映画評「暗くなるまで待って」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1967年アメリカ映画 監督テレンス・ヤング
ネタバレあり
「ダイヤルMを廻せ」という傑作舞台劇を書いたフレデリック・ノットの舞台劇を映画化したものだが、これまた傑作である。
写真家のエフレム・ジンバリスト・ジュニアが見知らぬ女性から人形を預かり、自宅へ持ち帰る。
この部分はタイトルバックで紹介され台詞を聞こえないように進めるのが巧いのだが、いよいよ彼の盲目の妻オードリー・ヘプバーンが留守を守るアパートが舞台となる本番に入っていく。
このアパートの造型が映画的に楽しめるようにうまく設計されているし、その設計を撮影が生かしている。
そのアパートに夫の戦友を名乗るリチャード・クレンナ、人形は失踪した妻の不倫騒動にからむものと主張する男アラン・アーキン、失踪した妻が殺されたことが判明した為しゃしゃり出てきた刑事ジャック・ウェストンが繰り返し出入りする。
観客は既に分っているのだが、この三人は勿論グルで、麻薬を入れた人形を取り返す為の大芝居である。
これに目の不自由な彼女を世話するグロリア(ジュリー・へロッド)という少女が加わり、強いテンションで進行し、終ぞ緩む場面を見出せない。
オードリーは盲目故に勘が鋭く、彼らの計画は思ったように進まないのだが、クレンナがグルと知った時彼女が取る対策が秀逸。タイトルからも分るので今更隠す必要もないであろう、暗闇になったら盲人の方が強いことに気づき、部屋の灯りを全て壊してしまうのである。
ただこれは誰もが指摘出来るので、僕はこの作品の主役はアパートであると指摘しておきたい。ドア、階段、階段の手すり、ブラインドなど惚れ惚れするくらい巧く活用されているが、特に印象的なカメラワークがある。
ウェストンに見られてはまずいグロリアが部屋から何とか出ようとする場面で、最初は奥にウェストン、真ん中にオードリー、一番手前に少女という構図が、次のショットではウェストンがいた場所から見る(言うまでもないが、ウェストンの視点ではない)構図に変るのだが、緊張感をアップする見事な演出である。そのままのショットで進行させたら凡監(平凡な監督)と言うべきだが、この場面が象徴するように初期「007」でヒッチコック的演出を流用してきたテレンス・ヤングはさすがである。
グロリアの扱いも実に面白い。人形を持っていったのも彼女だし、連絡役を頼まれて玄関口にいたウェストンに足止めを食らった後、子供らしく鉄柵をカタカタ鳴らす。これは無事に外に出られたことを示すオードリーへの連絡となっているのである。どこまでも巧い。
電話も非常に重要な小道具なので、よく注意して観られたし。
さて、普段映画は映像で語らねばならないと主張している僕が、台詞の多いこの映画を絶賛することは矛盾のようであるが、問題なのは映像で説明すべきことを言葉で説明することであって、台詞と映像が相互補完するなら寧ろ歓迎である。
1967年アメリカ映画 監督テレンス・ヤング
ネタバレあり
「ダイヤルMを廻せ」という傑作舞台劇を書いたフレデリック・ノットの舞台劇を映画化したものだが、これまた傑作である。
写真家のエフレム・ジンバリスト・ジュニアが見知らぬ女性から人形を預かり、自宅へ持ち帰る。
この部分はタイトルバックで紹介され台詞を聞こえないように進めるのが巧いのだが、いよいよ彼の盲目の妻オードリー・ヘプバーンが留守を守るアパートが舞台となる本番に入っていく。
このアパートの造型が映画的に楽しめるようにうまく設計されているし、その設計を撮影が生かしている。
そのアパートに夫の戦友を名乗るリチャード・クレンナ、人形は失踪した妻の不倫騒動にからむものと主張する男アラン・アーキン、失踪した妻が殺されたことが判明した為しゃしゃり出てきた刑事ジャック・ウェストンが繰り返し出入りする。
観客は既に分っているのだが、この三人は勿論グルで、麻薬を入れた人形を取り返す為の大芝居である。
これに目の不自由な彼女を世話するグロリア(ジュリー・へロッド)という少女が加わり、強いテンションで進行し、終ぞ緩む場面を見出せない。
オードリーは盲目故に勘が鋭く、彼らの計画は思ったように進まないのだが、クレンナがグルと知った時彼女が取る対策が秀逸。タイトルからも分るので今更隠す必要もないであろう、暗闇になったら盲人の方が強いことに気づき、部屋の灯りを全て壊してしまうのである。
ただこれは誰もが指摘出来るので、僕はこの作品の主役はアパートであると指摘しておきたい。ドア、階段、階段の手すり、ブラインドなど惚れ惚れするくらい巧く活用されているが、特に印象的なカメラワークがある。
ウェストンに見られてはまずいグロリアが部屋から何とか出ようとする場面で、最初は奥にウェストン、真ん中にオードリー、一番手前に少女という構図が、次のショットではウェストンがいた場所から見る(言うまでもないが、ウェストンの視点ではない)構図に変るのだが、緊張感をアップする見事な演出である。そのままのショットで進行させたら凡監(平凡な監督)と言うべきだが、この場面が象徴するように初期「007」でヒッチコック的演出を流用してきたテレンス・ヤングはさすがである。
グロリアの扱いも実に面白い。人形を持っていったのも彼女だし、連絡役を頼まれて玄関口にいたウェストンに足止めを食らった後、子供らしく鉄柵をカタカタ鳴らす。これは無事に外に出られたことを示すオードリーへの連絡となっているのである。どこまでも巧い。
電話も非常に重要な小道具なので、よく注意して観られたし。
さて、普段映画は映像で語らねばならないと主張している僕が、台詞の多いこの映画を絶賛することは矛盾のようであるが、問題なのは映像で説明すべきことを言葉で説明することであって、台詞と映像が相互補完するなら寧ろ歓迎である。
この記事へのコメント
これらも、後半の伏線になっていました。
何度も見ている作品ですが、今回分はDVDに保存いたしました。
私からも9点、差し上げま~す。
尚、水野ハルオさんには特に何の感情も持ち合わせておりませんのでご遠慮なく(笑)。
私もDVD保存版を作りました。ハイビジョン放送の時は見落として自分に腹が立ってしまいましたよ。
さて、水野氏ですが、あの人は映画批評家としても私は全く感心していないわけですが、作った映画を見ればそのセンスが分るというもの。トリュフォーやボグダノヴィッチは批評家としても一流だったはず。優れた批評家が優れた作家になれる確率は低いはずですが、逆は大いにありうるでしょう。
彼が熱烈な映画ファンであるという点では親しみを覚え、映画輸入者としては高く評価していますが・・・批評家としてはどうも。
>このアパートの造型が
こういうアパート。欧米の映画にはよく出て来ます。2階建てかと思ったら地下(?)もある?と言う事は3階建てでしょうか?
>暗闇になったら盲人の方が強いことに気づき、部屋の灯りを全て壊してしまうのである。
「座頭市」でも、それを生かした場面がありました。勝新太郎がこの影響を受けたのかも知れません。
>しゃしゃり出てきた刑事ジャック・ウェストン
三人の中では一番目立っていました。好演です。
>スミスの「ベイビー・イッツ・ユー」
教えて下さってありがとうございました。
「ザ・ビートルズ・ライヴ!! アット・ザ・BBC」で聴ける「ソルジャー・オブ・ラヴ」。僕と仲良しの同僚がその原曲を聴いて感動していました。
https://www.youtube.com/watch?v=9ds4ltZCSzk
>有名なこの映画を昨日初めて見ました。
これは盲人が奮闘する映画のリファレンスなので、観て正解です!^^
先年観たマカロニ・ウェスタンにもあった似たシチュエーションがありました。実際に作られた順番はともかく、どうしても比較することになります。
>勝新太郎がこの影響を受けたのかも知れません。
そうかもしれません。とにかく、比較もしくは関連付けしたくなる(笑)
>「ソルジャー・オブ・ラヴ」。僕と仲良しの同僚がその原曲を聴いて感動していました。
「アンナ」と同じアーサー・アレキサンダーの曲ですね。アメリカではダメで英国で人気のあった人。
この原曲のバックコーラスを聞くと、ビートルズが「ベイビー・イッツ・ユー」のコーラスに取り込んだような気がします。
>アメリカではダメで英国で人気のあった人。
音楽の好みが違うんでしょうね。
ビートルズの「From me to you」がアメリカでは41位。シングルB面の「She's a woman」が全米4位。それを思い出します。
>この原曲のバックコーラスを聞くと、ビートルズが「ベイビー・イッツ・ユー」のコーラスに取り込んだ
なるほど!いい影響を受けたんですねー!
>比較もしくは関連付けしたくなる(笑)
マカロニウェスタンと1970年代の時代劇が影響を与え合ったのも良い事です。
>初期「007」でヒッチコック的演出を流用してきたテレンス・ヤングはさすがである。
これも良い影響です。
>新型コロナ対策
日曜スクープで田村憲久厚労大臣が生出演していました。
田村先生。これからどうすればいいのでしょうか?
>「From me to you」がアメリカでは41位。シングルB面の「She's a woman」が全米4位。
発表時期の関係もあるかもしれませんが、確かに好みの問題がありそうです。
>田村先生。これからどうすればいいのでしょうか?
ワクチンを打つしかありません by 菅総理
暫くしたら希望者への接種が終わり、その後は回避希望者にいかに多く接種させるか。それしかないような気がします。
デルタ株は90%程度接種しないと、集団感染状態にならないとも。これは極めて高いターゲットです。従来株なら今頃は激減していたはずなんですがねえ。
人流抑制と言っても、なかなか手がない。かと言って西洋風のロックアウトをしたら人がもっと死にかねない。
来年早々にはかなり落ち着くと思いましたがねえ。
>デルタ株は90%程度接種しないと、集団感染状態にならないとも。
とにかく若者達を中心として接種しまくる事ですね!我が家は第一・二子は接種しましたが、第三子は予約すらも出来ません。
>西洋風のロックアウトをしたら人がもっと死にかねない。
西洋は死者が増えても「ケ・セラ・セラ」なんでしょうか?
>問題なのは映像で説明すべきことを言葉で説明することであって
漫画でもそれが見られます。「巨人の星」で花形満がバット、コーチがラケット。テニスコートで勝負する。コーチがボールを打ち返す時に「それっ!満ぼっちゃん!」。お金持ちのお坊っちゃんと言う事を説明したかったんでしょうね・・・(苦笑)。
>とにかく若者達を中心として接種しまくる事ですね!
若い人の感染者や重症者が増えたことで、以前よりは希望者が増えている感じですね。絶対打たないという人は数%程度という情報がありました。
>西洋は死者が増えても「ケ・セラ・セラ」なんでしょうか?
日本と違って、補償がしっかりしている国が多いので、経済死の割合が相当低いのでしょう。日本もロックアウトするなら、欧米のように迅速かつ大金を払う必要がありますよね。
>お金持ちのお坊っちゃんと言う事を説明したかったんでしょうね・・・(苦笑)
状況説明ではないので、罪のないほうでしょうねえ。皮肉な感じも出ていますし。
当時はともかく、今の若い人は、金持ちの子供を坊っちゃんということも知らないかもしれませんねえ。時代は変わる!
昨日ロック・ハドソン主演「要塞」を見ました。イタリア映画「鉄道員」で長女役だったシルヴァ・コシナが女医役でした。
https://www.youtube.com/watch?v=yjxhBIgIz7Q
音楽はエンニオ・モリコーネです。
>絶対打たないという人は数%程度という情報がありました。
我が家の末っ子長男に打たせたいのですが、予約が取れません・・・。
>欧米のように迅速かつ大金を払う必要がありますよね。
政府の考え方が違うのでしょうか?
>今の若い人は、金持ちの子供を坊っちゃんということも知らないかも
その通りです。それと電化製品に関しては格差がないから、余計にそうなるでしょう。
>昨日ロック・ハドソン主演「要塞」を見ました。
高校生くらいの時にTVで観ました。
詳細は余り憶えていませんが、奇しくも今日見た「アーニャは、きっと来る」という新しい映画と少し被るところがある内容かもしれません。今日のはユダヤ人ものですけど、子供が主人公で駐留ドイツ軍が絡んでいました。
>我が家の末っ子長男に打たせたいのですが、予約が取れません・・・。
東京は大規模接種が再開され、若い人を優先するということでしょうから、さすがに10月くらいに感染者は減っていくでしょう。
愛知も同じようなことが必要ですね。
>政府の考え方が違うのでしょうか?
政府という以上に国民性と、それに基づく社会設備の問題でしょう。
例えば、日本は一度決めたことを変えられないという国民性があり、ワクチン接種の打ち手を増やす時もなかなか時間がかかりました。コロナが一部の旧弊を取り除きましたね。
社会設備は、特に口座と紐づけられたマイナンバーカードの類が各国のように普及していないことですね。僕はマイナンバーカードを積極的に賛成も反対もしていず、強制されない限り自分もまず作りませんが、これがきちんと整備されていれば、書類などを提出せずとも支払いが行われる(とされています)。政府に近い人が言うことなので、余り信用できませんが、論理的にはその通りでしょう。
今日成立したデジタル庁なるものが完全に機能すれば、日本も変わっていくでしょう。
>アーニャは、きっと来る
2020年のイギリス・ベルギーのドラマ映画ですね。機会があったら見たいです。
>さすがに10月くらいに感染者は減っていくでしょう。
東京都や愛知県だけでなく、全国がそうなって欲しいです。
>日本は一度決めたことを変えられないという国民性
保守的な方が無難という考えでしょうか?
>今日成立したデジタル庁なるものが完全に機能すれば、日本も変わっていくでしょう。
国による国民へのサービスが充実するといいですね。
>That Means A Lot
1989年のビートルズのブートレグが溢れた時代。この曲を聞いた時は感動しました。そして今日初めて知りましたが、こんなヴァージョンもあるんですね。
https://www.youtube.com/watch?v=-bjrHJRsZWo
>東京都や愛知県だけでなく、全国がそうなって欲しいです。
概して地方の方が接種率が高く、人口密度が低い為、宣言発出などで人流が減り出すと、急激に減る傾向がありますね。デルタ株はそれまでとは比較にならない感染率という感じなので、前回までのようには行かないとは思いますが。
>保守的な方が無難という考えでしょうか?
多分縄文時代以降日本人の沁み込んだ、思想以前の体質でしょうね。村意識というやつですね。あるいは村社会。
個人的には、儒教が全盛になった江戸時代に(200年ほど)平和だった故に固まったのかもしれない、とぼんやり考えてします。。
日本人の国民性に関しては、民族学の本を読むのも面白いでしょう。僕は余り読んでいませんが(笑)
>国による国民へのサービスが充実するといいですね。
批判的な人は、行政による管理の問題を考えているんですね。僕は余り心配していませんが、現在の日本のITは自慢できるレベルにはないというのも事実です。ITが米中に比べて遅れたのは、政府の意識の低さと、やはり古い形に拘る日本人(特に企業上層部)の国民性の問題でしょう。
>こんなヴァージョンもあるんですね。
YouTubeには初期の色々なアウトテイクの音源が聞けますね。
ヴァージョンと言えば、僕が持っている最初のオリジナル・アルバムCD4枚はモノラルなので、ステレオ版をCD化しようかとも考えています。同様に持っているブラック・ディスク(所謂レコード)はステレオですが。
それとは違う話ですが、楽器の位置が相当不自然な「ラバー・ソウル」のリミックスを後期作品同様に希望しています。「サージェント・ペッパー」で特に感じましたが、リミックスで楽器の配置が自然になると、楽曲の良さが際立ってくる。「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」はボーカルが動かず落ち着いて聴けるので、スーパーに良いですよ。音の良いコンポで聴く必要はあるかもしれませんが。