映画評「ボウリング・フォー・コロンバイン」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2002年カナダ=アメリカ映画 監督マイケル・ムーア
ネタバレあり

2004年の映画鑑賞メモより。

2003年度のアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したマイケル・ムーアのドキュメンタリー。快作である。

90年代の半ば米国はコロラド州のコロンバイン高校で生徒による乱射事件が発生した。

ドキュメンタリー作家ムーアはこの事件をモチーフに何故世界においてアメリカだけ射殺事件が異常に多いのか探っている。最初は、インディアンや自ら連れてきた奴隷達即ち黒人への恐れから銃に頼るようになり、その結果銃の保有率が圧倒的に高いのではないかと推察する。が、年間数百件の射殺事件しか発生しないカナダの猟銃保有率はアメリカよりも高い70%であることを知り、それだけが原因でないことに気付く。

ここで興味深かったのがトロントの住民が鍵をしないということである。泥棒に入られた経験のある人も決して鍵をかけないのである。わが国も30年位前はそういう状態だったが、現在ではこんな田舎でも鍵なしではおちおちと寝てもいられない。

さて、そこで何が問題なのかということで、過激なパフォーマンスで知られる歌手マリリン・マンソンにインタビューを敢行、彼の意見をヒントにマスコミ誘導説に辿り着く。ここ数年射殺件数が減っているのにマスコミの報道件数は数倍にも増えているというのである。数字的な裏打ちもあり、かなり説得力がある。

そして最後は全米猟銃協会(NRA)会長のチャールトン・ヘストンへのインタビュー。
 ムーア自身NRAの会員ということで最初は談笑したヘストンもコロンバインの事件の翌日に出かけたことを訊かれると明確な答弁が出来ず、席を立ってしまう。「ベン・ハー」で雄姿を披露したビッグ・アクターの後姿にしてはいかにも侘しいものを感じる。
 外圧に怯える米国人の象徴。<虎の威を借る狐>という諺を思い出す。

そして、名曲「この素晴らしき世界」に乗って米国の暴虐が画面いっぱいに広がる皮肉。ユーモア精神もあり、お見事である。
 マスコミを批判しながらマスコミを利用しているという説もこの作品の評価を貶めることはできない。彼はマスコミの威力を知っているだけのことだ。

この記事へのコメント

ぶーすか
2006年10月22日 07:47
御指摘の通り、マスコミを批判しながら上手くマスコミを最大限に活用している作品で、手腕の鮮やかさが素晴しいです。チャールトン・ヘストンは、今までもそれほど好きという役者ではなかったのですが、この作品でかなりイメージダウンしました。<虎の威を借る狐>という表現はピッタリですねー。
オカピー
2006年10月23日 01:00
ぶーすかさん、こんばんは。
予想以上に完成度が高く、殴り込み精神も良かったですね。
ヘストンはスペクタクル向きの数少ない役者で嫌いではなかったですが、この作品を観る大分前にNRAの会長と知った時に幻滅しました。この作品を観てその意をさらに強くしましたね。

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    Excerpt: ●ボウリング・フォー・コロンバイン ★★★★ 【NHKBS】マイケル・ムーア監督がアメリカ銃社会を厳しく批判したドキュメント。マリリン・マンソンやチャールトン・ヘストンへのインタビューに「サウスパーク.. Weblog: ぶーすかヘッドルーム・ブログ版 racked: 2006-10-21 17:11