映画評「運命じゃない人」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年日本映画 監督・内田けんじ
ネタバレあり

クェンティン・タランティーノの映画を思い出す、同じ場面が違う視点で繰り返される作品であるが、僕の趣味ではタランティーノより面白い。時系列を壊して再構築するという手法は決して彼の発明品ではなく、若きスタンリー・キューブリックの作った「現金に罠を張れ」の着想をちゃっかり戴いただけであり、その巧さにも届いていないので、特別には高く評価していない。そして内田けんじなる新人が作り上げたこの作品は彼の作品よりも余程気が利いている。
 同時に「羅生門」の匂いもしないだろうか。実はずっと「パルプ・フィクション」も形を変えた「羅生門」ではないかと思っている。

三部構成である。
 最初は婚約者の裏切りを知った霧島れいかが、アパートを出て一人で暮らす決意をするが、喫茶店で探偵・山中聡が勝手に接近させた、こちらも振られたばかりの中村靖日のマンションに一晩厄介になりかける。そこへ前の<彼女>らしい板谷由夏が現れ、れいか嬢は出て行ってしまうが、後を追いかけた中村君は彼女の電話番号をゲットする。
 ただ一人地球外の星に住んでいるような純情素朴な男女の出会いがほのぼのと描かれ、くすくす笑いながら見てしまう。特に男性側には親近感を覚え、最近にない楽しさ・嬉しさである。

と、ご機嫌になっていたら、今度は探偵の視点でこの話が語られ始めるのでやや戸惑うのだが、なかなか巧くて目が離せない。
 実は由夏嬢は結婚詐欺師で、実業家と思っていたヤクザ・山下規介の金を盗んでしまい、逃亡する為にパスポートを探偵君と協力して中村君のマンションから取り戻そうとするが、そこへ彼が戻ってきたので、探偵君が無理矢理喫茶店に呼び出した、という次第。結局二人ともヤクザに捕まってしまうが、探偵君は無事に解放される。

その理由はヤクザのボス・山下の視点で展開する第三部で明らかになる。何と彼がちらつかせていた大金は殆どが見せかけ、恥を掻くまいと何とか取り戻そうとしただけだからである。そして、中村君は彼女のメモを信じていつまでも電話を掛け続けるが・・・。

なるほど「運命じゃない人」ですなあ。他人の思惑によりこの二人の運命は全て操られていたのであり、実は運命の人であった可能性があるのにそれに気付かないで、永遠に絆を断ちそうになる悲喜劇である。
 場面が三回繰り返されても無駄に感じさせないだけの巧みさが感じられるが、それ以上に登場人物の普通の人ぶりに惹かれる。これが断然良いのだ。

この記事へのコメント

viva jiji
2006年08月06日 07:09
プロフェッサーには「こりゃ、違反だ」と思われる作品も私はうまく作られていて「居丈高に見えなければ」、いやーっ、まいった、まいった!でウハウハです。本作がまさにこれのツボにはまりました。冒頭のファミレスのシーンの撮り方から「おやーっ!これは!」って乗り出しましたもの。「シックス・センス」はもう観ることもないと思いますが本作は近い内にまた観ます。TBさせていただきました。
viva jiji
2006年08月06日 07:11
livedoorさんよ~~、頼むからチャンと稼動してよ~~~!(笑)
すみません、TB、ダブってますので1コ削除お願いします。トホホ。
オカピー
2006年08月06日 14:28
viva jijiさん
時系列破壊型だって私は評価しますよ。ただタランティーノやガイ・リッチーやら「トラフィック」やら「アモーレス・ペロス」やらが過大評価されているのが気に入らない。
それらよりこの作品の方が巧いし、気が利いている。しかし、この作品が世界的に評価されることは・・・映画祭どまりで・・・まずないでしょうね。
しゅぺる&こぼる
2008年06月23日 21:06
>なるほど「運命じゃない人」ですなあ。他人の思惑によりこの二人の運命は全て操られていたのであり、実は運命の人であった可能性があるのにそれに気付かないで、永遠に絆を断ちそうになる悲喜劇である。
うわ!この発想目からうろこです。
わたしは運命じゃない人、他人同士っていうものはより一期一会を大切にしようっていうことなのかなと考えておりました。
電話番号をなめてはいけないっつうことですね(笑)
ラストシーンで宮田君の会社の同僚とまきが一緒にマンションを訪ねる。
ここでまたちがったスリーショットが始まりますよね。
最後の最後まで面白かった。
オカピー
2008年06月24日 00:38
しゅべる&こぼるさん、コメントかたじけないです(笑)。

こういうタイプを<時間巻戻し型>というらしいです。
言い得て妙かな。

>目からうろこ
僕にはそれ以外の発想ができなかったということです。^^;
「アフタースクール」ってこの人の新作だったのかあ(笑)。そりゃあ是非観ないといけませんなあ。

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