映画評「Dear フランキー」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年イギリス映画 監督ショーナ・オーバック
ネタバレあり
英国映画には珍しい情緒的なドラマである。監督は撮影監督も兼ねたショーナ・オーバックで、長編第1作という。
開巻直後強烈に訛った英語で「英国映画だったのか」と思い知らされる。この映画については何も知らずに観始めたのである。
9歳になる難聴の息子フランキー(ジャック・マケルホーン)と老母を連れ、暴力的な夫デイヴィーから逃げ回っている女性リジー(エミリー・モーティマー)は、船員をしている父親からの手紙と偽って息子宛の手紙を書き続けている。
が、適当に書いた船名が実在して、新しい引越し先に近いグラスゴーの港に到着すると言うので大慌て、喫茶店を経営するマリー(シャロン・スモール)に頼んで父親役を見つけてもらう。
船は違うが彼も船員である、という設定で母と子の交情を描いているが、実に好感の持てる内容であり、作り方をしている。元来子を思う母を描いた作品に弱いということもあるが、そこに絡んで来る老母やマリーといった女性の扱いが大変宜しく、オーバックもしっとりした情味を豊かに醸成している。
名無しの権兵衛たる船員(ジェラルド・バトラー)はなかなかの好人物で、水切りを教えたりするうち、一日の予定をオーヴァーランしてしまうのだが、そこへまた不運が舞い込む。デイヴィーが死にそうなので息子を連れて来てくれと義姉に頼まれてしまうのだが、<事後>なのでそういう訳にも行かない。
新聞の死亡記事を利用して彼女は大団円を工作するが、息子の最後の手紙に驚くことになる。それは彼から<偽の父>への手紙に仮装した母親への手紙だったのだ。
少年がどの段階で気付いたのかは不明だが、少年のセンサーが非常にナイーヴであることが解れはそれで良い。
僕が一番気に入ったのは、少年のナレーションで進行するという手法である。ナレーションは物語を進行させる手段としては余り評価しないが、この作品にはナレーションを使わなければならない理由がある。
つまり、彼は難聴で話をしたがらず、「手紙が彼の話す唯一の言葉」という母親の言葉の重みを、手紙=ナレーションということで我々に体感させているのである。アンドレア・ギブの書き起こした脚本は実に繊細にして巧妙と言うべし。参りました。
配役陣は全体的に好調だが、やはり主人公を演じたエミリー・モーティマーが断然上手い。
2004年イギリス映画 監督ショーナ・オーバック
ネタバレあり
英国映画には珍しい情緒的なドラマである。監督は撮影監督も兼ねたショーナ・オーバックで、長編第1作という。
開巻直後強烈に訛った英語で「英国映画だったのか」と思い知らされる。この映画については何も知らずに観始めたのである。
9歳になる難聴の息子フランキー(ジャック・マケルホーン)と老母を連れ、暴力的な夫デイヴィーから逃げ回っている女性リジー(エミリー・モーティマー)は、船員をしている父親からの手紙と偽って息子宛の手紙を書き続けている。
が、適当に書いた船名が実在して、新しい引越し先に近いグラスゴーの港に到着すると言うので大慌て、喫茶店を経営するマリー(シャロン・スモール)に頼んで父親役を見つけてもらう。
船は違うが彼も船員である、という設定で母と子の交情を描いているが、実に好感の持てる内容であり、作り方をしている。元来子を思う母を描いた作品に弱いということもあるが、そこに絡んで来る老母やマリーといった女性の扱いが大変宜しく、オーバックもしっとりした情味を豊かに醸成している。
名無しの権兵衛たる船員(ジェラルド・バトラー)はなかなかの好人物で、水切りを教えたりするうち、一日の予定をオーヴァーランしてしまうのだが、そこへまた不運が舞い込む。デイヴィーが死にそうなので息子を連れて来てくれと義姉に頼まれてしまうのだが、<事後>なのでそういう訳にも行かない。
新聞の死亡記事を利用して彼女は大団円を工作するが、息子の最後の手紙に驚くことになる。それは彼から<偽の父>への手紙に仮装した母親への手紙だったのだ。
少年がどの段階で気付いたのかは不明だが、少年のセンサーが非常にナイーヴであることが解れはそれで良い。
僕が一番気に入ったのは、少年のナレーションで進行するという手法である。ナレーションは物語を進行させる手段としては余り評価しないが、この作品にはナレーションを使わなければならない理由がある。
つまり、彼は難聴で話をしたがらず、「手紙が彼の話す唯一の言葉」という母親の言葉の重みを、手紙=ナレーションということで我々に体感させているのである。アンドレア・ギブの書き起こした脚本は実に繊細にして巧妙と言うべし。参りました。
配役陣は全体的に好調だが、やはり主人公を演じたエミリー・モーティマーが断然上手い。
この記事へのコメント
きめ細やかな演出で各々の想いが観る私たちにキチンと伝わってくる、いい映画でした。
こういう良作にめぐり逢えると「幸福感」が全身を駆け巡ります!
プロフェッサーもそういうことありません?
TBさせていただきました。
正に仰るとおりの作品でしたね。
本文でも述べましたが、母親の「手紙は息子の声」という言葉に、この作品がナレーションという手段を択んだ理由がピンと来て、膝を打ちました。これは技術に属する分野ですが、こういうところにセンスを感じます。ありふれたナレーションではないんですね。
一年の20回くらいはそういう「幸福感」はあります。この作品のように上手く人情を捉えた作品、ヒッチコック作品のように素晴らしい技術を見出す作品など。
「映画ってやっぱり良いもんですね、それではまた次回お会いしましょう」
フランキーはストレンジャーが父親でないことをいつ知ったのだろう、と思って2回見ましたがわからないはずです。初めから知っていたのですね。
>「手紙が彼の話す唯一の言葉」という母親の言葉
ここではジンときました。子どもの心を知ることの出来る母親は本当に幸せです。母の心がわかる子どもも・・・。
映画の中で一人も悪人が出てこないというのも珍しいですね(強いて言えば実父は暴力男だけど)。周りは善意の人ばかりというだけで心が温かく
なります。
>初めから知っていた
私も恐らくそう思います。<思います>なのは見返して確認していないからです。
最近親子間の殺人が多いですが、普段からのスキンシップは大事ですよね。言い古された言葉ですが、こういう映画を見るとつくづく思いますよ。
ナレーションにはこういう効用もあるのかと思わせた一作でもあります。
>私も★をもっと増やせばよかったな。
そうですよ。(笑)
本文でも書きましたが、「手紙が息子の唯一の言葉」という母親の気持ちが見事に表徴されたナレーション。ナレーションにこんな使い方があるのかと発見して感激しなければ嘘ですよ。話ばかりに気を取られ、そうしたところを見ない人が余りに多いですね。