映画評「インテリア」
☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1978年アメリカ映画 監督ウッディー・アレン
ネタバレあり
この作品を最初に観たのは70年代の終わり、東京のアパートに住み始めた頃である。この作品の前にアメリカで大評判をとった「アニー・ホール」が日本でも好評で、「スリーパー」でちょっと可笑しな喜劇人にすぎなった(けなしているわけではない)アレンがいよいよ映画作家としての実力を出し始めていた。
そして、この傑作が登場した。アメリカでは前作の評判に到底及ぶものではなかったが、僕の眼にはそれを大分凌駕したように感じられ、当時の映画評で「アレンもいよいよチャップリンの境地に達した」と絶賛している。喜劇人チャップリンが出演しないで作った秀作メロドラマ「巴里の女性」と比べたわけである。
もう一つ浮んだ映画人の名はスウェーデンの天才イングマル・ベルイマン。
当時ベルイマンは「狼の時間」「恥」という日本未公開作をTVで観たことしかなかったから全く自信はなかったが、「沈黙」を経て「ペルソナ」の強烈なクロースアップを見た時、これはアレンが<ベルイマンにオマージュを捧げた作品>との確信を抱く。
アレンがベルイマン・ファンであることを知ったのはもっと後だが、アレンが「アニー・ホール」でベルイマンに言及したのを思い出していた。
一回目の感動を大事にしていた為今回は二度目に過ぎない。勿論最初の時のような新鮮な感動はないが、却ってドラマ構成の完成度の高さ、端正な映像の構図が冷静に確認できた。ベルイマンの最高作品に匹敵すると言っても過言ではないだろう。
インテリア・デザイナーである母親(ジェラルディン・ページ)が、自らの人生だけでなく、夫(E・G・マーシャル)と娘3人(ダイアン・キートン、メアリー・ベス・ハート、クリスティン・グリフィス)の人生をインテリアのようにきちんとデザインしようとして結局家族達の反感を買い、海に身を投げる。
僕はロシア語専攻で一番好きな作家はチェーホフであるが、この作品を愛する理由の一つとして、その代表的戯曲「三人姉妹」と「桜の園」を思わせる心理劇としての緻密な設定と情感があることを挙げて良いかもしれない。
彼らの家は海に面し、しばしば波のショットが挿入されるが、母親が海で死ぬことを暗示しているようだ。葬儀の場面で登場人物が全て顔を出す幕切れも上手い。窓から外を眺める姉妹三人を捉えた場面は滅多に観ることの出来ない美しさである。
才女である長女ダイアンと凡才の次女メアリーの葛藤もフィーチャーされるが、これも結局、作品の基調となっている母への恨みに収斂していく。お見事。
配役陣では、ジェラルディン、ダイアン、メアリーは揃って好演で、これに父親の後釜となるモーリーン・ステイプルトンを加えた四人組が醸し出すアンサンブルが素晴らしい。
因みに、同じ78年にベルイマンが同じように母娘の確執をテーマにした「秋のソナタ」を発表しているのも個人的に興味深い現象なのだが、皮肉なことに「インテリア」の完璧な整合性の前に見劣りする部分があった。
この後アレンは、もう一つの傑作「ハンナとその姉妹」を発表しているが、こちらも人物像にベルイマンの影がちらつく。顕著なのはアレン演ずる人物だった。
1978年アメリカ映画 監督ウッディー・アレン
ネタバレあり
この作品を最初に観たのは70年代の終わり、東京のアパートに住み始めた頃である。この作品の前にアメリカで大評判をとった「アニー・ホール」が日本でも好評で、「スリーパー」でちょっと可笑しな喜劇人にすぎなった(けなしているわけではない)アレンがいよいよ映画作家としての実力を出し始めていた。
そして、この傑作が登場した。アメリカでは前作の評判に到底及ぶものではなかったが、僕の眼にはそれを大分凌駕したように感じられ、当時の映画評で「アレンもいよいよチャップリンの境地に達した」と絶賛している。喜劇人チャップリンが出演しないで作った秀作メロドラマ「巴里の女性」と比べたわけである。
もう一つ浮んだ映画人の名はスウェーデンの天才イングマル・ベルイマン。
当時ベルイマンは「狼の時間」「恥」という日本未公開作をTVで観たことしかなかったから全く自信はなかったが、「沈黙」を経て「ペルソナ」の強烈なクロースアップを見た時、これはアレンが<ベルイマンにオマージュを捧げた作品>との確信を抱く。
アレンがベルイマン・ファンであることを知ったのはもっと後だが、アレンが「アニー・ホール」でベルイマンに言及したのを思い出していた。
一回目の感動を大事にしていた為今回は二度目に過ぎない。勿論最初の時のような新鮮な感動はないが、却ってドラマ構成の完成度の高さ、端正な映像の構図が冷静に確認できた。ベルイマンの最高作品に匹敵すると言っても過言ではないだろう。
インテリア・デザイナーである母親(ジェラルディン・ページ)が、自らの人生だけでなく、夫(E・G・マーシャル)と娘3人(ダイアン・キートン、メアリー・ベス・ハート、クリスティン・グリフィス)の人生をインテリアのようにきちんとデザインしようとして結局家族達の反感を買い、海に身を投げる。
僕はロシア語専攻で一番好きな作家はチェーホフであるが、この作品を愛する理由の一つとして、その代表的戯曲「三人姉妹」と「桜の園」を思わせる心理劇としての緻密な設定と情感があることを挙げて良いかもしれない。
彼らの家は海に面し、しばしば波のショットが挿入されるが、母親が海で死ぬことを暗示しているようだ。葬儀の場面で登場人物が全て顔を出す幕切れも上手い。窓から外を眺める姉妹三人を捉えた場面は滅多に観ることの出来ない美しさである。
才女である長女ダイアンと凡才の次女メアリーの葛藤もフィーチャーされるが、これも結局、作品の基調となっている母への恨みに収斂していく。お見事。
配役陣では、ジェラルディン、ダイアン、メアリーは揃って好演で、これに父親の後釜となるモーリーン・ステイプルトンを加えた四人組が醸し出すアンサンブルが素晴らしい。
因みに、同じ78年にベルイマンが同じように母娘の確執をテーマにした「秋のソナタ」を発表しているのも個人的に興味深い現象なのだが、皮肉なことに「インテリア」の完璧な整合性の前に見劣りする部分があった。
この後アレンは、もう一つの傑作「ハンナとその姉妹」を発表しているが、こちらも人物像にベルイマンの影がちらつく。顕著なのはアレン演ずる人物だった。
この記事へのコメント
「インテリア」も「ハンナとその姉妹」も双葉さんには好評でしたよね。いずれも未見ですが、この評を読むと確かに面白そうに感じます。アレンって凄い才能の持ち主だったんですねぇ。
“スコルピオン”とか“カイロ”とかの方が自分の好みだろうとは思いますが・・・(笑)。
いつになくプロフェッサーの文章にチカラが入っているなあ!と感じるのは私だけではないでしょう。
優れた監督の必須条件のひとつに“人間”特に「女性」をいかにうまく描くか!がありますがベルイマンはもちろんですが、アレンも巧みに女優を動かし、おまけに「女」をよく知っていらっしゃる。
本作であれば長女から見た母親像、溺愛された次女から見たそれらの表現が少ない台詞と動きで実に饒舌に語られています。
父の恋人が突然、立ち現れる「あの場面」、特にジョーイの動揺・軽蔑の表情と台詞に初見よりも今回のほうが鳥肌が立ちましたわ!
アレンの緻密な「人間観察」の鋭さ、切磋琢磨の結晶でしょう。
映画は「映像で人間を語る」「映像で心の中へ旅をする」最高の手段であればこの「インテリア」ほど、それらを完璧に実証している作品はないでしょう。
TBさせていただきました。
いや、viva jijiさんがUPされたので急遽やっつけたですよ。実は観たのは3年前(笑)なのですが、その時の鑑賞メモを完全新規に書き直しました。突貫工事の割にはそこそこ書けましたか。
およそ四半世紀前これは研ぎ澄まされた感性の映画だなあ、と思ったものです。この頃からベルイマンが好きになりましたから、相乗効果で二人に傾倒しました。
「ハンナとその姉妹」も実はかなりベルイマン的(指摘する人は全くいませんけどね)で、大好きですよ。
「カイロ」「スコルピオン」は古い映画へのオマージュとして楽しかったなあ。
>映画は「映像で人間を語る」「映像で心の中へ旅をする」最高の手段であれば
そうです。「インテリア」は作者があれほど感性を研ぎ澄まして作ったのですから、観客も感性を研ぎ澄まして観ないといけませんね。しかし、生やさしい作品ではないので、ちょっと人生と映画の経験の浅い人にはこれは解らないでしょう。
そこで、viva jijiさんには、この映画の境地と全く対照的な関係にある「アイランド」をご覧になって戴きたいのです。viva jijiさんが褒めることはまずないと思いますが、少なくとも私は<映画の将来は暗い>と泣きました。
鼻ヒクしないと劇場へは観にいかないのです。
プロフェッサーと豆酢さんの記事&コメントを拝読させていただいておりました。
ほかならぬプロフェッサーのリクエストとなれば顔を洗って観ましょう!
でも訪れて下さるプロフェッサーならすでにおわかりかと思いますが劇場で観た新作の記事はブログ開設当初より格段に減少しています。
観ているのですが「書く気が起きない」。腹が立つ前にがっかりするのがとても多い。私は演出と俳優の演技を重要視する見方ですので(プロフェッサーのように温厚でもないので)はじまって7~8分で“わかってしまう”んですよ。淀川センセ曰く「ヘンな映画でもどこか必ずいいところがあるに違いないからそれを探すんです」・・・なかなかこの境地には達し切れません。
内容を考えると長いので、貴重な時間を無駄にさせてしまう公算が高いですが、私は出来の悪い映画は良い映画を観るための滋養と考えていますので、「時間を返せ」と思ったことは殆どないですね。「金を返せ」と思ったことがないとは言えないですが、不思議なことにそれをはっきりと思ったことがないです。金がかからないなら、好んでつまらない映画を観ますよ。良い映画の価値が分りますからね。
仰るように、映画の良し悪しは、編集の呼吸で分りますので1巻が終る頃には見当が付くことが多いです。勿論突然よくなる映画もありますが、こちらは後半がメタメタ。
私は、ひどい映画について書くのは大好き(先日の「吸血鬼ゴケミドロ」は書くのが楽しかった)ですので、その感覚でご覧になり、断裁して戴ければ幸いです。強制ではありませんが、強烈なのが出そうで楽しみにしているんですよ。
深過ぎてコメントしにくいです・笑。
こんな大真面目なアレンさんをもう一度観たいです。
見事なシャシンでした。
記事のこの場をお借りいたしまして記念すべき
プロフェッサーのお誕生日に自称・北海シネマ隊々長(笑)
viva jijiがお祝いのご挨拶に参上つかまつりました。
☆ つつしんで、お誕生日、おめでとうございます! ☆
岐阜の山奥は暑いのでしょうか、それとも
あふれる緑の自然環境で涼しい夏なのでしょうか。
お誕生日のきょうはどのようにお過ごしでしょうか?
プロフェッサーとおつき合いさせていただきまして
かれこれ1年以上は経ちましたかしらね。
言葉だけの行き交いは思うに任せぬ行き違いもございますが
これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。
明日UPのマイ記事はささやかな私からのプレゼントの
つもりでございます。
ぜひ、お寄り下されば幸いでございます。
さて、何の映画が登場しますか・・楽しみにして下さいね。♪
どうも有難うございます。
年を取るのが嬉しくない年齢ですが、人から色々と言って貰えるのは嬉しいですね。^^
ちょっと一つだけ訂正して貰いたいことがございます。^^;
あの~、私の住居は、岐阜ではなくて、群馬の西部でございます。浅間山と妙義山に挟まれた山間部です。山を超えると軽井沢。
当方の言葉足らずで色々とご迷惑をお掛け致しましたが、今後とも宜しくお願い致します。
明日、いえ、既に今日ですが、新しいノート・パソコンが届くんです。それで貴記事をチェックできると良いなあ。今後はどこででもネットが出来る環境が揃うはずで、効率的に仕事が出来そうです。^^)v
あらまぁ~、これはこれは群馬も岐阜もわけの
わからん地理オンチの私めの失態、お許し下さいませ。
(ペコリ・陳謝)
>新しいノート・パソコン
これまた素敵なお誕生日のプレゼントじゃありませんの!
どうぞおNEWのPCフル回転でお仕事に映画評に
これからもがんばってくださいませね。