映画評「キングダム・オブ・ヘブン」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督リドリー・スコット
ネタバレあり
「グラディエーター」が現在の歴史劇ブームを引き起こしたという意見には賛同しかねるが、ヒットに気をよくしているのか、同作の監督リドリー・スコットが再び取り上げた歴史劇である。
今度のテーマは12世紀の十字軍、正確に言えば第3回十字軍である。前の十字軍が作ったエルサレム王国を守ろうと、フランスの騎士団がエルサレムに向う。建前上は平和の地であるが、アイユーブ朝の始祖として有名なサラディンに率いられるイスラム教徒側が奪われた聖地を奪還しに掛かっているのが実状。王国の現王(エドワード・ノートン)は優れた君主だが、癩病を病む彼が死ぬ時辛うじて維持されている平和が完全に崩れ去る運命にある。
これが背景で、主たる物語は意外と単純、鍛冶屋のバリアン(オーランド・ブルーム)がある日突然フランスの一領主ゴッドフリー(リーアム・ニースン)の庶子と知らされ、騎士団に同行した挙句にエルサレムの民を守る運命を背負わされる、というだけである。
勿論、この作品が作られた背景には9・11事件があり、狙いはイスラム教徒とキリスト教徒との和睦、平和への祈りであろう。視点はキリスト教徒側からのものであるが、サラディンを平和的人物として描いているのは史実に踏まえたものとは言えイスラム教徒側への配慮かもしれない。しかし、それは言わば文学的解釈であり、映画としての価値は別問題。
目を引くのは「トロイ」に負けず劣らず、人海戦術による雲霞の如き騎士が群がる戦術場面で、全て本物の人間だとしたら凄まじいエキストラの数である。
気に入らない点は、殺陣におけるスローモーションの多用、及び、CGによる血しぶきと泥の跳ね返り。全く嘘っぽい。CGなど使わなくても済むものにかくも堂々と使うとは、スコットともあろう者がCGを<打ち出の小槌>と思っているのか。各ショットの設計は概ね優れているので非常に勿体ない気がする。
内容的には、個人の心理に焦点を当てているのが現代的で、半世紀くらい前に盛んに作られた騎士ものの観念的人物像などとは根本から違う。その反面楽しさを犠牲にしている部分もあるのだが、スケールは満点なので、中世の歴史に興味のある人にはそこそこ楽しめるかもしれない。
2005年アメリカ映画 監督リドリー・スコット
ネタバレあり
「グラディエーター」が現在の歴史劇ブームを引き起こしたという意見には賛同しかねるが、ヒットに気をよくしているのか、同作の監督リドリー・スコットが再び取り上げた歴史劇である。
今度のテーマは12世紀の十字軍、正確に言えば第3回十字軍である。前の十字軍が作ったエルサレム王国を守ろうと、フランスの騎士団がエルサレムに向う。建前上は平和の地であるが、アイユーブ朝の始祖として有名なサラディンに率いられるイスラム教徒側が奪われた聖地を奪還しに掛かっているのが実状。王国の現王(エドワード・ノートン)は優れた君主だが、癩病を病む彼が死ぬ時辛うじて維持されている平和が完全に崩れ去る運命にある。
これが背景で、主たる物語は意外と単純、鍛冶屋のバリアン(オーランド・ブルーム)がある日突然フランスの一領主ゴッドフリー(リーアム・ニースン)の庶子と知らされ、騎士団に同行した挙句にエルサレムの民を守る運命を背負わされる、というだけである。
勿論、この作品が作られた背景には9・11事件があり、狙いはイスラム教徒とキリスト教徒との和睦、平和への祈りであろう。視点はキリスト教徒側からのものであるが、サラディンを平和的人物として描いているのは史実に踏まえたものとは言えイスラム教徒側への配慮かもしれない。しかし、それは言わば文学的解釈であり、映画としての価値は別問題。
目を引くのは「トロイ」に負けず劣らず、人海戦術による雲霞の如き騎士が群がる戦術場面で、全て本物の人間だとしたら凄まじいエキストラの数である。
気に入らない点は、殺陣におけるスローモーションの多用、及び、CGによる血しぶきと泥の跳ね返り。全く嘘っぽい。CGなど使わなくても済むものにかくも堂々と使うとは、スコットともあろう者がCGを<打ち出の小槌>と思っているのか。各ショットの設計は概ね優れているので非常に勿体ない気がする。
内容的には、個人の心理に焦点を当てているのが現代的で、半世紀くらい前に盛んに作られた騎士ものの観念的人物像などとは根本から違う。その反面楽しさを犠牲にしている部分もあるのだが、スケールは満点なので、中世の歴史に興味のある人にはそこそこ楽しめるかもしれない。
この記事へのコメント
TBありがとうございました☆
この作品には公開当初、賛否両論でかなり大きな話題を呼んでいた作品です。
歴史大作というと歴史的背景に詳しくないためにわかりずらい、長い、などの理由から単純に面白い作品とは言えないとは思いますが、この作品が根底のテーマとしている宗教上での報復劇の繰り返しに対する問題点を観客に問いかける内容となっていますね。
この映画の尊敬すべき点は、アラブの英雄を最大限にリスペクトした人物像で描いているところですね~
私は先日、「ユナイテッド93」という映画をみましたが、まさしくこの歴史的背景が起こしている報復劇です。そして、この映画のようにアラブ人をテロリストとしてだけではなく、同じ愛する者を持つ人間像としてクローズアップさせているところがこの映画に似ているなと思いました。もし、鑑賞されることがありましたら、是非感想などをおきかせくださいね。
そう言えば、私の「ユナイテッド~」の記事で監督名をうっかり間違えてしましました(笑)こちらの記事を拝見して気付きました(笑)早速直さなければ・・・
では、長くなりまして失礼致しました。
ウェブリ・ブログは比較的長くコメントが書けるのですが、これは最長不倒かも(笑)。
私は学生時代世界史は得意でしたし、映画鑑賞歴を通して色々な知識を得ていますから、全く抵抗はありません。寧ろ嘘が気になるくらい。
不思議なもので、中世と現代でも抱えている問題の根底にあるものは大差ないものですよね。
人間は進歩がないのか、というテーマを進めていくと「2001年宇宙の旅」になっていくのですが、現在ニュースになっているイスラエルのレバノン侵攻を見聞きしますと、暗鬱たる気持になってしまいます。
「ユナイテッド93」・・・頭の中にメモしておきます(笑)。