映画評「亡国のイージス」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2005年日本映画 監督・阪本順治
ネタバレあり
一昨日遂に話題作「ダヴィンチ・コード」が日本でも劇場公開されたが、ベストセラーの映画化ほど嫌なものはない。何故なら、原作ファンとやらが馬鹿げた批判を繰り返し、あたかもそれが映画評のように語られ、ひどい場合には「模倣犯」のように一人歩きして、原作を読んでいない人間の評価まで歪めてしまうことがあるからである。
<原作より面白いかつまらないか>をもって映画評とするのは言語道断。まして既に原作が気に入ったファンがその映画化を気に入る確率を考えれば、なおさらである。
比較は大いに結構、違う点を指摘することも時に有効な映画評になりうる。例えば、第1次大戦後を舞台にした小説を舞台を第2次大戦後に変えただけでそのまま映画化すると、とんでもないことになる。人間の行動に影響を与える時代のムードを考慮せずにまともな映画になるわけもない。こういう観点で語るなら大いに結構である。
原作へのリスペクトは、人口に膾炙している古典に捧げれば良いのであって、出たばかりの原作などどう扱っても結構。原作通りに作ろうと作るまいと、重要なのは映画として面白いかどうかなのである。一方で、文学を語るべき場所においてならどう映画を批判しても構わない。
因みに僕はアルセーヌ・ルパンの大ファンなので、その立場としては昨年公開された「ルパン」は観る前からとんでもない作品なのであります。ルパンにロマン・デュリスなんて小市民的な役者を使ってはいけない。この時点で既に失格。しかし、映画ファンの立場としては別の観点で語るつもりである。尤も観るのに相当の勇気がいると思う。
本作の原作がベストセラーということなので、敢えてこういう前置きを書いた。僕はかかる前提で映画を観ているので、原作ファンの不満は聞く耳持ちません。
さてやっと本論。
これは海洋サスペンスが大好きな作家・福井晴敏の同名小説を阪本順治が映画化したサスペンス・アクション。そう言えば、その昔、アリステア・マクリーンという海洋サスペンスの達人がいらして、随分映像化された。
訓練中の海自護衛艦<いそかぜ>が、自衛官を騙る某国テロリスト中井貴一とその一味、そして日本人の副長・寺尾聡に乗っ取られる。
彼らの要求は、アメリカが極秘裏に開発した化学兵器<GUSOH>の存在を公表すること、副長の息子の死への国家としての謝罪、等である。実現しない場合は既に確保した<GUSOH>を積んだミサイルを東京に向けて発射すると脅迫する。
<いそかぜ>が攻撃のしにくい浅瀬の東京湾に入った為、防衛側としては限られた時間内に同艦を沈没させる必要が出てくるが、先任伍長の真田広之と一時はテロリストと誤解された一等航海士・勝地涼が反撃を試みる。政府側も<いそかぜ>内で反撃の気配を察知した為おいそれと攻撃が出来なくなる。
日本国に向かう原子力潜水艦を描いた韓国製サスペンス「ユリョン」や北朝鮮が日本に攻撃を仕掛けて政府がおろおろする日本映画「宣戦布告」など極東ポリティカル・サスペンスは幾つかあるが、本作が娯楽映画として最も面白い。
ユニークなのは呉越同舟ならぬ呉越同艦。しかし同時にこれが先の展開を読ませてしまう弱点にもなる。日本人が最後まで国名のぼかされている【朝が鮮やかな国】の人間と仲良くやれるわけもない。彼らは最終目的として革命を匂わすが、多分違う。こんな面倒くさいことをせずに<GUSOH>を持って広場にでも行けば革命は成功するだろうから、日本攻撃が目標だったようだね。
後半は時限サスペンス。実質的に時間と主人公・真田の戦いである。極限状況での彼の活躍は目を見張る。サスペンス醸成も抜群ではないが悪くない。「ホワイトアウト」と似たり寄ったりと言えないこともないが。惜しむらくは主人公自身が時間の切迫を認識していないので、手に汗を握るというところまでは行かない。
これ以上は言わぬが花だが、極めて馬鹿げているのは女性戦士の色添え。ハリウッド映画の悪影響かいな。彩りにならないだけでなく、観客を意味もなく混乱させ、上映時間を長くさせることだけに貢献した。
さらに、時に挿入されるフラッシュバックの意味が非常に解りにくい。
もっと褒めようと思って書き始めたが、余り褒めていないね。
因みに、原作をここまでばっさり切って縮めたのは原作者本人。
2005年日本映画 監督・阪本順治
ネタバレあり
一昨日遂に話題作「ダヴィンチ・コード」が日本でも劇場公開されたが、ベストセラーの映画化ほど嫌なものはない。何故なら、原作ファンとやらが馬鹿げた批判を繰り返し、あたかもそれが映画評のように語られ、ひどい場合には「模倣犯」のように一人歩きして、原作を読んでいない人間の評価まで歪めてしまうことがあるからである。
<原作より面白いかつまらないか>をもって映画評とするのは言語道断。まして既に原作が気に入ったファンがその映画化を気に入る確率を考えれば、なおさらである。
比較は大いに結構、違う点を指摘することも時に有効な映画評になりうる。例えば、第1次大戦後を舞台にした小説を舞台を第2次大戦後に変えただけでそのまま映画化すると、とんでもないことになる。人間の行動に影響を与える時代のムードを考慮せずにまともな映画になるわけもない。こういう観点で語るなら大いに結構である。
原作へのリスペクトは、人口に膾炙している古典に捧げれば良いのであって、出たばかりの原作などどう扱っても結構。原作通りに作ろうと作るまいと、重要なのは映画として面白いかどうかなのである。一方で、文学を語るべき場所においてならどう映画を批判しても構わない。
因みに僕はアルセーヌ・ルパンの大ファンなので、その立場としては昨年公開された「ルパン」は観る前からとんでもない作品なのであります。ルパンにロマン・デュリスなんて小市民的な役者を使ってはいけない。この時点で既に失格。しかし、映画ファンの立場としては別の観点で語るつもりである。尤も観るのに相当の勇気がいると思う。
本作の原作がベストセラーということなので、敢えてこういう前置きを書いた。僕はかかる前提で映画を観ているので、原作ファンの不満は聞く耳持ちません。
さてやっと本論。
これは海洋サスペンスが大好きな作家・福井晴敏の同名小説を阪本順治が映画化したサスペンス・アクション。そう言えば、その昔、アリステア・マクリーンという海洋サスペンスの達人がいらして、随分映像化された。
訓練中の海自護衛艦<いそかぜ>が、自衛官を騙る某国テロリスト中井貴一とその一味、そして日本人の副長・寺尾聡に乗っ取られる。
彼らの要求は、アメリカが極秘裏に開発した化学兵器<GUSOH>の存在を公表すること、副長の息子の死への国家としての謝罪、等である。実現しない場合は既に確保した<GUSOH>を積んだミサイルを東京に向けて発射すると脅迫する。
<いそかぜ>が攻撃のしにくい浅瀬の東京湾に入った為、防衛側としては限られた時間内に同艦を沈没させる必要が出てくるが、先任伍長の真田広之と一時はテロリストと誤解された一等航海士・勝地涼が反撃を試みる。政府側も<いそかぜ>内で反撃の気配を察知した為おいそれと攻撃が出来なくなる。
日本国に向かう原子力潜水艦を描いた韓国製サスペンス「ユリョン」や北朝鮮が日本に攻撃を仕掛けて政府がおろおろする日本映画「宣戦布告」など極東ポリティカル・サスペンスは幾つかあるが、本作が娯楽映画として最も面白い。
ユニークなのは呉越同舟ならぬ呉越同艦。しかし同時にこれが先の展開を読ませてしまう弱点にもなる。日本人が最後まで国名のぼかされている【朝が鮮やかな国】の人間と仲良くやれるわけもない。彼らは最終目的として革命を匂わすが、多分違う。こんな面倒くさいことをせずに<GUSOH>を持って広場にでも行けば革命は成功するだろうから、日本攻撃が目標だったようだね。
後半は時限サスペンス。実質的に時間と主人公・真田の戦いである。極限状況での彼の活躍は目を見張る。サスペンス醸成も抜群ではないが悪くない。「ホワイトアウト」と似たり寄ったりと言えないこともないが。惜しむらくは主人公自身が時間の切迫を認識していないので、手に汗を握るというところまでは行かない。
これ以上は言わぬが花だが、極めて馬鹿げているのは女性戦士の色添え。ハリウッド映画の悪影響かいな。彩りにならないだけでなく、観客を意味もなく混乱させ、上映時間を長くさせることだけに貢献した。
さらに、時に挿入されるフラッシュバックの意味が非常に解りにくい。
もっと褒めようと思って書き始めたが、余り褒めていないね。
因みに、原作をここまでばっさり切って縮めたのは原作者本人。
この記事へのコメント
キャッ!別名イアン・スチュアートですね?「ナバロンの要塞」「荒鷲の要塞」「サタンバグ」「八点鐘が鳴るとき」ですね~。「サタンバグ」は大好きなJ・スタージェス監督、主演G・マハリス(昔♪「ルート'66」なんぞ唄ってましたっけ?)「八点鐘~」ホプキンスにN・ドロンでしたね、プロデュースがほらあの「動く標的」「エンゼル・ハート」のE・カストナー!!すごい、すごい!また観たくなりましたよ~!あれ?ごめんなさい、マクリーンで喜んで「亡国のイージス」どっか行ってしまいました。(笑)つづきます。
この作品の最大の欠点は壮大なドラマになる可能性のあるものを2時間という枠に押し込めた中途半端さでしょう。だからこそ私は言いたい、観客はもっと我慢強くなりなさいと。viva jijiさんの仰ることは極めて正論で、登場人物にもっと血と肉がついていたらもっと面白くなったのでしょうが、すると少なくとも3時間は必要となる。そうすれば役者ももっと良い演技をする(希望的観測)。
崔洋一が「『血と肉』はもっと長くないといけないが、時代の要請でそれがむりなのだ」と嘆いていました。つまり、2時間を越えると真の映画ファンはともかく一般客がついてこない。これは恐らく多くの映画人が感じているジレンマでしょう。
また「アビエイター」が長すぎるとコメントする人がいたが、あれは短すぎるから寧ろ面白さが満喫できなかった、というのが私の考えです。
日本人に限らず、現在の人間は急ぎすぎ。4時間でも面白いものは面白いのだから、堂々と作れば良いのです。
ベルイマンの傑作「ファニーとアレクサンデル」は5時間を越える大作でしたが、面白かったなあ。
訂正。「血と肉」ではなく「血と骨」でした。
すんません。何だか自分が怒られているような・・・
映画ファンや映画批評家に対する批判が多いのは、期待感の裏返しなのかもしれませんね。viva jijiさん、映画ばかりでなく、人間洞察の達人ですか?
「ブラザーフッド」は、「プライベート・ライアン」同様戦闘場面が長すぎて退屈するところもありました。映画館で観ればリアルさに圧倒される可能性もありますが、TVで観るには戦闘シーンは冗長に映ります。
「イージス」はもっとスティーヴン・シーガル調に徹底できればよかったのですけど、viva jijiさんによるとそれは無理、と最初から否定されてしまいましたね(苦笑)。
この作品を酷評した方に言わせれば、ゴミに等しい作品だそうですが、彼の基準はエヴェレストのように高いようです。私はそんな高い基準で映画を観たくありません。私はせいぜい地元の妙義か榛名くらいでいい。この映画は浅間は無理でも赤城くらいは行くでしょう。
贅沢・・・どこかで同じような台詞を聞いたなあ。暫くその贅沢を続けていたいと思っています。
ケチつけるところはいっぱいあるかもしれないけど、でも、結構いいんじゃない?なんて感じました。説明不足なのは、原作があるものだからこの程度の描き方で理解してくれるでしょ??なんて言われているみたいだったけど、想像しか出来ないし、そういう意味では説得力とか人物像とか伝わりにくかったけど、題材は面白かった。そこそこハラハラもさせてもらえたし、ふむふむそれでどうするの??と思わせてくれたから(笑)
邦画もなかなか頑張るじゃないかなんて(笑)
皆さんからすれば、相変わらずお子チャマでひねりも何もない観方しか出来ませんが、おかげでその分映画を見ることが楽しめて、これはこれでいいのかな?なんて思い始めました^_^;
ええ、それで良いんですよ。
>そこそこハラハラ
この映画の眼目はそれでしょう。
確かに分りにくい部分があり、終ってみると結果的に無視しても良い。無視しても良いくらいなら最初から入れるな、という話になりますが、侃々諤々(かんかんがくがく)と論議すべき映画とも思えないんですよね。
昔、劇場で見ましたが、そんなに長かったんですねー。全然気にならなかったです。名作はどんなに長くても体は辛くならないのでしょう。それとも若かったからか^^;)?
長くて辛かったのは「君の名は・1〜3部」のでした。全6時間だったかなぁ。キツかったー。
<極めて馬鹿げているのは女性戦士の色添え
これは私も同意見。あの女スパイはいらないのでは。でも「某国テロリスト中井貴一」のキャラを描く上で必要なキャラだったのでしょうか?とにかく沢山のキャラがゴチャゴチャと出てきて、その分、主要キャラの描き方が中途半端に思えました。
<「ファニーとアレクサンデル」
おおっ、ご覧になりました。面白くて、一緒に見た観客からも退屈そうな人は一人も見かけられませんでした。最初からミーハーが入っていないということもあったのでしょうが、これは珍しい現象。
当時はベルイマン最後の劇場映画と騒がれ、ファンを嘆かせましたが、この度新作が見られます。行きたいのだけれど、東京まで体調が持ちそうもありません。
「君の名は」は岸恵子のバージョンですか? 連続すると6時間もありますか。年を取ると4時間以上は無理かなあという感じですね。
もっと単純にしてスティーブン・シーガルみたいにすれば良かったのですがね。それは無理だと映画鑑賞の先輩viva jijiさんは仰っております。