映画評「望郷」
☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1937年フランス映画 監督ジュリアン・デュヴィヴィエ
ネタバレあり
1920-30年代はフランス映画の最初の隆盛期で、ルネ・クレール、ジャック・フェデー、ジャン・ルノワールといった名匠を輩出したが、日本人に最も受けたのがこの作品を代表作とするジュリアン・デュヴィヴィエではないかと思う。上記の3人よりはぐっと大衆的な趣きで、その為本国では日本に比べると評価が低いらしいのだが、彼の叙情性と良い意味での大衆性が日本人の肌に合ったのであろう。
アルジェの港近く、小高い丘にできた迷路のような町カスバに、パリ出身の強盗犯ペペ・ル・モコ(ジャン・ギャバン)が逃げ込み暮している。犯罪者の巣窟といった趣きで、警察も容易に手を出せないが、出世欲にかられた刑事スリマン(リュカ・グリドゥー)は彼がカスバから出る時を手ぐすね引いて待っている。
そのチャンスは彼が検事の愛人ギャビー(ミレーユ・バラン)に夢中になった時訪れ、ぺぺに惚れ込むイネス(リーヌ・ノロ)の嫉妬を煽り、部下を買収、ぺぺは死んだと思い込ませてギャビーに帰国するように仕向ける。ぺぺは船への道を急ぎ、乗船したところをスリマンに逮捕される。
そして、波止場の鉄柵にもたれ「ギャビー」と叫び、自分の腹を刺して果てる。映画史上に残る名ラスト・シーンである。我々に聞える「ギャビー」という叫び声は汽笛に遮られたギャビーには届かない。カメラの切換えによる効果が満点で、悲痛な叫びは観る度に感動も新しく、永遠に忘れることはできないと思う。
カスバの町に実際にロケしたらしくムードは満点。そして、彼が港に向う場面では面白い演出が取られている。単なる早歩きの場面なのにスクリーンプロセスを使っているのである。彼の焦る気持ちをうまく表現して、好きな場面だ。
その前、今は太った中年女がパリへの望郷の念を込め、蓄音機に合わせて歌い若く美しかった歌姫時代を懐かしむ場面も実に味わい深い。
ぺぺのギャビーへの思いは故郷パリへの思いと結びついて深く強くなっていく。それが理解出来ないと彼が逮捕される危険を賭して港へ行く意味がよく分らないだろう。
<メトロ>という単語も忘れがたく、ギャバンの好演、ミレーユの美しさと相まって、筆舌に尽くし難い感動を呼ぶのである。
1937年フランス映画 監督ジュリアン・デュヴィヴィエ
ネタバレあり
1920-30年代はフランス映画の最初の隆盛期で、ルネ・クレール、ジャック・フェデー、ジャン・ルノワールといった名匠を輩出したが、日本人に最も受けたのがこの作品を代表作とするジュリアン・デュヴィヴィエではないかと思う。上記の3人よりはぐっと大衆的な趣きで、その為本国では日本に比べると評価が低いらしいのだが、彼の叙情性と良い意味での大衆性が日本人の肌に合ったのであろう。
アルジェの港近く、小高い丘にできた迷路のような町カスバに、パリ出身の強盗犯ペペ・ル・モコ(ジャン・ギャバン)が逃げ込み暮している。犯罪者の巣窟といった趣きで、警察も容易に手を出せないが、出世欲にかられた刑事スリマン(リュカ・グリドゥー)は彼がカスバから出る時を手ぐすね引いて待っている。
そのチャンスは彼が検事の愛人ギャビー(ミレーユ・バラン)に夢中になった時訪れ、ぺぺに惚れ込むイネス(リーヌ・ノロ)の嫉妬を煽り、部下を買収、ぺぺは死んだと思い込ませてギャビーに帰国するように仕向ける。ぺぺは船への道を急ぎ、乗船したところをスリマンに逮捕される。
そして、波止場の鉄柵にもたれ「ギャビー」と叫び、自分の腹を刺して果てる。映画史上に残る名ラスト・シーンである。我々に聞える「ギャビー」という叫び声は汽笛に遮られたギャビーには届かない。カメラの切換えによる効果が満点で、悲痛な叫びは観る度に感動も新しく、永遠に忘れることはできないと思う。
カスバの町に実際にロケしたらしくムードは満点。そして、彼が港に向う場面では面白い演出が取られている。単なる早歩きの場面なのにスクリーンプロセスを使っているのである。彼の焦る気持ちをうまく表現して、好きな場面だ。
その前、今は太った中年女がパリへの望郷の念を込め、蓄音機に合わせて歌い若く美しかった歌姫時代を懐かしむ場面も実に味わい深い。
ぺぺのギャビーへの思いは故郷パリへの思いと結びついて深く強くなっていく。それが理解出来ないと彼が逮捕される危険を賭して港へ行く意味がよく分らないだろう。
<メトロ>という単語も忘れがたく、ギャバンの好演、ミレーユの美しさと相まって、筆舌に尽くし難い感動を呼ぶのである。
この記事へのコメント
<若く美しかった歌姫時代を懐かしむ場面
私もこのシーンは大好きです。しかし「本国フランスでの評価が低い」というのが理解し難いですねー。なぜなんでしょう?フランス好みはもっとドライな感じがイイということでしょうか…?
わたしのアラン・ドロンの記事とは関係ないかもしれませんが、TBさせてもらっちゃいました。『望郷』のラストシーンは忘れられませんね。
>我々に聞える「ギャビー」という叫び声は汽笛に遮られたギャビーには届かない。
感無量です。
用心棒さんやジューベさんの感想も聞いてみたいですね。
この作品は、子供の頃テレビで観た記憶があります。現在はDVD化されていますよね。
ラストシーンは、子供心にも強烈でした。今でもはっきり覚えているぐらいです。ぺぺの「ギャビー」という絶叫が、肝心のギャビーには届いていないところがあまりに切なかった。プロフェッサーの記事を拝読したら、また観たくなってきました。明日レンタルしてこよう!
思うように使って下さい。
最初に観たのは中学生の頃だったと思いますが、あの幕切れはやはり強烈でしたね。
こちらの記事もそちらに貼り付けて良いのでしょうか?
>豆酢さん、初めまして。
と申しても、「カサブランカ」の話ではお世話になりました。私もDVDを持っているんですよ。いずれこの作品も取り上げないといけないと思っています。「望郷」とは違って絶賛とは行きませんが。
やはり昔のシャシンは良いですねえ。
豆酢さんはブログをお持ちでしょうか? 是非お伺いしたいものです。
拙ブログです…http://mmamesu.exblog.jp/ 非常につたないド素人のたわごとですが、お暇なときにでも覗いてやってください。ご教授くだされば幸いです。
記事の貼り付けどんどんしてください。よろしくお願いします。
最近はギャバンの『殺人鬼に罠をかけろ』『サン・フィアクル殺人事件』などシムノン原作、ジャン・ドラノワ監督のメグレ警視シリーズを見ています。フランス映画らしい雰囲気がいっぱいで、ギャバンの貫禄と渋さに憧れてしまいますね。ボギーとは、また違った意味で魅力的です。少しマイナーですが、むかし、愛川欣也さんの東京メグレシリーズというのもありましたが、わたしはあのドラマも好きでした。
それから、リンクですが「プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]」に直結させていただきました。
ちょっと覗いてみたら、いきなり「テオレマ」!
基本的に神が人を試すお話だと思いますが、最近では「ドッグヴィル」もこの系統ではないでしょうか? 或いはアメリカ映画をリメイクした韓国の「誰にも秘密がある」も案外そうかもしれません。
素人の戯言などとはとんでもないです。ご贔屓にさせて戴きます。
>トムさん
了解致しました。
メグレ・シリーズはどちらも観ました。やはりジャン・ギャバンの魅力に尽きますかねえ。「東京メグレ」シリーズは随分前になりますね。愛川さんはちょっと苦手なのでやや敬遠気味でした。
リンク・・・大変有難うございます。もう少しトムさん好みの作品をアップしたいのですが、一応何でも観て何でも上げるのを方針としていますので、悪しからず。
デュヴィヴィエ監督のだんだん主人公の運命が暗転していくあたりの演出がたまらなく良いですね。”諸行無常”を旨とする日本人の感性にあうのでしょうか。戦前の日本での人気はものすごかったようですね。
変換がむちゃくちゃですね・・・「ずいぶん遅くなってしまって」でした・失礼しました^^;
私は程よい甘さが日本人に受けるのだと思います。大甘では大向こうをうならせることは出来ませんが、僅かに振りかけられた砂糖は殆どの日本人にとって非常においしい。そんな感じだと思いますね。アメリカ人はもっと甘いのが好きなようで、「カサブランカ」が受ける。
「望郷」はハリウッドの影響を受けたと言われ、逆に「カサブランカ」に影響を与えたに違いない、そういう流れを考えるのも面白いですね。またデュヴィヴィエの感覚は戦後黒澤明が「野良犬」や「酔いどれ天使」で引き継いでいます。
この間のルパン談義から、思い立ったようにフランス懐古主義に落入っちゃってます。
クルーゾーの『犯罪河岸』、ルノワール&ギャバンの『フレンチ・カンカン』、デュヴィヴィエのイギリス作品でビビアン・リーの『アンナ・カレーニナ』、デュヴィヴィエ&ギャバンの『ゴルゴダの丘』などなど。
いや~いいですわ。ギャバンもジューヴェも最高。
そうそう、viva jiji姐さんが、ドロンの記事をアップしてますよ。当時のアラン・ドロンの世評が甦ったかのような雰囲気の記事で、何だか懐かしい気持ちになりましたよ。
それから、ブースカさんが退院され、用心棒さんも復帰され、一安心ですね。
最近はFROSTさんとのクラシック作品談義が楽しいです。
これからも、みなさんと楽しくやりましょう。
では、また。
私も煩悩を捨てて観たい映画だけを観ていれば楽になるのでしょう(笑)が、何でもかんでも観てやろうという精神なので、古い作品はぼつぼつですね。残念!
上に挙げて戴いた中では「フレンチ・カンカン」が手元にあるので今にも観られますが。これは京橋のフィルムセンターのフランス映画特集で観たことがあり、それ以来未見ですから随分ご無沙汰。ルノワールにしては明解でしたね。
連休の関係でバタバタしていてコメントできていませんが、記事は読みました。好意的な内容で良かったですね♪
そうですねえ、皆さん、なかなか大変なご様子。かくいう私にも危機がありましたが、何とか持ちこたえています。
FROSTさんと言えば、ブログ仲間で一番のご近所さまで、高速を使えば2時間ほどで行ける距離に住んでいらっしゃると伺いましたよ。
と思ったら!
私、こちらの記事でコメント・デビューを飾っていたのですね(笑)。なんたる偶然。思わず運命を感じずにいられません。←なんの
1コインDVDで有名なメーカーで買ったせいか、途中映像が乱れる部分がありました。それだけが残念でしたねえ。でも相変わらずいい作品です。70年も前の映画だと思えないほど瑞々しくて。心のリハビリにはもってこいの映画ですね。
>運命
あははは。
それは、【映画の未来を憂える会】の運命でしょう。(笑)
>1コインDVD
古い映画は保存が大変なんで許してやって下さい。
と言いつつ、「黒水仙」のカラーは許せん。^^;
ジュリアン・デュヴィヴィエというと、子供の頃はコメディ作家のイメージでしたが、ワイルダーと同じで、若い頃にはシリアスなものもちゃんとお作りになってる。
博士の記事を読んだら、印象に残ったシーンが同じようなので、変な気分です。
もとい、良い気分です
世の中には意外なことが多いものですが、
十瑠さんが「望郷」を見ていない(らしい)事実には驚きましたねえ。^^
>コメディ作家のイメージ
ふーむ、実はコメディは少ないです。
「陽気なドン・カミロ」、オードリーの「パリで一緒に」のオリジナル「アンリエットの巴里祭」、「奥様ご用心」、「殺人幻想曲」くらいでしょう。
フィルムセンターなどで観る機会があったので、デュヴィヴィエは戦前作から大体見ているんですが、「望郷」以外も実に素晴らしいのですよ、これが。
「舞踏会の手帖」は未見でしたら必見・・・「望郷」と甲乙つけがたいです。
>変な気分
何ですと!(笑)
そういうこともたまには(あははは)あるでしょう。
ドロン・ファンとしては、「さらば友よ」かもしれませんが、デュヴィヴィエで記事更新しちゃいましたよ。
どうも、最近はオカピーさんのアドヴァイスがあったにも関わらず、作品そのものより、映画の背景の記事内容ばかり(しかも、いっつもおんなじような(苦笑))ですが・・・お暇なときにでもご高覧を。
デュヴィヴィエは、俳優さんの撮り方が本当に美しくて・・・。ドロンもギャバンもデュヴィヴィエの作品が一・二を争うほどきれいなんじゃあないかな?
記事でも書きましたが、恐らくサイレント時代の手法だと思います。ワンショットごとに本当に工夫されてますよね。
あっそうそう、2月に映画館で「望郷」を観たときに、強く印象に残ったのは、イネス(リーヌ・ノロ)でした。こちらまで、せつなく、辛かったですよ。
では、また。
>アドヴァイス
いやいや、系統ごとに必要以上に誉めたり、けなしたりしなければ、それはそれで価値のあることではないですか?
そのまま、頑張ってくださいませ。^^
>ワンショットごとに
そう、30年代の優れた監督は工夫をしていますよ。
俳優を綺麗に撮るなんてことは、ヌーヴェルヴァーグの連中には関心がないので(?)、デュヴィヴィエのそうした才能には目を向けなかったのかもしれませんが、彼らの関係は残念ですね。尤も同じではヌーヴェルヴァーグではないし、ベテラン連中が彼らに触発されたのは確からしいですけど(その辺はトムさんにお任せ)。
>イネス
年を取ってくると、注目する対象が変わってきますね。^^