映画評「ローズマリーの赤ちゃん」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1968年アメリカ映画 監督ロマン・ポランスキー
ネタバレあり

ポランスキーづいているので、ついでに。2004年の映画鑑賞メモより。

四半世紀ぶりの再鑑賞。

ニューシネマにも色々あるわけだが、ポーランド出身のロマン・ポランスキーがニューヨークを舞台に作り上げたこのホラーも勿論ニューシネマの代表作と言って良い。

それまでの恐怖映画はポーの小説の世界を映像化したような幻想的な感覚で構成されていたが、本作はニューヨークのど真ん中に悪魔がいて、しかも家来どもは悪魔族として日常生活を営んでいる。
 ヒロインのミア・ファローが妊娠して喜ぶのも束の間、売れない俳優である夫ジョン・カサヴェテスもどうやら悪魔族であるし、やっとたどり着いた頼りになるはずの医師も蓋を開けてみれば悪魔族だった・・・という辺りの恐怖はそれ以前の作品ではなかなか味わえない凄みのある恐怖である。

こうしたリアリティーの中に悪魔を描いたポランスキーの才覚。深く追求していけば彼の戦争中の悲惨な体験にまでたどり着くが、ここはそれを語る場所ではあるまい。
 5年後に発表されるウィリアム・フリードキンの秀作「エクソシスト」の見事なリアリズムもこの作品の存在なしには語れないし、恐らくこの作品の空気を凌ぐものではない。

この記事へのコメント

chibisaru
2006年10月27日 19:27
こんばんは。
滅茶苦茶怖かったです。めずらしく他の人にもわかるような絶賛の記事を書いていますが、べた褒めしてます。(笑)
もうとにかく怖くて怖くて、こういう精神的に追い詰められていく空気を描ききっているのは素晴しいと思いました。
オカピー
2006年10月28日 01:20
chibisaruさん、こんばんは。
この映画の前にはこういう恐怖は殆どなかったですね。私はニューシネマ時代に映画を観始めた世代ですが、TVで古い時代の作品も並行して観ていましたから、その差が如実に解る、60年代末から70年代前半は面白い時代でしたなあ。
ポランスキーはその場所の空気を捉えるのがうまい人ですし、ムードやサスペンスの醸成も上手い。怖かったですが、楽しめもしました。
シュエット
2008年04月19日 22:20
先ほどヴィスコンティの「ルードウィヒ」記事アップして、P様レビューあげてられるかなってきて、これ見つけたので。
これ学生時代に観てからずっと好きな映画です。ニューヨークの町を風が吹き渡るみたいなカメラワークでそこに音楽が流れて、メロディも良かったし、いまでも口ずさむ。ミア・ファローの雰囲気にとてもマッチしたメロディ。オカルトっぽくなりそうだけど、きちんと人間ドラマとして描いているし、最後のミア・ファローがみせる母性愛。微笑。カサベテスは演技は硬いですね(笑)。でもこれのおかげで彼は自主映画作れたんですからね。そしてミア・ファローはこの映画でシナトラと離婚した(笑)。これはミア・ファローの存在感がふわふわんとした雰囲気あっての作品ともいえますよね。この映画で彼女のファッションとか新居のインテリアとかも楽しんだ作品です。ホラーっぽいけどホラーではない。とっても素敵な映画です。
オカピー
2008年04月20日 02:21
シュエットさん、こんばんは!

>ヴィスコンティ
はまだ二本だけではなかったかなあ。ちょっとブログの時代には遅かった。そのうちまた鑑賞しますよ。
フェリーニに至っては0。時代が・・・(笑)

68年と言う年はアメリカが激変した年でもありますよね。政治は勿論、恐怖映画の流れもこの一本で変わった。
「エクソシスト」のNYの空気も良いけど、この作品のNYの空気感は抜群でしたね。

>シナトラ
そういうことです。

>ホラーではない。
ホラーでもありますけどね(笑)。
やはり彼がナチスに実際に追われたユダヤ人ということも念頭に置いて観たい作品です。
「エクソシスト」にしても派手な部分ばかり取り上げられ、本質はすっかり忘れられてしまい、やがてホラーは深みのない粗雑なジャンルになりましたね。
シュエット
2009年03月04日 11:51
TBもって2度目のお邪魔です。
TBしようと思ってお邪魔して、ここに来る前にあちこちお邪魔してしまってます。お時間とらせて申し訳ないです。
先日ポランスキーの「チャイナタウン」の記事アップに続いて、大好きな本作の感想をアップできました。記事かくにあたりもう一度見たら、オープニングから好きだなってつくづく思いました。
ストーリーよりも、それも素晴らしいんですけれど、ポランスキーって「チャイナタウン」とか初期の作品みていても思うんですけど、映像で語るっていうか彼が描き出す映像感覚に惹かれてしまう。
シュエット
2009年03月04日 11:59
>ポランスキーづいているので、ついでに。
「チャイナタウン」はレビューあげてられない?
ポランスキーとは違うけれど「炎のランナー」も? レビュー読みたいわ。
オカピー
2009年03月05日 02:21
シュエットさん、トラコメ有難うございます。

>彼が描き出す映像感覚
僕は空間把握と言っているのですが、余り評判にならなかった「フランティック」辺りの空気感、空間把握は凄かった。

>「チャイナタウン」
昔の映画評で良ければいつでもUPできるのですが、文章の品質が悪い(笑)ので、後日鑑賞して書きおろしましょう。まだHDDに残っているんですよ。

>「炎のランナー」
これも同様ですが、素晴らしい作品でしたね。
こちらは自作DVDがあると思ったなあ。
モカ
2019年07月06日 15:06
先日、久々に観ました。50年ぶり・・・ 当時おバカな高校生だったので、悪魔の赤ちゃんが一瞬映るとか、映らないとかの噂を耳にし見に行ったのでしょうね。怖い場面として覚えていたのはミア・ファローが最後に隣の家に乗り込んでいったら普通の人たち(悪魔族)が普通にニコニコしていたところですね。
あれは怖かった!  普通の人が怖いのがショックでした。
今の視点で観ると、そこも怖いんですが、これは妊婦さんは視聴禁止物件ですね。絶対気持ち悪くなりますよ。今はCTでいろんなことがわかる時代ですが、やはり自分の体内でもう一人の人間が育っていくって、未知の世界ですもの。妊婦経験者(この記憶も忘却の彼方ですが)としては、もう初めからずっと怖くて、何回かに分けて観ました。 ミア・ファローがとっかえひっかえ可愛いお洋服に着替えるので、悪魔族はよほど悪いことして稼いでるなぁ、と変なところで感心したり。観て良かった!面白かった!
オカピー
2019年07月06日 21:21
モカさん、こんにちは。

>普通の人たち(悪魔族)が普通にニコニコ
>していたところですね。
>あれは怖かった!

そこがニュー・シネマで、僕が「ジョーズ」のサメが怖いのが当たり前すぎて「激突!」ほど怖くないと言うのとほぼ同じことでしょうね。

>妊婦さんは視聴禁止物件ですね。
そうでしょうねえ。
自分の体に自分とは違う人間が育っているというのは、考えてみると、とんでもないことですね。それ自体が既に怖い。今更ながらそう思わされました。
いつかそういう感覚で観てみましょう。
mirage
2023年10月05日 22:49
こんばんは、オカピーさん。

この映画「ローズマリーの赤ちゃん」は、現代のニューヨークを舞台に正攻法の表現技術で、観る者を震撼させるオカルト映画ブームの先駆けとなった異色のホラー映画だと思います。

この鬼才ロマン・ポランスキー監督の「ローズマリーの赤ちゃん」は、魔力や超自然界の凄まじさを恐れる気持ちが正直に出ていて、現代人の弱点を衝いた狡猾なドラマになっていると思います。

原作は、アイラ・レビンが書いた同名小説で、これが当時ベストセラーになったというのも、アメリカ人の弱みを立証したようなものだが、それをまた、ヨーロッパから監督を招いて映画にしたのも賢明で、どちらかと言えばイギリス臭い恐怖映画になっていると思います。

物語は、ニューヨークの裏街で、若い夫婦が貸間探しをする情景からはじまる。
案内の管理人とのやりとりで、夫はまだ芽の出ない舞台俳優だが、妻は彼に頼りきっている、といった状況であることがわかる。

公平にみて、この陰気で古めかしい部屋は、若やいだ二人に似つかわしくないが、二人は拾いものといった気持ちで借りることになる。

前の住人が変人でもあったのか、戸棚でドアを塞いだりしていたのも気になる。
実は、これがポランスキー監督の作戦で、些細なところに気がかりなものをはめ込んで、不安の陰を少しずつ広げていくんですね。

そして、ただならぬ気配がはっきりしてくるのは、同じアパートの同居人が、飛び降り自殺をしたことで、妻のローズマリーにとっては、その朝知り合ったばかりの隣室の美人だったことが驚きを募らせるのだった。

しかし、我々観る者を驚かすのはその次で、自殺した女の同居者である老夫婦の登場だ。
人だかりの中に横たわる血だらけの自殺者の顔を、外出帰りの老夫婦がのぞき込んでみる時、顔色一つ変えないのが、どうみてもただごとではないんですね。

好人物だが、厚かましいこの老夫婦を、ローズマリーは好かないが、夫のガイは気が合うらしく、しきりにつき合うようになる。
それを、おかしいといえばおかしいが、当たり前とみれば当たり前、といった調子で描いていくのが、なかなか堂に入ったテクニックですね。

そして、二人の生活に、少しずつ変化がみえてくる。
ペンキを塗り、壁紙を貼りかえ、カーテンをつけてと、陰鬱な部屋がパッと明るくなるのも、若夫婦の丹精がこもって愛らしく、隣室とは音が筒抜けだった構造もわかって、塞いだりするのだった。

しかし、隣の夫人がくれたペンダントは、自殺した女の付けていたものだし、それが妙な臭気を発したり、時々、隣室からうめき声の合唱のようなものが聞こえたりして不気味なのだ。

ガイは、競争相手が突然、盲目になり、その代役がまわってきて運が開けるが、次第に無口になっていくのだった。
やがてガイは、子供をつくろうと言い出し、ローズマリーは激しい悪夢にうなされた一夜を過ごすのだった。

獣に襲われたような、この夜の無意識の恐怖を、異様な映像を織り込んで描かれるのだ。
私は容易に、ロマン・ポランスキー監督の「反撥」の中の、似たような悪夢の場面を連想してしまった。

ロマン・ポランスキー監督は、「水の中のナイフ」でデビューしたポーランド出身の映画監督だが、いわゆるポーランド派とは全く異質だ。
同じポーランド派のアンジェイ・ワイダ監督らと、はっきり違う世代の監督なのだ。

「水の中のナイフ」などを観ると、この映像作家が、一見異様な表現のうちに、単純で強烈な発言を望んでいることがわかる。
ポランスキー監督は、このアメリカでのデビュー映画「ローズマリーの赤ちゃん」の直前に、イギリスで「吸血鬼」を撮っている。

「反撥」からのイギリス時代は、ポランスキー監督にとって恐怖映画の新しい試みによって塗りつぶされたわけだが、確かにそれだけの才能が磨かれていると思います。
もともと、好きなジャンルらしいが、その才能を育てたのはやはり、イギリスのニューロティック・スタイルに違いありません。

この作品を観ても、イギリス流の気取りと底意地の悪さがみえて、かえって、そうした表現が、ハリウッド映画界に新風を吹き込んだのだと思います。

そして、この作品が、恐怖映画としての本領を発揮するのは、むしろ後半からなんですね。
主人公が妊娠し、老夫婦の知る産科医にかかることになり、夫人からは薬草を押し付けられ、次第に体が衰弱していくのだった。

びっくりした友人が相談にのってくれようとするが、不慮の事故に遭ってしまう。
そして、その友人から託された一冊の本が、彼女の漠然たる疑問を確信へと導いていくことになる。

これまでは、偶然とも思えたさまざまな不審な出来事が、たちまちにして「魔女のしわざ」という一貫した因果関係に繋がってみえるのだ。

魔女とは何なのか、あまり騒ぎの起こらない日本ではピンとこないが、箒に馬乗りになった老婆の絵には、幼児の頃から馴染んでいる西欧の人々にとって、それは半分は、邪教のように愚かしくみえながら、あとの半分ではやはり、祟りを恐れる気持ちを捨てきれない恐怖の対象であるわけだ。
日本でも昔は、お狐さまのように、かなり勢力をはびこらせた魔ものの類があったが、今はすっかり影が薄い。

そういう彼我の違いのために、魔女を扱った映画を、これまでにも再三観たものの、やはり対岸を眺めるような感じが否めなかった。

この作品にも、それはある。ことにラストの、ローズマリーが自分の腹で生まされた悪魔の子を、奪い返そうと隣室へ乗り込んでいくあたりには、はっきりそれが感じられる。

あの黒ずくめの儀式は、確かに不気味には違いないが、どうしても邪教の異様さだけで、妖気までは感じとれない。
原作の小説が、ベストセラーになった裏には、欧米人の感覚が、これを戦慄的な妖気と感じる下地があるのかも知れません。

それにしても、この作品は、観る者を震撼させる表現技術が、実に堂々とした正攻法で、妙なケレンを用いていないのが面白いと思いす。
これはポランスキー監督が、イギリスで鍛えた技法のせいでしょう。

特に、この作品では、一向に何でもないとも解釈できる余地を、あくまでも残しながら、悪魔を信奉する一団の人たちの、その信奉の凄まじさを見せることで恐怖感を誘う、その中途半端のうまさが見ものなのだ。

ミア・ファローが演じたローズマリーは、難役で悪戦苦闘しているが、夫のジョン・カサヴェテスが演じた夫のガイは、とぼけた深刻さを実にうまく表現していたと思います。

とにかく、人物設定が良いせいもあるのだろうが、隣の老夫婦を演じたシドニー・ブラックマー、ルース・ゴードンをはじめ、サバステーン博士に扮したラルフ・ベラミーなど、いずれも曲者らしさを巧妙に発揮していたと思います。
オカピー
2023年10月06日 18:05
mirageさん、こんにちは。

>どちらかと言えばイギリス臭い恐怖映画になっていると思います。

そうですね。
ポランスキーはホロコーストを知っている人間ですから、その恐怖の底には、常にナチズムへの恐れがあると思います。

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  • #278 ローズマリーの赤ちゃん

    Excerpt: 製作:ウイリアム・キャッスル、ドナ ホロウェイ 脚本:ロマン・ポランスキー 監督:ロマン・ポランスキー 原作:アイラ・レヴィン 撮影:ウィリアム・A・フレイカー 音楽:クシシュトフ・コメダ .. Weblog: 風に吹かれて-Blowin' in the Wind- racked: 2006-10-27 19:21
  • 「ローズマリーの赤ちゃん」

    Excerpt: ROSEMARY'S BABY 1986年/アメリカ/137分 監督: ロマン・ポランスキー 製作: ウィリアム・キャッスル 原作: アイラ・レヴィン 脚本: ロマン・ポランスキー 撮影: .. Weblog: 寄り道カフェ racked: 2009-03-04 11:52