映画評「女」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1948年日本映画 監督・木下恵介
ネタバレあり

木下恵介は保守的なイメージが強いが、実際はかなり実験的な監督である。

レビュー・ガールの水戸光子が、腐れ縁的な恋人・小沢栄太郎に連れられ箱根・熱海を旅する。旅と言っても呑気なものではなく、連続強盗を犯して足を引き摺る小沢の逃避行に無理矢理付き合わされているだけである。

木下監督は斜めの構図と人物の仰角ショット、足元だけのショットにより逃避行の切迫感をうまく醸成しているが、映画のテーマは悪党と知りながらも縁を切れずにいる女性の心理の変化である。

男は非行を戦争のせいにしても女は冷静だが、貧しくて泥棒を働いた少年に自らの将来に思いを馳せた見せかけの健気さに、男の立ち直りに関する期待が蘇る。
 不安と期待の間で揺れ動く彼女が、男と一緒にトラックに揺られる場面が良い。トンネルが幾つか出てくるのは、不安のメタファーである。

しかし、熱海に到着して彼が質屋で再び犯行に及ぶと、遂に堪忍袋の尾を切って、大火事で人々が逃げまどう中切りつけられながらも男を突き出すのだ。
 この火事の場面は、「陸軍」以来のスペクタクルと言っていいほど迫力があり、正にハイライトである。

心理描写の充実を図ろうとする余り、顔や手足といった体の部位だけを接写するショットが多くなりすぎてバランスを崩した印象を与えるが、登場人物をほぼ二人に限定した実験的な内容は一定の評価を与える価値があろう。
 また、箱根・熱海を中心にした環境描写は相変わらず上手い。

この記事へのコメント

ぶーすか
2006年07月10日 16:01
TB&コメント有難うございます。「わが恋せし乙女」とダブリますが、こちらにもTBさせて下さい。
<保守的なイメージが強いが、実際はかなり実験的な監督
この作品がかなり色んなことを試している感じなのでビックリしました。監督の若々しさを感じて嫌いじゃないです。斬新なカメラワークは「第3の男」やヒッチコックの影響も多少感じられたのですが、「第3の男」は公開がこの作品の1年後だからそれはないのかなぁ…。巨匠は若い頃もやってることはすごい!と思う1本でした。
オカピー
2006年07月11日 00:35
ぶーすかさん、こんばんは。
勿論別作品ですから、どんどんTBしてください。
「第三の男」の影響はないですが、欧米の映像派の影響はあるかもしれませんし、独自に考え出したのかもしれません。
吉村公三郎の傑作「安城家の舞踏会」はまるでキャロル・リードですが、彼の傑作群が日本で公開されるより前の作品ですから、日本の映画を見くびってはいけませんね。

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