中「暗黒街の顔役」や「クリスチナ女王」といったシネマテーク好みの古いハリウッド映画が扱われ、チャップリン対キートン論争もあるが、全体としてはヌーヴェルヴァーグ、特に「勝手にしやがれ」「はなればなれに」が具体的に紹介されたジャン=リュック・ゴダールへのオマージュが強く感じられる。
ガス管を引いて自殺しようかという場面でロベール・ブレッソンの「少女ムシェット」の自殺シーンをオーヴァーラップさせているが、余り文学的に考えても面白くないし、実際彼の考えていることがそれほど上手く展開されているとは思えないので、ベルトルッチの映画マニア宣言みたいに捉えたほうが楽しい。
ジミ・ヘンに ジャニス・ジョプリン ドアーズも クリームなければ 片手落ちなり
この記事へのコメント
<クリーム
ジミ・ヘン、ジャニス・ジョプリン、ドアーズあたりはCDも持っているけど
クリームは「ホワイトルーム」という超有名な曲ぐらいしか知らないです^^;)。
でクリームを語る前にヤードバーズでしょうか…?^^;)
確かにお話の構図としては分りやすいのですが、ベルトルッチの映画事始のように理解して良いのかとやや疑問なのです。恐らく彼はヌーヴェルヴァーグの影響下で映画作りに入っていったのでしょうが。
50~70年代の洋楽が大好きですが、この中ではドアーズですね。でも、ジャニスの「サマータイム」、ジミ・ヘンの「紫のけむり」あたり、たまりませんね。この映画の選曲はかなりマニアックでした。
クリームは演奏は良いけど、ブルース寄りなのでちょっとピンと来ない部分があり、それは第1次ヤードバーズ辺りと共通します。
ぶーすかさんもかなりの洋楽マニアですね?
60年代から洋楽は<聞いていました>が、さすがに<聴いて>はいませんでしたね。本格的に<聴き>始めたのは70年代になってからで、かくいう僕もドアーズを本格的に聞くようになったきっかけは「地獄の黙示録」です。60年代から「ハートに火をつけて」あたりでよく知っていましたが、「ジ・エンド」でぐっと来たわけです。ジム・モリソンのいるドアーズのLPはどれも素晴らしい。実は「LAウーマン」を聴きながらこれを書いています。
私が好きなのはすこし暗い(ドアーズそのものがそうなんですが)「まぼろしの世界」です。ジム・モリスンがこのアルバムが一番ぴたっとしているような。コッポラとジ・モリスンは大学の同級生なんですってね。
ストーリーは至ってシンプルなんですが、なんかもっと深いとこで何かあるのかなって考えてしまいますが、みたまんまなんでしょうな。
映画については本文をお読みいただくとして(笑)、
>まぼろしの世界
いやあ、暗くて良いですね。で、早速聴いております(笑)。
タイトル曲の「まぼろしの世界」People Are Strangeが特に好きです。
以下、私の翻訳。
はぐれ者の君には 道行く誰もが変人
ひとりぼっちの君には 出逢うどの顔もお化け
求められぬ君には 女は邪悪な生き物
ひどく落ち込んだ君には 歩く道もでこぼこなのさ
君が奇妙なら
皆 君を避けて通るさ
君が奇妙なら
誰も名前なんて憶えてくれないさ
君が奇妙なら
オカピーさんの書かれている通り、罰ゲームのシーンがどうも気色悪く、その割にはB級っぽさが無く、変にマジメなテイストだったりで・・・つまり生理的・感覚的にノレない映画でした。
すごい悪いわけではないのですが、ベルトルッチの作品という「色」があまり見えませんでした。
まあ、そんなに好きな監督では元々無いのですが、「暗殺の森」はなんだか三島の小説を映像化したみたいな世界観で、面白かった記憶があります。
余談ですが、"People Are Strange"は80年代半ば過ぎに人気のあったエコー&ザ・バニーメンがカヴァーしていて、結構、こちらもイケてましたよ♪
まあ余り気色の良い部類の作品ではないです。
それでも、1968年のことは映画史上においても重要な年ですし、色々な作品へのオマージュが楽しめたというのも事実ですから上記の点に落ち着きました。
「暗殺の森」は原作がイタリア文学界の重鎮モラヴィアで、三島由紀夫とは文学史的にほぼ同世代ではないかなあ。確かに二人の世界観は似ているかも?(かなり適当)
「暗殺の森」がベルトルッチのベストと思っております。
>エコー&バニーメン
名前くらいしか知りません。私の洋楽の守備範囲は大体80年代半ばまでで、後は名前と曲が一致しない場合が多いです(笑)。
ビートルズがデビューした1963年からウッドストックを経て彼らが事実上空中分裂した1969年が、イーグルスが「ホテル・カリフォルニア」で歌ったように、本当のロックの時代だったと考えます。
♪We haven't had the spirit here since 1969
(1969年以来私どもは、ワインを置いていないのでございます)
ここではspiritは酒(ワインのこと)と(ロック)精神のダブル・ミーニングを成しているものと解釈しております。
ドアーズ(ジム・モリスン)はその時代にあって最も偉大なロック・アーティストだったと思いますね。
何を仰います。
同じように見えても書いているうちに個性が出てくるものです。最初はみな硬いですよ。
ベルトルッチなんでこれ撮った?って初め思ったけど、でもなんか引っ掛かる映画でね。ちょっと思いいれすぎた文章になったけど…
TBします。上でドアーズでもりあがってましたね。
「ドリーマーズ」のコメント入れにくかったら困るから、話題を変えて(笑)
それから、先日、山田宏一氏「<増補>トリュフォー、ある映画的人生」読んで泣きました!。評伝ものでここまで胸にせまったの初めて!記事アップしたら「大人は判ってくれない」にTBしますね。
これ読んでから、また「大人は判ってくれない」みると、びんびん響きます。他にもトリュフォー関係とか山田氏のもの読んだんですけどね。これは格別。
「暗殺の森」にはいたく感心したものの、そもそもベルトルッチがそれほど好きではなく、本作も「映画人として我が身を振り返ってみたのではないかなあ」と思えたところが興味深いだけで、青春映画としては気取っているという印象が強かったです。
>山田宏一氏「<増補>トリュフォー、ある映画的人生」
面白そうですね。
「大人は判ってくれない」はサボって見直さずに昔の記事を転載しただけだから、失敗。また後でしっかり観て書きますよ。来年以降でしょうけど。