映画評「運命を分けたザイル」

☆☆★(5点/10点満点中)
2003年アメリカ映画 監督ケヴィン・マクドナルド
ネタバレあり

実際体験した人物のコメントを紹介しつつ、一方で役者にその体験を演じさせるという、再現ドラマである。TVではよくあるのだが、映画でこの構成は極めて珍しい。よほどのスケールの物語ではないと映画には向かないという理由からだろうが、一方でここまで殆ど作られなかったのは意外な気もする。

1985年アンデス山脈にある難攻不落のスウラ・グランデ(6600m)に挑戦し初めて成功したジョー・シンプスンとサイモン・イェーツが、下山時に滑落、シンプスンが氷壁に宙づりになってしまう。ザイルで繋がれたイェーツは共倒れになるのを避ける為にザイルを切ってキャンプまで下山、4日後死んだと思ったシンプスンが出現する。

その再現ドラマの間に当事者二人本人と下で待っていたもう青年リチャード・ホーキンズのコメントを挟むという構成はTV「アンビリバボー」などと同じであるが、この三人が最初から回顧している時点で、甚だ興醒めである。シンプスンその人が健全にコメントしているのでは結末の奇跡に驚くことは出来ない。過程での観客の緊張感も緩む。TVなら彼を最後の方まで出しては来まい。

勿論映画は結末が見えても作り方次第でかなり挽回できるものだから致命的とまでは言えず、現に再現ドラマは、監督ケヴィン・マクドナルドがドキュメンタリー出身ということもあり厳しく迫力満点。察するに作者は奇跡ではなく彼がいかに生還したかを見せたかったのであろう。その苦闘ぶりには我々も人間として驚きもし感動することもできる。
 しかし、作者の狙いと観客の期待との間に齟齬感があるのは確かで、改めてこういう形で見せられる以上、一観客として満足出来ない部分が出るのは致し方あるまい。

この記事へのコメント

viva jiji
2006年06月14日 17:24
死の一歩手前で踏みとどまり、まさに奇跡と執念で「生還」した映像は観るべきものがありましたが手法がアレでしたからね~。「おい、おい、あんたたち元気で帰ってきてるんだ~」で思いっきり、ズリ下がりました。そういえばかなり前、見ましたTVドキュメント、原爆実験を行った作業員の一人が淡々と実験の一部始終を語る映像だったのですが、終了2分前に彼の「下半身」をカメラがゆっくりなめるように映し出した時、その異様な画像に私は声を失いました。ごくノーマルな上半身の下は見るも無残に巨大化した肉塊でした。「決め札」と「殺し文句」は最後の最後でいいのです。
オカピー
2006年06月15日 00:33
viva jijiさん、こんばんは。
作者が狙い通りに作ったのに5点しか進呈できない作品は滅多にありません。結局作者の高邁な精神と私を含めた一般観客の期待との乖離は、どうしようもない。良い意味で大衆に迎合するように作れば、寧ろそこそこ楽しめる作品になったのは間違いないのに。
そのドキュメントとは<作り方>としては上手いですね。
Aki.
2006年06月26日 04:55
TB有難う御座いました♪
題材としてはかなり感動作に出来そうなんですけどね。
どーも作り方を間違えてしまったよーな・・・
本当にもったいないです^^;

ではでは~、これからもよろしくお願いします。
オカピー
2006年06月26日 14:52
Akiさん、初めまして。
全くの同意見です。
作者は高尚な人間なので、そんなミーハーな作り方は嫌だと思ったのかもしれませんが、商業映画として公開する限りはより多くの観客が受ける作り方をすべきなのではないかという気がしますね。
また、お越しください。
chibisaru
2006年09月18日 23:32
こちらにもお邪魔します。
アンビリーバボーに似た作りというのは、確かに感じました(^o^;
おっしゃっているように、いかに生還したのかということを見せたかったんでしょうね。
彼らが冒頭からインタビュー形式で登場していたのは、ちょっとびっくりしましたが、それより何よりあの状況の中から生還したという再現映像には息を飲みました。人間って意外にたくましいけれど、精神は意外にもろいということを痛烈に感じました。
オカピー
2006年09月19日 01:53
chibisaruさん、こんばんは。
映画で「アンビリバボー」的な作りの再現ドラマも面白いと思いますが、私の長い映画歴の中でも観た経験がないですね。この類は全てドキュメンタリーが普通ですから。
再現映像はさすがに「アンビリバボー」と違って山岳映画の歴史に残したい素晴らしさでした。
人間とは得てしてそうした二面性のある生き物でしょう。極限状況ではそれが現れますね。
kimion20002000
2008年04月16日 00:57
TBありがとう。
これはディスカバリーチャネルの特別番組の方が良かったですかね。
海外登山をやっている友人は、ほんまものの映像に感歎していましたけどね。
オカピー
2008年04月16日 17:06
kimion20002000さん、TB&コメント有難うございます。

作者は主題に沿って作ったのでしょうが、所謂商業映画における観客の心理に通じていないなあ、と気がしましてね。
山岳映画としては確かに価値があると思いましたです。

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