映画評「ウィスキー」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2004年ウルグアイ映画 監督フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール
ネタバレあり
記憶する限りウルグアイ映画は初めてだが、2004年の東京国際映画祭でグランプリと主演女優賞を獲った注目の小品。
靴下工場を細々と営む老社長アンドレス・パソスが、長い間秘書と事務員の役をこなしてきた初老の従業員ミレージャ・パスクアルに、ブラジルに住む弟ホルヘ・ボラーニが母の墓の建立式の為に故郷を訪れることになったので、滞在中妻のふりをしてほしいと依頼する。
アメリカ映画ならここで正体がばれかかったりするドタバタが展開するだろうが、この作品では何のピンチもなく、弟の帰国(というのも変だが)前に三人はリゾートへと洒落込むのだ。そこで彼女と弟は気が合う。
一方で兄は弟から貰った金をカジノにつぎ込んだら大儲け、その金を彼女に渡すが、翌朝彼女は出社してこない。
弟の帰郷が長い間同じ生活を続けたきたにちがいない二人に新たな局面をもたらす、というだけの物語には、どこかアキ・カウリスマキを思わせるものがある。
まず会社の電灯のスイッチを入れると蛍光灯のうなる音が聞えるリアリズムに感心した。弟が現れる前に同じような場面を繰り返すことで変化も精彩もない生活を強く印象づける。
映画として俄然面白くなるのはリゾートへ出かけてからで、正面から捉えた対称的な絵が多くなってくる。例えば、エレベーターの前や椅子に坐ったカット、エアホッケーのカットなどである。恐らくは全て固定カメラで撮っているせいだろう、こうしたカットが続くとどこかユーモラスな印象が出来上がる。
三人を一緒に取り込む場合は必ずと言っていいほどミレージャが中心にいるが、同じ状況で彼女がいないカットがある。すると今度は不在の寂しさが醸成される。映画が終る頃は、その理解が正しいかはともかく、寂寥感に満ちる。
終盤の展開は観客の理解に任せるといった作り。
ウィスキー=偽りの笑顔。嘘の生活を経験したことで彼女は人生観を変え、出社しなかったのかもしれないが、老社長は出社していない彼女に、何故出社していないか考えもせずに、相変わらず頼り続けるのだ。
彼女が空港で弟に渡した手紙には何が書いてあったのか。幾つも考えられて面白い。
2004年ウルグアイ映画 監督フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール
ネタバレあり
記憶する限りウルグアイ映画は初めてだが、2004年の東京国際映画祭でグランプリと主演女優賞を獲った注目の小品。
靴下工場を細々と営む老社長アンドレス・パソスが、長い間秘書と事務員の役をこなしてきた初老の従業員ミレージャ・パスクアルに、ブラジルに住む弟ホルヘ・ボラーニが母の墓の建立式の為に故郷を訪れることになったので、滞在中妻のふりをしてほしいと依頼する。
アメリカ映画ならここで正体がばれかかったりするドタバタが展開するだろうが、この作品では何のピンチもなく、弟の帰国(というのも変だが)前に三人はリゾートへと洒落込むのだ。そこで彼女と弟は気が合う。
一方で兄は弟から貰った金をカジノにつぎ込んだら大儲け、その金を彼女に渡すが、翌朝彼女は出社してこない。
弟の帰郷が長い間同じ生活を続けたきたにちがいない二人に新たな局面をもたらす、というだけの物語には、どこかアキ・カウリスマキを思わせるものがある。
まず会社の電灯のスイッチを入れると蛍光灯のうなる音が聞えるリアリズムに感心した。弟が現れる前に同じような場面を繰り返すことで変化も精彩もない生活を強く印象づける。
映画として俄然面白くなるのはリゾートへ出かけてからで、正面から捉えた対称的な絵が多くなってくる。例えば、エレベーターの前や椅子に坐ったカット、エアホッケーのカットなどである。恐らくは全て固定カメラで撮っているせいだろう、こうしたカットが続くとどこかユーモラスな印象が出来上がる。
三人を一緒に取り込む場合は必ずと言っていいほどミレージャが中心にいるが、同じ状況で彼女がいないカットがある。すると今度は不在の寂しさが醸成される。映画が終る頃は、その理解が正しいかはともかく、寂寥感に満ちる。
終盤の展開は観客の理解に任せるといった作り。
ウィスキー=偽りの笑顔。嘘の生活を経験したことで彼女は人生観を変え、出社しなかったのかもしれないが、老社長は出社していない彼女に、何故出社していないか考えもせずに、相変わらず頼り続けるのだ。
彼女が空港で弟に渡した手紙には何が書いてあったのか。幾つも考えられて面白い。
この記事へのコメント
私は★4つつけたので、オカピーさんの7に対して8ぐらいでしょうか。
御指摘の通りアキ・カウリスマキっぽいけど、それよりも毒が少なくてソフトタッチな印象でした。
<弟に渡した手紙
私は、真実を告白した手紙だったのでは…と思ってます^^;)。
アキなら、ラストは旅立ち。彼女はブラジルへ旅立ったことになる。
手紙には「私たちは夫婦ではありません」とあるでしょう。しかし、弟には妻子がありますからね。難しいところですね。
私の7は普通の人の8.5くらいと思います。
もう寝ますね。
そんな前でしたか。探しましたが見つかりませんでした。
私はこういう映画の分析は苦手なので、うまく書けなかったです。いや、プロにならずに良かった(笑)。
たぶん、このウルグアイの映画青年たちは、カウリスマキを映画祭でみたりして、影響を受けているんでしょうね。
>映画祭
そうした流れはあるでしょうね。
いずれにしても、今でも綿々と引き継がれている小津安二郎のスタイルは驚異的なものですね。