映画評「ミュンヘンへの夜行列車」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1940年イギリス映画 監督キャロル・リード
ネタバレあり

名声を上げる前のキャロル・リードの日本未公開スリラーだが、なかなか面白い。

1939年9月、ナチスがポーランドに侵攻する前夜、事実上ナチスに占拠されて属国化したチェコの科学者が英国へ逃亡するが、父を追おうとした娘マーガレット・ロックウッドがナチスに逮捕される。収容所で知り合ったズデーデン地方の青年ポール・ヘンリードの手配で脱走、無事に英国に渡る。
 ひどく順調に進むので僕が首を傾げていると、青年は実はナチスのスパイで、故意に娘を泳がせて父親を確保する作戦と判明する。

彼が眼科に言って視力を測る振りをしてスパイコードを告げる辺り面白いが、これも省略を重ねてひどく順調に進む。というのも本作の眼目は、英国諜報員レックス・ハリスンが彼らを如何に救助するかにあるからである。

ハリスンは科学者父娘と知り合いだったというナチス将校を演じて大胆に彼らが軟禁されている現場に乗り込み、将軍の信任を得て、ミュンヘンへの列車を使って逃亡を図る。勿論彼はドイツに長年暮していた経験があるという設定で、言葉から怪しまれることはない。
 しかし、ハリスンの知人を含めたのんきな英国人二人が同じ列車に乗り合わせ不用意な言葉を発したことから彼の正体がばれ、ヘンリードも正体を知ったことを伏せ、ここに虚々実々の駆け引きがスリル満点に繰り広げられる。

最後はスイス国境まで達してのケーブルカーを巡るサスペンス。
 リードとしては「第三の男」「邪魔者は殺せ」のような圧倒的な映像表現はまだ見えないが、英国にはヒッチコックという良いお手本がいて、彼を見習うかのように省略を上手く用い、また科学者の発明したという装甲板もマクガフィン的に扱って、展開ぶりは大いに宜しい。

ハリスンのスパイぶり、途中で絡んで来るずっこけ二人組、いずれも英国人らしい飄逸さに横溢し誠に楽しい。
 マーガレット・ロックウッドは「バルカン超特急」ほど活躍しないが、同じようにストレートな役柄で魅力的。

この記事へのコメント

2022年03月13日 22:24
ちょこまかとやってきまして、お騒がせします。
知り合いのブログではオカピーさんのところくらいしか、同じ映画記事がなさそうで。
ただ「ブログ内検索」を使っても、ポンと出てこないみたいで、映画「ま」行をたどって発見しました。

キャロル・リードが決め手で見たのですが、なんと「絶壁の彼方に」のシドニー・ギリアット脚本なのでした! 似たようなシチュエーション、あります。
オカピー
2022年03月14日 20:02
ボーさん、こんにちは。

>「ブログ内検索」を使っても、ポンと出てこないみたいで、映画「ま」行をたどって発見しました。

ご苦労をおかけいたします。
一昨年くらいから「ブログ内検索が殆ど機能しなくなっております。

これを解決するには、これ以外(Yahoo!等)の検索エンジンで【作品名+オカピー】でやると90%以上出てきます。それでもダメな場合は【作品名+プロフェッサー・オカピー】でやると95%くらいは行けると思います。

>キャロル・リードが決め手で見た

20年弱前の僕もそうでした。

>「絶壁の彼方に」のシドニー・ギリアット脚本なのでした! 似たようなシチュエーション、あります。

この時代の(スパイ)スリラーには、歯科医、理容師、眼科医あたりに逃げ込んだり、指令を取り交わすといったシチュエーションがよく用いられましたが、ギリアットは特にそれが顕著ですね。

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  • <ミュンヘンへの夜行列車> 

    Excerpt: 1940年 イギリス 96分 原題 Night Train To Munich 監督 キャロル・リード 製作 エドワード・ブラック 原案 ゴードン・ウェルスリー 脚本 シドニー・ギリアット フランク.. Weblog: 楽蜻庵別館 racked: 2006-07-07 12:45