映画評「私は告白する」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1952年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり
アルフレッド・ヒッチコック第38作。
カナダはケベック州、神父モンゴメリー・クリフトは教会の香部屋係として働いているO・E・ハッセから強盗の末に弁護士を殺したことを懺悔される。
ところが、犯人が神父に偽装して犯行に及んだこと、神父が議員の妻となっている昔の恋人アン・バクスターからその弁護士の脅迫について相談されていたことから、官憲は神父を疑い出す。神父は信者の懺悔を他人に告げてはならないのがカトリックの戒律なので彼は深いジレンマに陥ることになる。
映画はその戒律について登場人物に再三説明させているので、どこの国の非カトリック信者の観客にも基本的にこのジレンマが理解出来るようになっている。この設定こそが本作の最大の見どころなのだが、我々はカトリックから遠いところにいるが為に却って素直にこの設定が信じられるのであって、寧ろプロテスタントあたりには嘘っぽい物語ということになるかもしれない。
本当らしさということについて言えば、容疑の決め手といった重要なポイントが偶然の一致によるのが弱いとされるが、TV「アンビリバボー」などを見ても分るように世の中には実に不可思議な偶然というものが数多く存在する。従って、僕はこの一致を弱点とは殆ど思わない。
一番の問題はそこではなく、結末の付け方、即ち、ハッセの妻ドリー・ハースに解決を委ねてしまったことである。しかし、その彼女がモンティー(モンゴメリー・クリフトの愛称)の様子を伺いながら神父たちに朝食を配る場面は秀逸。
配役では、僧服を着てまっすぐに歩くモンティーが強い意志を感じさせる好演。ハッセのドイツ系らしい悪魔性も印象深く、ゲーテの「ファウスト」でも読んでいる気分になった。
1952年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり
アルフレッド・ヒッチコック第38作。
カナダはケベック州、神父モンゴメリー・クリフトは教会の香部屋係として働いているO・E・ハッセから強盗の末に弁護士を殺したことを懺悔される。
ところが、犯人が神父に偽装して犯行に及んだこと、神父が議員の妻となっている昔の恋人アン・バクスターからその弁護士の脅迫について相談されていたことから、官憲は神父を疑い出す。神父は信者の懺悔を他人に告げてはならないのがカトリックの戒律なので彼は深いジレンマに陥ることになる。
映画はその戒律について登場人物に再三説明させているので、どこの国の非カトリック信者の観客にも基本的にこのジレンマが理解出来るようになっている。この設定こそが本作の最大の見どころなのだが、我々はカトリックから遠いところにいるが為に却って素直にこの設定が信じられるのであって、寧ろプロテスタントあたりには嘘っぽい物語ということになるかもしれない。
本当らしさということについて言えば、容疑の決め手といった重要なポイントが偶然の一致によるのが弱いとされるが、TV「アンビリバボー」などを見ても分るように世の中には実に不可思議な偶然というものが数多く存在する。従って、僕はこの一致を弱点とは殆ど思わない。
一番の問題はそこではなく、結末の付け方、即ち、ハッセの妻ドリー・ハースに解決を委ねてしまったことである。しかし、その彼女がモンティー(モンゴメリー・クリフトの愛称)の様子を伺いながら神父たちに朝食を配る場面は秀逸。
配役では、僧服を着てまっすぐに歩くモンティーが強い意志を感じさせる好演。ハッセのドイツ系らしい悪魔性も印象深く、ゲーテの「ファウスト」でも読んでいる気分になった。
この記事へのコメント
私のヒッチコック特集はいよいよ佳境といったところですね。
こちらから出来るだけ先にTB致しますが、どうぞ宜しく。
<ゲーテの「ファウスト」でも読んでいる気分になった
恥ずかしながらゲーテの原作は味読で手塚治虫の漫画等で内容を知っている程度ですが、なるほど、ハッセの存在は「ファウスト」の悪魔ですねー。
カトリックの戒律の繰り返しの描写は、ボクにもわかるようにするため、印象付けるための方法だったんですね。
モンゴメリー・クリフトは多分お初の俳優さんだったんですが、本作だけで魅力をたっぷりと感じてしまいました。派手な演技をしているわけではないのですが、オカピーさんは「強い意志」と言われていますが、静かながら確固たる存在感?を感じます。達観した心なのでしょうか?
ヒッチコック映画の楽しみは登場人物のジレンマにあることが多いのですが、これなどは典型的でしたね。
ファウストは欧州に伝わる有名な伝説で、英国のマーロウなとも扱っていますが、まさにその中のメフィストフェレスのように嫌らしかったですね。悪魔は怖いというよりは嫌らしい。
クリフトはオーヴァーアクトをしない素晴らしい役者でしたが、命日が私の誕生日というのがちょっと気に入らない(笑)。
いや、あの神父は達観はしていないでしょう。達観していれば、彼のジレンマは起らなかったはずですから。しかし、彼は復員後誘惑に屈しない程度の意志を身に着けていたと思うんですよ。
モンゴメリー・クリフト、素敵でしたね。
前半と後半では彼の気持ちのあり方がまったく違って見えました。
お体のほうは大丈夫ですか。大事にしてくださいね。
カトリック神父故のジレンマというヒッチコックが好きそうな題材でした。同時に彼の意思の強さを描く作品でもあり、結局彼自身は最悪の結末すら迎える決心をしていたように思います。そうなるともはやスリラーではなく、宗教的な作品になるところでしたね。実際原作の戯曲はスリラーではないようです。モンティーは良かったです。
そうそうあのシーン!モンティの後ろから彼女の視線をたどってカメラがとらえるシーンですね。ゾクゾクするぐらいいいです。
ああいう場面が昔の作品、特にヒッチコックは巧いですね。最近のハリウッド映画はこういう巧さがない。けしからん(笑)。
ヒッチコックが大好きな者です
私は告白する、とても好きな方です。
でも、繰り返しは観て無い為か、ヒッチコックがどこででてるのか、わかりませんでした。
いつもセンスのいい出方をするので、この映画でも気になります。
もしも知ってらしたら教えて下さい。
ヒッチコックは一番ご贔屓なので、多少出来栄えが悪くてニコニコ見てしまいます。今後とも宜しく。
>ヒッチコックの出演
この作品は寧ろ解りやすい出方をしていますよ。
タイトルが終った直後に橋の上を歩いています。
ありがとうございます。
さすがですー。
わたし、ヒッチコックはすごい人だなーっていつも思っています。
映画は、汚点とか裏窓とか見知らぬ乗客とか色々好きです。
印象的なのが、テレビ版のヒッチコック劇場です。
恐怖の表現を色んな角度で捉えていて、ヒッチコックのすごさに恐怖を
感じました。
レスが遅れました。すみません。
「ヒッチコック劇場」は必ずしもヒッチコックが総て監督をしているわけではないですが、名を被せているわけですから当然ヒッチ先生のお眼鏡に適ったお話ばかりですよね。
私はその昔に観て今回の再々放送は録画しているもののそのまま。時間を作って観ないといけないと思っております。
神父モンゴメリー・クリフトが無罪となって裁判所を出る時に民衆から罵倒される場面を見て何とも言えない恐怖感を覚えました。
その後、双葉師匠の評論を読みました。ハッセが妻ドリー・ハースを射殺する場面で白けてしまったそうですね。
>ウッディー・アレンも危なく、下手すると観られなくなる。
彼も私生活でいろいろあり過ぎたようで・・・。
>牽強付会
この言葉を初めて知りました(苦笑)。
>一番大事である筈の平和尊重の部分を(当時日米安保強化に邁進する安倍政権に忖度して)カットした
やはり右寄りなのでしょう。
朝ドラなどで出てくる戦争批判は一見左寄りですが・・・。
>神父モンゴメリー・クリフトが無罪となって裁判所を出る時に民衆から罵倒される場面を見て何とも言えない恐怖感を覚えました。
人間というのは愚かなもので、なかなか他人の気持ちになることができない。コロナに感染された人たちや、福島から他県に出た人が、非難されるのも理不尽ですね。自分が当事者になる可能性もあるのに。自分はそうしないつもりなのでしょうが、実際には殆どの人が同じ行動をする。
>ハッセが妻ドリー・ハースを射殺する場面で白けてしまったそうですね。
ミステリーの解決方法として偶然に頼り過ぎているということですね。僕は、松本清張の小説にも感じることがあります。
>>牽強付会
>この言葉を初めて知りました(苦笑)。
我田引水と似た意味ですが、政治家などには使う場合は牽強付会が良い感じがします。
>やはり右寄りなのでしょう。
>朝ドラなどで出てくる戦争批判は一見左寄りですが・・・。
我が姉によると、ディレクターや番組によって様々ということですが、ある意味当然である一方、違うような気もします。
この間の「朝まで生テレビ」の若い識者たちが異口同音に言っていたように、本来政府から距離を置く為に作られた放送法は、今や政府の盾になっているなど色々と不都合が多いので、改正ないし廃止すべきと思います。放送法も、内閣人事局も、小選挙区も、作った人々の思惑とは逆の方向に、殆ど権力に有利に使われています。困ったもんです。
>人間というのは愚かなもので、なかなか他人の気持ちになることができない。
最初の頃にコロナウイルスに感染した人たち。家に投石などの嫌がらせを受けた人たち。あれは酷かったです!
これからはああいう事がないようにして欲しい。国連レベルでお願いしたいです!
>僕は、松本清張の小説にも感じることがあります。
どの作品でしょうか?
それと「砂の器」の殺人トリックには「・・・?」と思いました。超音波音楽です。
>小選挙区
いっその事なくして別の方法を決めるべきでしょうか?
>どの作品でしょうか?
>それと「砂の器」の殺人トリックには「・・・?」と思いました。
「霧の旗」なんてのは典型。ヒロインの復讐の為の手段が、彼女の手によってではなく、偶然に手に入ってしまう。
なかなか壮絶な復讐譚で面白い作品ですが、本音を言えば、大いに気に入らない。山口百恵版を昨日観たので、1週間後くらいにアップします。
その「砂の器」でも、小説だけかもしれませんが、ベテラン刑事が偶然手がかりが得るところがあったと思います。勿論偶然が解決なりを導くことがあっても良いわけで、後は書き方・見せ方ですね。
>>小選挙区
>いっその事なくして別の方法を決めるべきでしょうか?
比例代表だけで良いでしょう。
昨年だったか、どなたか憶えていませんが、ある政治評論家も同じことを述べていました。
https://www.youtube.com/watch?v=SJDMQApUKto
元気ですねー!
>「霧の旗」なんてのは典型。
原作を読みました。確かにそれはないだろうって感じです。映画は未見です。
>ベテラン刑事が偶然手がかりが得るところがあったと思います。
昭和の名刑事って感じです。
>比例代表だけで良いでしょう。
政治を改革する時代になって欲しいです。
>資産所得倍増計画
個人が持っている資産から得られる所得。利子、配当、賃貸料収入などが含まれる。
岸田先生。資産がない人もたくさんいるんですよ・・・。
>今日はポール・マッカートニー80歳の誕生日です。
>元気ですねー!
Get Back セッションの後は、Got Back Tour ですか^^
確かに元気です。
40歳で亡くなったジョンの分も頑張っている感じですねえ。
>岸田先生。資産がない人もたくさんいるんですよ・・・。
僕は大分前から限られた資産を活用して増やして来た(実質的には減らないように維持して来た)ので、野党の案のようにこちらの税率を増やされるとそれはそれで困るのですが、資産倍増計画とは、新自由主義で非正規を40%にも増やした結果をまるで無視するにも程がある。彼は新自由主義に批判的だったはずですが。
それ以上に、僕は金融緩和原理主義的な、日銀の黒田総裁の緩和政策維持を愚策と思っています。来年の4月には退任しますので、次の総裁はもう少し考えるでしょう。
日本は何をやっても本当のインフレにはなりませんよ。現在の物価高はコスト・インフレが原因なので、給料が上がるわけがなく、好循環には絶対入らない。確かに今引き締めても大した意味がないですが、円安を止める気を全く見せないのは考えものです。
>40歳で亡くなったジョンの分も頑張っている感じですねえ。
対照的な二人です。
>非正規を40%にも増やした
減らすのは無理でしょう。
>円安を止める気を全く見せないのは考えものです。
アベノミクスの頃とは背景が違うと思います。
>昨日はウィリアム・A・ウェルマン監督、ヘンリー・フォンダ主演「牛泥棒」を見ました。
>双葉師匠の著作(1940年代・1950年代)には載ってなかったです。
この作品は日本未公開です。
2001年に肺炎で倒れてからは家でビデオやDVD等で色々とご覧になっていたようですので、この作品もご覧になっているかもしれませんが、当然評は公表されていません。
以下に拙記事がありますので、どうぞ。
https://okapi.at.webry.info/201103/article_18.html
>>非正規を40%にも増やした
>減らすのは無理でしょう。
本来は専門職に限っていたものをどんどん門戸を開いた結果、日本全体の給料が上がらないループを作ってしまった。本人の思惑はともかく、小泉政権は、結果的に企業に有利になるように働き、国民だけでなく国家にもマイナスになる政策を採ったと思います。
岸田が当初中間層を増やすと言ったのは、僕の意見と完全に同じでしたので頷きましたが、結局言葉だけでした。情なか。