映画評「ふたりの5つの分かれ路」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2004年フランス映画 監督フランソワ・オゾン
ネタバレあり
「まぼろし」の神妙さの後に「8人の女たち」の洒落っ気が来た時、その変幻ぶりを見て相当なサムライだなと思ったフランソワ・オゾンの新作で、ムード的には「まぼろし」系である。
映画に限らず、基本的に<物語>は次に何が起るかというサスペンスで成り立つものである。それがなければ読み続け、観続ける意欲が湧かない。その意味でこのオゾンの新作は従来の物語成立要件をいじってみた野心作と考えて宜しい。
つまり、通常の時系列で語れば何ということはない、恐らく平均的なフランス人夫婦の恋愛から離婚までを、時間を溯って逆進的に描いている。具体的には、離婚に始まり、妙な不倫の告白、出産、結婚、恋愛という順番で進行するのである。
サスペンスの放棄とは言えない。少なくとも何の知識もないままに観たなら暫くは「あれれ」と思いながら観ることになる。
しかし、一般的な感覚から言えば、次はどうなるという通俗的な意味合いでのサスペンスを放棄したのも同然であり、それは小説で言えば純文学を目指した作品と宣言しているのに等しい。
こんなことを長々と書いてきたのは、文学的な分析に余り興味がないという趣味の問題だけでなく、単細胞な僕には彼らの生活について何を言って良いやら全く見当が付かないということもある。
ルイ・マルの「恋人たち」を観たヒッチコックが「普通の人々の生活を描いてどこが面白いのだろう」と話したというが、それに近い感覚である。勿論僕は「恋人たち」のフレンチ風不倫の濃厚なムードにたっぷり酔いしれたし、ヒッチコックは案外やっかみで言ったのではないかとも思っている。
いずれにせよ、ブログ仲間のviva jijiさんに「そんなことでどうするの!」ときっと叱られるだろう。
妻役ヴァレリア・ブルーニ・テデスキは、「嘘の心」で凡そ刑事らしくない主任刑事役で妙に印象に残っている女優だが、今回は繊細で現実的な色気が漂う演技で好調。夫はステファン・フレース。
2004年フランス映画 監督フランソワ・オゾン
ネタバレあり
「まぼろし」の神妙さの後に「8人の女たち」の洒落っ気が来た時、その変幻ぶりを見て相当なサムライだなと思ったフランソワ・オゾンの新作で、ムード的には「まぼろし」系である。
映画に限らず、基本的に<物語>は次に何が起るかというサスペンスで成り立つものである。それがなければ読み続け、観続ける意欲が湧かない。その意味でこのオゾンの新作は従来の物語成立要件をいじってみた野心作と考えて宜しい。
つまり、通常の時系列で語れば何ということはない、恐らく平均的なフランス人夫婦の恋愛から離婚までを、時間を溯って逆進的に描いている。具体的には、離婚に始まり、妙な不倫の告白、出産、結婚、恋愛という順番で進行するのである。
サスペンスの放棄とは言えない。少なくとも何の知識もないままに観たなら暫くは「あれれ」と思いながら観ることになる。
しかし、一般的な感覚から言えば、次はどうなるという通俗的な意味合いでのサスペンスを放棄したのも同然であり、それは小説で言えば純文学を目指した作品と宣言しているのに等しい。
こんなことを長々と書いてきたのは、文学的な分析に余り興味がないという趣味の問題だけでなく、単細胞な僕には彼らの生活について何を言って良いやら全く見当が付かないということもある。
ルイ・マルの「恋人たち」を観たヒッチコックが「普通の人々の生活を描いてどこが面白いのだろう」と話したというが、それに近い感覚である。勿論僕は「恋人たち」のフレンチ風不倫の濃厚なムードにたっぷり酔いしれたし、ヒッチコックは案外やっかみで言ったのではないかとも思っている。
いずれにせよ、ブログ仲間のviva jijiさんに「そんなことでどうするの!」ときっと叱られるだろう。
妻役ヴァレリア・ブルーニ・テデスキは、「嘘の心」で凡そ刑事らしくない主任刑事役で妙に印象に残っている女優だが、今回は繊細で現実的な色気が漂う演技で好調。夫はステファン・フレース。
この記事へのコメント
一応映画的分析をポリシーとしておりますので、理屈を捏ね回しました(笑)。考え方としては、間違ってはいないでしょ?
で、苦手は余りないのですが、平凡な人間を文学的に見つめるタイプは確かに苦手でしょうね。文学的な人間を文学的に見るのは必ずしもそう言い切れませんが。
ラストの余韻・・・これはまあ解ります。観客にとって、そこには一種の(倒錯的な)カタルシスがあると思います。逆手のサスペンスとも言えますね。
>「ダメージ」
図星です。すっかり忘れていましたもの。「恋人たち」にはぞっこんだったんだけどなあ。あれはやはりムードにやられたのでしょうか。
いずれにして、意味深な語りが好きな監督ではあると分かりましたです。
通常の2回の鑑賞に順行時系列も観なくてはいけなくなって、おかげで色々と考え過ぎな所も出てきたりして、面白い経験でした。
>次はどうなるという通俗的な意味合いでのサスペンスを放棄したのも同然
でも謎解きの要素はありましたね。
>オゾン初体験
おお、そうでしたか^^
面倒くさい方のオゾンですけれど、物語が逆進するというアイデアで、一種の倒叙ミステリー的に楽しめる要素があるかもしれませんね。
>謎解きの要素
何故離婚に至ったのか、というプロセスを知る倒叙ミステリーの趣向でしょうか。
このお話を普通の順序で語っても、さほど面白くなかったかもしれないと当時は思いました。尤も、一度逆進で見たうえで、時系列に沿って観てみると違う面白さが出るであろうという意味では当たっていないかもしれません。