映画評「紅はこべ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1999年イギリス映画 監督パトリック・ロウ、エドワード・ベネット
ネタバレあり

探偵小説「隅の老人」シリーズでもよく知られるオルツィ男爵夫人のお馴染みの冒険小説を映像化した3話構成のミニ・シリーズ。

1793年、フランス革命で権力を掌握した山岳派ロベスピエールが行っていた恐怖政治から王党派の人々を救い出す組織があり、リーダーは<紅はこべ>で、その正体は英国で怠惰な貴族生活を送っているブレイクニー卿(リチャード・E・グラント)である。

夫の正体を知らぬ夫人(エリザベス・マッガヴァン)はフランスの女優上がりで、逮捕された弟の安否を知る為にパリに渡る。<紅はこべ>がブレイクニー卿であると見当をつけている検察長官ショーブラン(マーティン・ショー)は確認する為に自ら彼女に接近する一方、色仕掛けで寝返りさせた女優をブレイクニー卿一味に潜入させる。
 第一部は登場人物紹介編と言うべき内容で、その為に前半はそう面白いとは言えないが、終盤は虚々実々の駆け引きが出て来て手に汗を握らせる。

第二部は、第一部で組織が逃がした侯爵の娘がフランスに残った為<紅はこべ>らが連れ戻し工作に奔走するお話で、その間共和派のギロチン婦人と呼ばれる女性行政官の悪辣ぶりを徹底的に見せる。聖職者まで物怖じせずに処刑してしまう彼女の憎々しいまでの悪党ぶり宜しく、実は侯爵の娘がショーブランの娘だったいう事実や彼女の恋を絡め、メリハリの効いた展開ぶりで三部中一番楽しめる。
 気に入らないのは、<紅はこべ>がギロチン婦人を縛っただけで逃げ出し自らピンチを招いてしまうこと。ここはきっちり気を失わせて退散するのが妥当で、大胆不敵も良いが慎重さを欠いてはこの後の展開で気が抜けてしまう。

第三部は、ルイ16世の遺児である皇太子を巡る争奪戦を描くのだが、設定から予想されるほどは面白くならない。彼を飼っておこうとするロベスピエールの狙いも略奪側の狙いも今一つはっきりしないからだが、<紅はこべ>以上の剣の使い手である犯人が男装した女性であったり、実はショーブランが首謀者だったりする趣向はなかなか面白い。

TV映画とは言え、フィルム製作であること、CM中断による妙なシーンの繋がり方がないことで映画に近い感覚で楽しめ、260分強の内容を3時間くらいに再編集すれば劇場用として公開出来るだけの質がある。

主演のグラントはブレイクニー卿としての軽薄な印象の出し方が面白くまずは結構だが、夫人に扮するエリザベス・マッガヴァンは庶民的すぎて余り魅力的とは言えない。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」のイメージがないので同姓同名の別人かと思った。

この記事へのコメント

ぶーすか
2006年06月21日 19:30
TB&コメント有難うございます。こちらにもTBさせて下さい。このシリーズ大好きです!3は未見なのでそちらの放送も早くして欲しいです。
<CM中断による妙なシーンの繋がり方がない
御指摘の通りですねー!下手な映画よりもずっと面白いし、見ごたえもタップリ。「紅はこべ」のリチャード・E・グラントはもっと活躍して欲しいのですが、今のところ彼が出演している作品は「ハドゾン・ホーク」ぐらいしか観た事がないです…。
オカピー
2006年06月22日 01:45
ぶーすかさん、こんばんは。
アルセーヌ・ルパン以来冒険ものは好きなので、こういうのが映画でももっと作られると良いですね。
リチャード・E・グラントは助演クラスでかなりの出演作がある貴重な俳優らしいですが、余り気に留めてなかったですねえ。
今後注目してみましょう。

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