映画評「THE有頂天ホテル」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年日本映画 監督・三谷幸喜
ネタバレあり
「グランド・ホテル」というハリウッド製の傑作群像劇がある。一個所に集まった人々の人生模様を描くグランドホテル形式ドラマの由来となった名作だが、タイトルから見る前から「グランド・ホテル」をコメディー化したような作品になっているのではないかと予想が付く。現に、映画の半ばでオマージュ的解説あり。
新年をおよそ2時間後に控えた某ホテル、副支配人・役所広司とアシスタント・マネジャー戸田恵子、もう一人の副支配人・生瀬勝久が慌ただしく駆け回っている。
売春婦・篠原涼子がホテルマンをかき回し、汚職議員・佐藤浩市がホテルに逃げ込み、議員の元愛人で客室係・松たか子は成行きで大富豪・津川雅彦の息子の前で、その愛人のふりをする。歌手志望のベル・ボーイ・香取慎吾は全てを諦めて辞職するが急遽ホテルの手伝いを依頼され、売れない歌手YOUは最後にマイクを握る。
その他、白塗りの顔で逃げ回る総支配人・伊東四朗、ある協会のマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたものの売春婦と出来ているので証拠隠滅を図ろうと駆けずり回る角野卓三、すぐに絶望して死にたがる演歌歌手・西田敏行などが賑やかす。
いきなり【謹賀新年】を【謹賀信念】と間違える小ネタ(ギャグ)から始まる本作は、シチュエーション・コメディとしての連続性のある笑いに、そうしたギャグが数多く散りばめられている。
シチュエーション・コメディ的な笑いと言えば、通常嘘か勘違いが存在するわけだが、この作品では役所が元の妻で角野の妻になっている原田美枝子に「自分がマン・オブ・ザ・イヤーだ」と豪語してみせたり、たか子嬢が大富豪の愛人になりすます、といった辺りが相当する。小ネタより遥かに可笑しい。
脚本と監督を担当したのは三谷幸喜。
彼は演劇が専門であるから、舞台の良い面を映画に持ち込める長廻しが多用されている。勿論長廻しは様々な危険をはらむので、才覚のない演出家はやるべきではないが、本作では人物がバトン・タッチのように繋がっていく流麗さが目立ち、良い面が強く出ている。
香取のお守り、逃げ出したアヒル、たか子嬢や涼子嬢が狂言回し的に活躍し、多彩な登場人物の交通整理に役立っているが、群像劇で避けることの出来ない散漫さは完全に解消されてはいない。僕はその理由で群像劇が好きではなく、同時にこの作品に期待するところは大きかったが、手堅くがっちりと出来ていることは認めるものの、ニューシネマ以降の群像劇の中で最も評価しているロバート・オルトマン「ナッシュビル」の渦巻く人間模様の迫力には大分及ばない。それでもこれほどの大所帯を処理した手綱さばきは高く評価したいところ。
それにしても白塗りの伊東四朗が出るだけで、その度に席を揺らして笑うおばさん連中は何とかならんかい。
2005年日本映画 監督・三谷幸喜
ネタバレあり
「グランド・ホテル」というハリウッド製の傑作群像劇がある。一個所に集まった人々の人生模様を描くグランドホテル形式ドラマの由来となった名作だが、タイトルから見る前から「グランド・ホテル」をコメディー化したような作品になっているのではないかと予想が付く。現に、映画の半ばでオマージュ的解説あり。
新年をおよそ2時間後に控えた某ホテル、副支配人・役所広司とアシスタント・マネジャー戸田恵子、もう一人の副支配人・生瀬勝久が慌ただしく駆け回っている。
売春婦・篠原涼子がホテルマンをかき回し、汚職議員・佐藤浩市がホテルに逃げ込み、議員の元愛人で客室係・松たか子は成行きで大富豪・津川雅彦の息子の前で、その愛人のふりをする。歌手志望のベル・ボーイ・香取慎吾は全てを諦めて辞職するが急遽ホテルの手伝いを依頼され、売れない歌手YOUは最後にマイクを握る。
その他、白塗りの顔で逃げ回る総支配人・伊東四朗、ある協会のマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたものの売春婦と出来ているので証拠隠滅を図ろうと駆けずり回る角野卓三、すぐに絶望して死にたがる演歌歌手・西田敏行などが賑やかす。
いきなり【謹賀新年】を【謹賀信念】と間違える小ネタ(ギャグ)から始まる本作は、シチュエーション・コメディとしての連続性のある笑いに、そうしたギャグが数多く散りばめられている。
シチュエーション・コメディ的な笑いと言えば、通常嘘か勘違いが存在するわけだが、この作品では役所が元の妻で角野の妻になっている原田美枝子に「自分がマン・オブ・ザ・イヤーだ」と豪語してみせたり、たか子嬢が大富豪の愛人になりすます、といった辺りが相当する。小ネタより遥かに可笑しい。
脚本と監督を担当したのは三谷幸喜。
彼は演劇が専門であるから、舞台の良い面を映画に持ち込める長廻しが多用されている。勿論長廻しは様々な危険をはらむので、才覚のない演出家はやるべきではないが、本作では人物がバトン・タッチのように繋がっていく流麗さが目立ち、良い面が強く出ている。
香取のお守り、逃げ出したアヒル、たか子嬢や涼子嬢が狂言回し的に活躍し、多彩な登場人物の交通整理に役立っているが、群像劇で避けることの出来ない散漫さは完全に解消されてはいない。僕はその理由で群像劇が好きではなく、同時にこの作品に期待するところは大きかったが、手堅くがっちりと出来ていることは認めるものの、ニューシネマ以降の群像劇の中で最も評価しているロバート・オルトマン「ナッシュビル」の渦巻く人間模様の迫力には大分及ばない。それでもこれほどの大所帯を処理した手綱さばきは高く評価したいところ。
それにしても白塗りの伊東四朗が出るだけで、その度に席を揺らして笑うおばさん連中は何とかならんかい。
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