映画評「ゲッタウェイ」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1972年アメリカ映画 監督サム・ペキンパー
ネタバレあり
サム・ペキンパーは暴力とスローモーションの監督である。
1969年の「ワイルド・バンチ」終盤のスローモーション大爆発で人気監督になったが、僕はそもそもスローは余り評価しない。効果的に使う分には良いが、スローは迫力アップと時間の水増しとを同時に出来る、B級映画に便利なツールなので、こればかりに頼る監督は信用しない。リアルのスピードで同じ迫力を出せて初めて力量があると言うべきである。
ペキンパーが実力がないとは言わないが、彼の中でも気に入っている本作ですらアクションの大半がスローになっているのには苦笑してしまう。馬鹿の一つ覚えではあるまいし、何とかしてほしいね。
33年前の映画館での鑑賞を含めてこれが都合三回目の鑑賞。
仮出所したばかりのスティーヴ・マックィーンが実力者ベン・ジョンスンの手配したアル・レッティエリと若者と協力して銀行強盗に臨むが、ガードマンと若者が死ぬ。
裏切ろうとしたレッティエリを銃撃し、約束の金を渡そうとしたジョンスンも殺してしまったので、細君アリー・マッグローと葛藤しながらジョンスン一味から逃げつつ、警察の追及もかわす。メキシコ国境のエルパソのホテルでは死んだと思っていたレッティエリに加えてジョンスン一味に襲撃されるが、見事に撃退、おんぼろトラックに乗って国境を越える。
と、細かい理屈はどうでも良いとばかりに次々とアクションを繰り出すので、多少まだるっこい序盤を別にすると退屈している暇はない。
特に、施錠詐欺で大金をかすめた男を捕まえるまでの列車内における一連の追跡とごみ収集車のなかでの悪戦苦闘など、おとぼけアクションが楽しめる。
前述した通りアクションは例によって例の如くスローモーションの大売り出し。但し、クライマックスのホテルの場面ではスローを使わず、やっと本来のペキンパーの実力を発揮した感じである。残念なことに「ブリット」を観た直後で、そのリアルな迫真性に比べれば作り物の感がなくもない。
ウォルター・ヒルの脚本が上出来。彼は78年に「ザ・ドライバー」というアクション映画の快作を発表して、脚本家・監督として一躍有名になった。「ストリート・オブ・ファイヤー」も名編と言うべし。
リメイク版は、勿論オリジナルのこちらとは勝負にならない。
1972年アメリカ映画 監督サム・ペキンパー
ネタバレあり
サム・ペキンパーは暴力とスローモーションの監督である。
1969年の「ワイルド・バンチ」終盤のスローモーション大爆発で人気監督になったが、僕はそもそもスローは余り評価しない。効果的に使う分には良いが、スローは迫力アップと時間の水増しとを同時に出来る、B級映画に便利なツールなので、こればかりに頼る監督は信用しない。リアルのスピードで同じ迫力を出せて初めて力量があると言うべきである。
ペキンパーが実力がないとは言わないが、彼の中でも気に入っている本作ですらアクションの大半がスローになっているのには苦笑してしまう。馬鹿の一つ覚えではあるまいし、何とかしてほしいね。
33年前の映画館での鑑賞を含めてこれが都合三回目の鑑賞。
仮出所したばかりのスティーヴ・マックィーンが実力者ベン・ジョンスンの手配したアル・レッティエリと若者と協力して銀行強盗に臨むが、ガードマンと若者が死ぬ。
裏切ろうとしたレッティエリを銃撃し、約束の金を渡そうとしたジョンスンも殺してしまったので、細君アリー・マッグローと葛藤しながらジョンスン一味から逃げつつ、警察の追及もかわす。メキシコ国境のエルパソのホテルでは死んだと思っていたレッティエリに加えてジョンスン一味に襲撃されるが、見事に撃退、おんぼろトラックに乗って国境を越える。
と、細かい理屈はどうでも良いとばかりに次々とアクションを繰り出すので、多少まだるっこい序盤を別にすると退屈している暇はない。
特に、施錠詐欺で大金をかすめた男を捕まえるまでの列車内における一連の追跡とごみ収集車のなかでの悪戦苦闘など、おとぼけアクションが楽しめる。
前述した通りアクションは例によって例の如くスローモーションの大売り出し。但し、クライマックスのホテルの場面ではスローを使わず、やっと本来のペキンパーの実力を発揮した感じである。残念なことに「ブリット」を観た直後で、そのリアルな迫真性に比べれば作り物の感がなくもない。
ウォルター・ヒルの脚本が上出来。彼は78年に「ザ・ドライバー」というアクション映画の快作を発表して、脚本家・監督として一躍有名になった。「ストリート・オブ・ファイヤー」も名編と言うべし。
リメイク版は、勿論オリジナルのこちらとは勝負にならない。
この記事へのコメント
スローモーションの賛否については劇画調漫画みたいで私は大好きなんですよー^^;)。でもそういうところがペキンパーの作品がB級の匂いを感じさせ、ゲージュツ系でなく粗野で野獣的な魅力になっているところとも思います。
原作は67年発表で、今回続け様に観た三本より古いですので、直接の影響はないわけですが、アニメ版には影響がないとは言い切れませんね。「ルパン三世」の第2シリーズで、「麗しのサブリナ」のパロディいやオマージュがあったのは忘れられないなあ。
わが老父も「ブリット」のマックィーンを見て「ルパン三世」としきりに申しておりました。髪の毛がショートだからでしょうけどね。
>スローモーション
要は作者がツールに使われないことが大事ですね。ビデオ店に並んでいるようなアクション映画をご覧になってください。アクションと言えばスローモーション。今時ハリウッドの一流会社のアクション映画はスローを使うにしても極少ですよ。尤もその代わりにCGに頼っているか。うーん、困ったものです。
昔の映画がいいのは、細工なしにそのまま撮っているから。この迫力は本物です。
彼が作った他の作品も含めて暴力とスローモーションだけが売りでしたら後世まで(34年後の今まで)残ってはいません。
ウォルター・ヒルのホンをペキンパーの味付けとラッピングで相乗効果5割増し、そしてマックイーンのダンディズムで完結した傑作と思います。
暴力とスローを抜きにしてもキチンと人間模様が的確に演出されています。
きょうGEOに行きましたら暴力とCG&スローのテンコ盛り映画「マトリックス」が1本(ビデオですが)100円でワゴン内に山積み。誰も買いません。生身の人間臭さがあそこには感じられないから、すぐ飽きられるんです。
つづき、あります。
「華麗なる賭け」のリメイク「トーマス・クラウン・アフェアー」を監督したカート・ウィマーの「リベリオン」の感想、お聞かせ願えたら嬉しいのですけれど。
(事前に読まないほうがいいと思いますが)一応、私のは↓に。
http://cms.blog.livedoor.com/cms/article/edit?blog_id=1098504&id=50584770
なかなか辛口の評価ですね。私は、ペキンパーは好きなのでハイスピードはさほど気になりませんが。そんなに多様してましたですかな。
私も「ゲッタウェイ」じゃ3,4回しか鑑てません。最後に鑑賞してから7,8年。ブログしようと思うのですが今一度見直してからと思っています。
バイオレンスの巨匠、ペキンパーとしては、「シンシナティ」で再会を約束したマックィーンですからリキがはいったのでは。
ある意味種類がちがいますけど映画としての完成度は私も「ブリット」のが格段上だとは思います。
参りましたね。書き方が悪かったようですね。多少改善する為に少し書き直しました。
ペキンパーの総評については、<ヒッチコックはサスペンスの神様>と同じ形容であり、それ以上でもそれ以下でもありません。実は私が一番愛するペキンパーは「ジュニア・ボナー」。これは暴力場面もありますが、70年代を代表するほのぼのとした人情の名作。マックィーンも「ゲッタウェイ」より宜しい。
しかし、ペキンパー・ファンと称する人はこの作品を余り評価していないのではないですか? それは世間が彼を暴力の作家であると思い込んでいる証左でないでしょうか。
スローを使わなければアクションを作れないとも言っておりません。問題なのはリアル・スピードできちんと撮れる実力があるのにスローを多用することです。(続く)
ヒッチコック、ワイラー、ワイルダーを10点とするなら、彼は7点くらいであると私は評価しております。タランティーノくらいですね。
それからウォルター・ヒルとの関係。
映画界には昔から「良い脚本からは良い映画と悪い映画が出来る、悪い脚本から悪い映画しか出来ない」という格言があるようです。
その意味で述べると、通常よく出来た作品では脚本の貢献度7割、演出が3割というくらいが常識であると思います。演出の貢献度が5割に達すると(脚本が弱いという意味なので)秀作は難しい。紛らわしいので文章を変えましたが、ペキンパーの演出は飛び抜けてはいずとも悪くないという意味だったのです。脚本をマイナスにしてしまう監督も世間には数多くいるのですから。(続く)
人間臭さについては私が口を酸っぱくして申していることです。ゲームの映画化、例えば「トゥームレイダー」は似たような話なのに何故「インディ・ジョーンズ」より絶対的につまらないのか。それは人間がアクションの要素に過ぎないからです。
作品は傑作扱いの☆☆☆☆です。「ブリット」も同じです。ただスタイルが全然違い、「ブリット」の生々しさのほうがリアルさで優る、という意味でした。映画全体も「ブリット」のほうが好きですね。
ペキンパーについてもそれほど悪口を言っていないのです。
要は「スローモーションを多用する監督には出来の悪い監督が多いが、ペキンパーはそんなことはない、しかし、彼ほどのパワーのある監督が何故かような手段に頼るか」ということでした。
スローはリアル・スピードの描写があるから生きるのであって、スローばかりなら意味がありません。
クライマックスをリアル・スピードで撮ったのは良かったと思います。
ただ、前述のように「ゲッタウェイ」はしばらくみていないので、見直したいと思っています。ではまた。
ペキンパーとの再会は「ジュニア・ボナー」のが先ですね。
失礼。
文章というのは本当に難しいですね。今回つくづく思い知りました。意図とはまるで逆に理解されたのがこれほど多いケースは初めてでした。
なるほどこれでは誤解を受けると思ってやや文章を修正したので、ペキンパーに対する評価は多少上がったように見えるでしょう。
私も、イエローストーンさんと同意見です。私の採点は好き・嫌いは余り反映されていませんので同じ採点になりましたが、撮影・編集に関しては「ブリット」のほうが大分上でしょう。
私も同意見なんです。スローはあまり好きでありません。
演出過剰に見えることが多いですね。
例えば「ヒート」でのラストシーンも少ししらけた感じにさせられたりして。
その他、「MI:2」、「マトリックス」シリーズ、「パトリオット」などなど、挙げたらきりがありません。
それはともかく、本作品は面白い作品でした。(^^)
>スロー
ご同意有難うございます。
適所で巧く使う分には良いのですが、中には垂れ流し的に使って却って効果を失っている映画も少ないです。
本作も最初のうちは使いすぎの感じがしましたが、その後は軌道修正できたようです。
最後はチャップリン映画の幕切れのような印象もありますね。ペキンパー若しくは脚本を書いたウォルター・ヒルがチャップリンについてどう思っていたか知りませんけれど。
「トム・ホーン」を本作前に観ました。
どうやら難産の末に何とかかんとか
作られたらしく劇中のエピソードも尻切れ
トンボでメリハリにも欠けるさみしい作品でしたが
私は消え去る西部劇とそのヒーローの
物悲しさにけっこうしみじみ来ました~。
プロフェッサーはご覧になりましたか?
貴過去記事探しましたがございませんでした。
「ゲッタウェイ」からたったの8年後ですのに
まだ50歳のマックィーン、伝説の男を演じて
おりましたが素人目から見てもあれは
お顔自体が病相を呈してましたね~
ところで本作
コインロッカー詐欺をあくまでもとことん
追い詰める場面やゴミ収集車から(超スローで・笑)
落ちる場面やそしてメキシコへ逃げる二人の
あの小粋なエンディングなどエピソードの連なりも
印象に残るW・ヒルの巧みなホンでしたね~
~追記~
やいのやいの言ってコメントしてますが
よく見ましたら「8点」の高評価ですのね。
なんとなく嬉しい・・です。
>「トム・ホーン」
観ていますが、四半世紀以上も前なので記事にもしていませんし、記憶も定かではないです。
仰る通り出来栄えは余り芳しくなかったと思いますが、死後観たのでじーんとしましたね。
>病相
何だか恐ろしい話がありましたよね。
ジョン・ウェインもマックィーンも“あそこ”で撮影したから癌になった云々。
十瑠さんによればアスベストによる肺がんとか。これも人災・・・
>W・ヒル
脚本としては本作が恐らく一番良いのでは?
WOWOWで「ロング・ライダース」やりますけど、録ろうかなあ。どうしようかなあ。
>「8点」
そうですとも。
昨今の、こういうストレートな犯罪映画(そもそもストレートな犯罪映画がない^^;)でこれほどの作品がありますかってんだ(というのは双葉師匠の真似ね^^)。