映画評「或る殺人」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1959年アメリカ映画 監督オットー・プレミンジャー
ネタバレあり

現役裁判官だったロバート・トレイバーの手になる法廷推理小説「錯乱」を社会派オットー・プレミンジャーが映画化した160分に及ぶ大作。原作も大作だったらしい。

小さな法律事務所を営む弁護士ジェームズ・スチュワートが、妻リー・レミックを強姦したとされる酒場経営者を射殺した青年軍人ベン・ギャザラを弁護することになる。

裁判映画と言えば、1957年の「十二人の怒れる男」を最高峰に様々な秀作があるが、2年後に作られた本作もその堂々たる作りを考えれば、上位に入れたい。
 面白いのは彼に弁護を依頼して来るリーの明るさと扇情的な態度で、少しも悲劇のイメージがない。
 ジミーは裁判に不利になるので悲劇の主人公に見せかける努力をしなければならないのだが、裁判が始まってからも、妻の差し出したライターを断って被告が自分で火を付けるという象徴的な場面がある。この夫婦の関係が如実に表れている。これは幕切れへの伏線ともなり、弁護士の奮闘が空しく思えるような瞬間でもある。

その一方で、一時的な精神錯乱を主張する弁護士と強姦の事実はなかったとする検事ジョージ・C・スコットの虚々実々の駆け引き、丁々発止のやりとりが誠に興味深く、中でも弁護士のユーモアは裁判映画史上に例がないほど優秀。
 
間に入る裁判長がリベラルでユーモアを解するところがあるのは弁護人にとって幸いだったわけだが、いずれにせよ、裁判の行方は酒場の支配人をしている被害者の娘が出廷するかに掛かって来る。

ジミー扮する弁護士は「スミス都へ行く」を延長したようなキャラクターで、些か行き過ぎの感あり。寧ろ、リー・レミック、ギャザラ、秘書イヴ・アーデン、酔いどれ弁護士アーサー・オコンネル、検事スコットによるアンサンブルが楽しい。

この記事へのコメント

オンリー・ザ・ロンリー
2008年07月24日 22:05
実は作品の内容よりこの頃からタイトル・デジインの斬新さに子供ながら大変興味を持ちました。ご存知のようにソウル・バスその人であり「北北西」とか「サイコ」で印象が強いからヒッチと関係が深いと思われがちですがプレミンジャーの作品が一番多く「栄光への脱出」など見まくったものです。そして偶然ですが社会人になり仕事でお会し普通のおっさんで安堵した次第。ただ最近になり「ケープ・フィア」を観ましたがやはりお歳で感性の枯渇を感じない訳にはいきませんでした。残念。
オカピー
2008年07月25日 01:46
オンリー・ザ・ロンリーさん、こんばんは!

50年代からニューシネマが台頭する67年ころまでタイトル・デザインが面白い時代でしたね。
ヒッチコックの「めまい」なんかタイトル見ているだけでわくわくしてきまう。今はいきなりお話に入ってしまうから心の準備が整わず、乗れないまま映画を観ることが多いのがつらいです。
そう言えば「黄金の腕」もソウル・バスでしたね。

>社会人になり仕事でお会し
おおっ!
それは凄いですね。
僕は有名人と基本的に縁がないです。しょぼ~ん。
オンリー・ザ・ロンリー
2008年09月07日 18:37
DVD「ソール・バスの世界」(今月26日発売。3,990円なれどアマゾンは約1,000円引き)、予約しました。
オカピー
2008年09月08日 01:40
オンリー・ザ・ロンリーさん、こんばんは。

>ソール・バスの世界
そう言えば、先日あてにならんと話したallcinemaという映画サイトで紹介されていました。
欲しい気もする(笑)。

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