映画評「ヴェラ・ドレイク」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年イギリス=ニュージーランド=フランス映画 監督マイク・リー
ネタバレあり
「秘密と嘘」「人生は、時々晴れ」といった小市民を描いた秀作を発表してきた寡作作家マイク・リーの新作で、ちょっとした問題提起をしながらも今までと同じように家族の絆を謳い上げている。
1950年のロンドン、27年間連れ添ってきた夫、長女、長男と暮らしている主婦ヴェラ・ドレイク(イメルダ・ストーントン)は上層階級の家の家政婦をする合間に、妊娠した貧しい娘達の為に密かに無償で堕胎処置を行っている。
が、処置をした最後の娘が重症になったことから事が発覚して、裁判の結果予想より重い30ヶ月の禁固刑を言い渡されてしまう。
堕胎はカトリック教徒にとっては絶対悪で、プロテスタントにとっては必要悪ということになろう。英国国教は中間的な立場だと思うが、この作品では、道徳的な罪(sin)と法律上の犯罪(crime)の狭間という問題が提起される。
ヒロインは無償で、好きでもない男の子を孕んでしまったり女性や生活の為にやむなく処置を希望する貧しい人々を助ける完全なる善意によって行為を行っている。
彼女の働いている家の娘が正式な手続きで処置を行う場面が挿入されているのも、密かに処置される娘たちの哀れを強調する効果だけでなく、英国では堕胎そのものは条件付で法的に認められていることを示しているわけで、つまり、彼女のやっていることは<罪>ではないかもしれないが、医療の資格を持たぬ者が堕胎をすることが<犯罪>として問われていることになる。
彼女は刑に服するが、家族に迷惑を掛けること、息子にすら白眼視されることなど、社会的制裁のほうがつらいはずだ。とは言え、この映画で観客に救いを与えるのもまた家族(の絆)なのである。とりわけ、内気な娘の婚約者が彼女の服役前に「人生で一番素晴らしいクリスマスだ」と言ってヴェラのチョコを口にする場面で湧き上がる安堵感はとても言葉では表現出来ない。狭量な息子も母親の気持ちをいずれ理解するであろう。
噂に違わず、主演のイメルダ・ストーントンが素晴らしい。ジュディー・デンチにも似たノルマン人系(確証はない)風貌だが、誠に的確な演技と言うべし。他の出演者たちも、恐らく舞台畑で日本では全く無名だが、好演揃い。
TBが反映されないdimさん(オバサンは熱しやすく涙もろい)の記事はこちら↓
http://blog.goo.ne.jp/dimensionkk/e/b899b530463a57066b79b4690bcbf018
2004年イギリス=ニュージーランド=フランス映画 監督マイク・リー
ネタバレあり
「秘密と嘘」「人生は、時々晴れ」といった小市民を描いた秀作を発表してきた寡作作家マイク・リーの新作で、ちょっとした問題提起をしながらも今までと同じように家族の絆を謳い上げている。
1950年のロンドン、27年間連れ添ってきた夫、長女、長男と暮らしている主婦ヴェラ・ドレイク(イメルダ・ストーントン)は上層階級の家の家政婦をする合間に、妊娠した貧しい娘達の為に密かに無償で堕胎処置を行っている。
が、処置をした最後の娘が重症になったことから事が発覚して、裁判の結果予想より重い30ヶ月の禁固刑を言い渡されてしまう。
堕胎はカトリック教徒にとっては絶対悪で、プロテスタントにとっては必要悪ということになろう。英国国教は中間的な立場だと思うが、この作品では、道徳的な罪(sin)と法律上の犯罪(crime)の狭間という問題が提起される。
ヒロインは無償で、好きでもない男の子を孕んでしまったり女性や生活の為にやむなく処置を希望する貧しい人々を助ける完全なる善意によって行為を行っている。
彼女の働いている家の娘が正式な手続きで処置を行う場面が挿入されているのも、密かに処置される娘たちの哀れを強調する効果だけでなく、英国では堕胎そのものは条件付で法的に認められていることを示しているわけで、つまり、彼女のやっていることは<罪>ではないかもしれないが、医療の資格を持たぬ者が堕胎をすることが<犯罪>として問われていることになる。
彼女は刑に服するが、家族に迷惑を掛けること、息子にすら白眼視されることなど、社会的制裁のほうがつらいはずだ。とは言え、この映画で観客に救いを与えるのもまた家族(の絆)なのである。とりわけ、内気な娘の婚約者が彼女の服役前に「人生で一番素晴らしいクリスマスだ」と言ってヴェラのチョコを口にする場面で湧き上がる安堵感はとても言葉では表現出来ない。狭量な息子も母親の気持ちをいずれ理解するであろう。
噂に違わず、主演のイメルダ・ストーントンが素晴らしい。ジュディー・デンチにも似たノルマン人系(確証はない)風貌だが、誠に的確な演技と言うべし。他の出演者たちも、恐らく舞台畑で日本では全く無名だが、好演揃い。
TBが反映されないdimさん(オバサンは熱しやすく涙もろい)の記事はこちら↓
http://blog.goo.ne.jp/dimensionkk/e/b899b530463a57066b79b4690bcbf018
この記事へのコメント
本作はかなり重いテーマで(この監督は終盤間際にド~~ンっと来る!)締めくくりの家族の姿を観ながら思いは複雑でした。
アメリカ映画のようにムリクリ、ハグしたり言い訳がましい描写が無いのもかの日本映画的で懐かしい作り方だったような気がしています。
よい映画でした。TBさせていただきました。
今後とも宜しくお願い致します。
サイレント時代からアメリカ映画はどうしても表面的にテーマを誇示したり、あからさまに感動的な場面を用意するので、辟易することが多いですが、平均以上の欧州映画は仰るように大げさな表現に走ることはまずありませんね。私はどちらかと言えば欧州タッチが好きです。勿論ハリウッドには独自の良さもあり、それはそれで大好きなんですが、最近のハリウッド映画は下手だからどうも押し付けがましくなりますね。
最後の家族団欒は余韻に浸りました。あの婚約者が心の広い人で本当に良かったですよ。やはり良い映画は中に入ってしまいます。
コメント&TB、ありがとうございます。
あ、またリンクはってある(汗)…。恐縮でございます!
ハリウッド映画を見慣れている私にとって、単純に「面白い」とか「悲しい」とか言えないこういう映画って、コメントやレヴューを書くのにうまい言葉が出てこなくて困ってしまうのですよね~。
>娘の婚約者が彼女の服役前に「人生で一番素晴らしいクリスマスだ」と言ってヴェラのチョコを口にする場面
では私も「ほっ」っとして涙ぐんでしまいました。
一見うだつのあがらなそうな男性の懐の深さというか、度量の大きさに感動しました。どちらかというとヴェラ本人よりも夫や娘の婚約者に感動を覚えましたねえ。
ここでいうのもなんですが…「フィオナが恋していた頃」私も好きです。
もうすでに「おじさん」の域に突入していたアイダンにあの役はちょっと無理があったような気がしましたが、いい映画でしたね。
号泣しましたが…最後にみんなに救いがあって、私も救われました。彼の死も無駄ではなかったと思いたいです。
昔からハリウッドは主題も展開も明解、その反面深みがない。深みがないのをテクニックでカバーする作品が多い(多かった)ですね。最近はそのテクニックがある監督が殆どいなくなって、昔からの映画ファンはハリウッド映画に失望することが多いのも事実です。
その点ヨーロッパの映画は複眼的で、一つの結論を出すような作品は余りないですよね。ハリウッドの単純な図式も悪くはないですが、ずっしり心に残るというのは欧州作品に多いようです。
>どちらかというとヴェラ本人よりも夫や娘の婚約者に感動を覚えましたねえ。
その通りかもしれません。主題は<家族>そのものでしょうから。
>「フィオナが恋していた頃」
私の甘さが出たかもしれませんが、それを割り引いても、もう少し話題になって良かった作品ではないかなあと残念です。
こちらからもTBさせていただきましたが…まだ反映されていないかな…。いやぁ、映画を素直に受け止めるって難しい。(私だけかな)
そういう点ではイメルダさんは「優しくて明るくて親切な」ヴェラになりきっていたということなんでしょうね。劇場では映画にはまりこんで浸りたいタイプなんで、なかなか、感覚に左右されてしまいますね。でも私は1度目の感想も、受け止め方が足りなかっただけで大切な私の映画感想って思ってます。マイク・リーは本作ではいろんなテーマを見事に絡めながら家族を描いているなって改めて思いました。監督のテーマはきちんと受け止めたいなって、これは映画でいつも思っていることではありますが。
TB有難うございました。P様に本当にいつも関心仕切りです。5点とかの映画もきちんと言葉にしてられる。私は感動がなければ言葉にというところまで行きませんもの。
そういう感想の変遷というのは面白いですね。私ももう少し長いスパンですが、印象がコロッと変わった作品がありますよ。
ソ連映画の「カラマゾフの兄弟」など、最初は長いだけで面白くもないと思いましたが、後年見ましたらその長さが絶対的に必要なのだとほぼ180度変わったり、ね。
映画評では、出来の悪い映画の方が書いていて面白いケースも多いと思っているんです。中途半端な作品が一番書きにくい。
感想文の良い点は内容について深く考察していることが多い、ということになろうと思います。シュエットさんの考察も参考になりますね。
その点映画評は内容に対する作り方の追究ですから、人によっては物足りないはず。しかし、【内容の良し悪し≠評価の良し悪し】は厳然たる事実ですから、映画評は必要なんです。