映画評「汚名」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1946年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり
アルフレッド・ヒッチコック第32作。
ヒッチコックがスリラーに恋愛を絡めることがお好きということはある程度のヒッチコック・ファンならとうにご存知であろうが、本作も「裏窓」「めまい」には及ばずもその辺りに見どころを探すべき作品と理解している。
第2次大戦末期、父親がドイツに協力したスパイ罪で逮捕されたショックで自暴自棄になって酒と男に溺れたイングリッド・バーグマンが、実はFBIの捜査員であるケイリー・グラントと知り合い、彼に惹かれた成行きで、リオデジャネイロで密かに進められているらしいナチスの陰謀を探るべく父親の旧友クロード・レインズに接近する指令を実行することになる。
結局年の離れた男と結婚した彼女は、グラントも招待したパーティーで、一味がワイン貯蔵庫にウラニウムを貯蔵していることを掴むが、逆に夫にスパイであることがばれてしまう。スパイと結婚するという大ミスを犯したレインズは彼女をゆっくりと毒殺しようとする。
この作品の一番面白いのはレインズのジレンマである。愛した女はスパイで、その為に自分が殺される瀬戸際に追い込まれるからである。だから、グラントは陰謀団の見つめる中堂々と瀕死の重症となっている彼女を救出することが出来るのだ。
イングリッドを支えながら階段を降りるグラント、駆け上がって来るレインズ、下で見守るスパイたちを収めたカメラワークは実に的確で見ごたえがある。
一方、トリュフォーは狙いと結果が完璧に一致した作品と絶賛しているが、僕には疑問である。イングリッドが酒乱になっているのは序盤の描写ですぐに分るが、男狂いの度合いがまずよく分らない。それ故、その段階でグラントと知り合い、好きでもないレインズと結婚までしてしまう心境が分らないことになる。グラントの立場が比較的分りやすいのに対して彼女の性格は頗る曖昧ではあるまいか。
これについて「彼女が予期せざる結婚をせざるを得なくなること、それ自体のサスペンスなのだ」と述べたヒッチコックの言葉と作品に矛盾はないが、やはり疑問である。
従って、この結婚が作品の中核である以上、僕には意図と結果が完璧に一致した映画とはとても思えないのだ。しかし、ここについてひどく寛容になる時もあるので、本作の評価は僕の中では一定しない。
彼女がワイン貯蔵庫の鍵を手に入れる一連の場面の演出は良い。パーティーでシャンペン瓶の数が減って来てレインズが貯蔵庫に行く時間が迫るクラシックなサスペンスはヒッチコックとしては凡庸の部類だが、こうした演出が見られない昨今、嬉しい描写。
映画史上一番長いと言われるキス・シーンも楽しんだ。ヒッチコックがこれ以前の作品と比べて日常的なムードのサスペンスを作ろうとしたのではないかと想像される部分については成功していると思う。その点では狙いと結果は一致している。
イングリッド・バーグマンも3年後の「山羊座のもとで」に比べるときちんと演技出来ているし、魅力あり。レインズの悪役は哀れで抜群。
実はこの作品は広島と長崎に原爆を落とされる1年前、1944年に企画がスタートしている。その時点でヒッチコックがウラニウムについて知っていたことは驚嘆する事実であるが、しかもそれをただのマクガフィン(単なるきっかけ・仕掛け)にしてしまったことにはびっくりだ。
1946年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり
アルフレッド・ヒッチコック第32作。
ヒッチコックがスリラーに恋愛を絡めることがお好きということはある程度のヒッチコック・ファンならとうにご存知であろうが、本作も「裏窓」「めまい」には及ばずもその辺りに見どころを探すべき作品と理解している。
第2次大戦末期、父親がドイツに協力したスパイ罪で逮捕されたショックで自暴自棄になって酒と男に溺れたイングリッド・バーグマンが、実はFBIの捜査員であるケイリー・グラントと知り合い、彼に惹かれた成行きで、リオデジャネイロで密かに進められているらしいナチスの陰謀を探るべく父親の旧友クロード・レインズに接近する指令を実行することになる。
結局年の離れた男と結婚した彼女は、グラントも招待したパーティーで、一味がワイン貯蔵庫にウラニウムを貯蔵していることを掴むが、逆に夫にスパイであることがばれてしまう。スパイと結婚するという大ミスを犯したレインズは彼女をゆっくりと毒殺しようとする。
この作品の一番面白いのはレインズのジレンマである。愛した女はスパイで、その為に自分が殺される瀬戸際に追い込まれるからである。だから、グラントは陰謀団の見つめる中堂々と瀕死の重症となっている彼女を救出することが出来るのだ。
イングリッドを支えながら階段を降りるグラント、駆け上がって来るレインズ、下で見守るスパイたちを収めたカメラワークは実に的確で見ごたえがある。
一方、トリュフォーは狙いと結果が完璧に一致した作品と絶賛しているが、僕には疑問である。イングリッドが酒乱になっているのは序盤の描写ですぐに分るが、男狂いの度合いがまずよく分らない。それ故、その段階でグラントと知り合い、好きでもないレインズと結婚までしてしまう心境が分らないことになる。グラントの立場が比較的分りやすいのに対して彼女の性格は頗る曖昧ではあるまいか。
これについて「彼女が予期せざる結婚をせざるを得なくなること、それ自体のサスペンスなのだ」と述べたヒッチコックの言葉と作品に矛盾はないが、やはり疑問である。
従って、この結婚が作品の中核である以上、僕には意図と結果が完璧に一致した映画とはとても思えないのだ。しかし、ここについてひどく寛容になる時もあるので、本作の評価は僕の中では一定しない。
彼女がワイン貯蔵庫の鍵を手に入れる一連の場面の演出は良い。パーティーでシャンペン瓶の数が減って来てレインズが貯蔵庫に行く時間が迫るクラシックなサスペンスはヒッチコックとしては凡庸の部類だが、こうした演出が見られない昨今、嬉しい描写。
映画史上一番長いと言われるキス・シーンも楽しんだ。ヒッチコックがこれ以前の作品と比べて日常的なムードのサスペンスを作ろうとしたのではないかと想像される部分については成功していると思う。その点では狙いと結果は一致している。
イングリッド・バーグマンも3年後の「山羊座のもとで」に比べるときちんと演技出来ているし、魅力あり。レインズの悪役は哀れで抜群。
実はこの作品は広島と長崎に原爆を落とされる1年前、1944年に企画がスタートしている。その時点でヒッチコックがウラニウムについて知っていたことは驚嘆する事実であるが、しかもそれをただのマクガフィン(単なるきっかけ・仕掛け)にしてしまったことにはびっくりだ。
この記事へのコメント